銀糸のチュニック
「もちろんスタッフでもブックでもないロッドだからと腐ってはいかんがな。むしろロッドの方が常識と個性を持っておる者もおるし、一概にはいえんのじゃ」
そういえばレナさんはロッドクラスだったな。
魔力は低かったかもしれないが、知識は相当なものだ。
魔力の低いロッドだからと言って侮れる相手でも無さそうだな。
何より実戦で戦うのだけが魔法使いではないだろう。
新たな魔法の発明とか、魔法関連の技術の発展……そういった研究者の道に進みたい魔法使いだっているだろうしな。
どのクラスも一長一短がある訳だ。
「最初から全てを出来る必要はないがの。スタッフもブックもロッドも例外無く、学園はそういった物を学ぶ場所なのじゃからな」
と、シュタイナー氏は良い話風にまとめた。
つまり、どのクラスの生徒も学園の手の平の上って事か。
ちなみにスタッフの授業は一般教養に力を入れているらしい。
試験の失敗から学ぼうという奴だな。
「ほっほっほ、スタッフがブックを超えるエリートクラスなのは事実じゃぞ?」
「……」
「卒業間近のスタッフは本物の一流と言えるじゃろうな」
それって途中から入ったブックやロッドが含まれるじゃないか。
しかも入学時スタッフに割り振られた生徒の大部分が脱落する事になる訳で……。
「懐は深いけど、容赦の無い所があるんですね」
「そうじゃな。これもまた世の中じゃよ。しっかりと学べば成功する可能性、生き残れる確率も上がるのじゃ。チドリ殿が内緒にしてくれる事を祈っておる」
これは確かにリーサにも教えられないなぁ。
リーサが落ち込んでいるから、思わず話してしまいそうな衝動に駆られる事になるだろう。
けれど、リーサの成長を考えると話す訳にもいかない。
何よりリーサが仮にスタッフクラスに入っていたらと考えるとちょっと怖い。
周囲の影響を受けて冒険に行きたがる様になったかもしれない。
色んな意味で、リーサはブッククラスでよかったんだな。
「色々と教えてくれてありがとうございます。それじゃあそろそろ帰りますね」
「うむ。いつでもワシに会いに来てくれ」
と言う訳で俺はシュタイナー氏に挨拶を終えてリーサ達の元へと戻ったのだった。
「……」
「…………」
沈黙が重いなぁ……。
孤児達を院まで送ってからレナさんと別れて家路に着いている訳なのだけどリーサが無言だ。
間違いなくスタッフクラスになれなかった事を落ち込んでいるんだろう。
下手な慰めは逆効果になりそうだし、かといって無視するのもなんか嫌だ。
シュタイナー氏から聞いたブックとスタッフの話を知らなかったらもっと楽に接する事が出来たのかと思うとまた違う。
思わずブックの方で良かったんだよ、と話してしまいそうになる。
けれど言えない。
シュタイナー氏が秘密と言っていたからというのもあるが、リーサの為にも言ってはいけない事だ。
けど、良い事を秘密にしていなくちゃいけないって結構苦しいな。
うーん……。
俺も昔、日本から異世界召喚された時に才能が無いって戦力外と認識された身だ。
気持ちはわかるつもりだ。
けれど……リーサ、エリートクラスに振り分けされた君はとても贅沢な事を悩んでいるんだよ。
と、注意は出来ない。
その気持ちをバネにしてより精進してもらうのが、学園の狙いなんだし。
とりあえず……リーサ自身が心の整理をする時間は必要だとは思うけれど、言う事やする事はしても良いかな。
事実、ブックになれた事だって十分に凄い事だ。
「リーサ、予定通り合格したんだから学校で使う品とか色々と買って帰ろう」
「……はい」
さて、ここでリーサを励ますのに良い話題は沢山ある。
「ブッククラスなんだ。学費も結構免除される訳だから当初の予定通り良い物が用意出来るよ」
ブックから一応特待生枠に近い感じで学費がロッドよりも大きく安くなる。
補足するとシュタイナー氏やレナさんの話ではスタッフと学費の違いはほとんどない。
本当、競わせるためのクラス分けなんだな。
ともかく、シュタイナー氏が勧誘してきた時に確認を取った金貨40枚相当の金銭で三年間は余裕で生活できる。
俺のこれからの稼ぎとか魔石の売却を合わせると、それなりに贅沢な暮しをしたって良い感じだ。
デスペインの行軍騒動の報酬なんかも合わせてね。
だからリーサの勉学の為に良い物を用意できる。
「じゃあ、さっそく行こうか」
「はい」
さすがにいつまでも引き摺っていられないとリーサも顔を上げて、無表情なりにやる気を見せる歩調をしている。
けれど……絶対気にしてるんだろうな。
まだ短い付き合いだけどリーサはそういう子だ。
失敗をしたら次は絶対にやらない。
再挑戦も重要なのにそこで怖気づいてしまう。
そんな子なのは分かる。
平気な振りして気にしている。
ここはリーサに失敗を恐れたりしないように教えていくのが大事だ。
どうにかして教えてあげたい。
なんて思いながら、俺は数日前にお願いしていた入学祝いを取りに魔法使いの道具を扱う専門店へと足を運んだ。
「いらっしゃい」
店員の魔法使いの衣装を着た……魔女っぽい人が出迎えてくれる。
「あら? 確かチドリ様ですね」
「ええ」
数日前に顔を出して注文しているので、あっちも覚えてくれていたようだ。
ちなみに羊皮紙等の筆記具も各自が用意したり、学園にある売店で購入したりするらしい。
ここで扱っているのは杖や衣服、帽子とかだ。
「以前お話した様に、今季リヴェル魔術学園に入学する事になったこの子の衣装をお願いして良いですよね?」
「ええ、もちろん。合格出来たのね。おめでとう。貴方は?」
「リーサ……」
「リーサちゃんね。どう? 魔術学園では何のクラスになったのかしら?」
「……ブック」
「まあ! ブック! という事は優秀なのねー! となるとブックに相応しい格好にしなくちゃね!」
と魔女風の店員が張り切って店内の奥へと行き、俺が注文していた衣装を持ってきてくれた。
魔法の力を高める銀の糸が編み込まれたチュニックだ。
若干貴族が着る様な良い感じのデザインでもある。
これに学園支給のローブを羽織る感じで通学兼実技に挑む感じだ。
色合いもリーサに似合うように白と青系で統一してもらった。
「この服を着ると集中力が増して魔力を増幅する効果があるのよ。魔術学園の授業をやり遂げるのにこれ以上無いってくらいの一品ね。魔法防御も随分上がるのよ?」
ちなみに衣服の名前は銀糸のチュニック。
結構値が張る装備だけど今の俺とリーサの貯蓄なら買えない物じゃない。
「どうかな?」
「……こんなに良い物を?」
リーサもイストラで生活を始めて長くなってきた。
その影響である程度、物の価値がわかってきている。
だからこれがそれなりに値の張る物だとわかった様だ。
「無理はしていないよ。それと……」
「はい。もう出来上がってますよ」
もう一つ注文していた品を魔女っぽい人が取り出して見せる。
それは一本の杖だ。
「中々良い魔石を持ちこんでくれてこっちも良い仕事ができましたよ」
「いえいえ」
「素材はヨウヒイを使い、魔力の通りの良いように溝と文字を彫りこんで魔石を媒体にした一品ですよ」
「ちなみにリーサ、魔石はパープルトロンボ-ンオウムの魔石を使ったんだ」
ちょっとサンダーソードに使っていた所為で□が■に変わってしまった中古魔石になってしまっているけれど、良いはず。
とにかく、この杖の名前はトロンボーンオウムの杖って事になるらしい。
「詠唱の短縮が出来て、魔力の通りも良い凄い杖よ」




