魔法使いに必要なモノ
言われてみれば確かにそうだ。
なんかああいった試験だと、より威力の高い魔法を使って的を壊した方が評価が良くなるようなイメージがある。
けれど魔力は前の試験で既に調べられている訳で。
既に魔力を計られている以上、威力の高い魔法を見せる必要はないのかもしれない。
そして実技試験で標的になっていた的は小さめだ。
弓の的としても小さい方だろう。
つまりあの的で想定される標的は小型の魔物という事になる。
そんな相手に使う手段としては、あの威力は不適切だった様に感じる。
「この学園に来る者は魔法使いを志す者じゃ。魔法は力であり知識、知恵でもある。パーティーの知能を司る魔法使いがそのような事では話にならんと言う事じゃ」
確かになぁ……さすがにそんな馬鹿な真似をするとは思いたくないけど、あり得ない話でも無い。
俺のサンダーソードは味方と敵の区別がつくけれど、その判別が出来ない魔法だってあるだろう。
魔法じゃなくても弓矢で味方に誤射してしまった、なんてありがちな話だ。
遠距離攻撃最大の悩みだろう。
「魔法使いならば、説明されずとも意図を読み取る力が必要になる」
つまりあの試験では、そういう所を調べられている、と。
……そうか。
だから最初の試験は魔力『検査』ではなく『試験』なのか。
受験者全員に情報は開示されているんだ。
「チドリ殿はその点でいえば合格じゃな。魔法が使えなくとも弓矢で的を当てたじゃろ」
「ええ」
「つまり己の力量や状況を正しく分析出来ておる。まあ、魔力判定であのような結果を出してしまっては、スタッフクラスの可能性はあるがの」
赤か青で、紫と黄色を出しちゃいましたもんね。
あれはどういう装置なんだろうか。
「別に俺は入学はしませんから」
「ほっほっほ」
「笑って誤魔化さないでほしいんですけどね」
本当、俺は入学する訳じゃない。
警備員として時々お世話になるだけだ。
どうも入学させようとしているんじゃないかと今日の出来事で勘ぐってしまう。
リーサがしっかりと教わって、俺に教えてくれるだけでも十分だ。
「ともかく……つまり、資質は高いけどブックに所属させるには厳しい受験生がスタッフにクラス分けされるって事なんですね」
「大まかにはそうなる。資質はあっても、分析能力の劣る者、常識の欠落した者、人格に問題がある者、力の制御が覚束ない者、入学の必要を疑う者、などじゃな」
いや、それって問題児クラスって扱いなんじゃないのか?
よくもまあエリートクラス扱いに出来るもんだ。
……そういえば。
的を壊している生徒達を鼻で笑っていた生徒が居たのを思い出した。
なんで笑ったのかと思ったが、シュタイナー氏の話を聞くと事情が変わってくる。
あの生徒はこの事を事前に知っていたのか?
……微妙なラインだ。
魔法使いはその性質上、知性を重視する傾向があるからな。
シュタイナー氏の言葉通り、瞬時にどういう意図があるのかを見抜いた可能性もある。
もちろん、単純に負け犬の遠吠えという場合もあるだろう
「無論、それ等を理由に嗤笑しようという訳ではないぞ? スタッフクラスの者には魔法の理論や実技よりも前に学ばなければならない事がある、というだけの事じゃ。その分の講義がブックとの差異じゃな」
なるほど。
行なわれる授業に差があるからスタッフ、ブック、ロッドと分けている、と。
確かに現時点で魔法を使えない者と高度な魔法を使える者を同じクラスに置いておくのは困りそうだ。
幅広く生徒を受け入れている弊害って奴だろう。
そうなると授業内容によって生徒を割り振るのは自然な流れだ。
「後はそうじゃな……時々おるのじゃが、魔法使いとして大成せず、世を捨てて地方に行った者が偶然見つけた才能ある者を学園に入学させ、評価を得ようとする……なんて事もあるのう」
あの年頃の子が魔法を使えるのは、誰かに魔法の使い方を教えられた場合がほとんどなんだそうだ。
まあ、独学で魔法を覚えたなんて奴は少ないだろうし、当然か。
リーサも最初は水龍の腕輪を介してしか魔法を使えなかったけど、シュタイナー氏に教えてもらってからみるみる上達したもんな。
「えーっと……有能な弟子を紹介して自らも舞い戻る感じですか?」
俺の師匠は――さんなんだ! みたいな。
別に悪い話じゃないように思えるんだけどな……。
マンガとかラノベとかネット小説か、割とありふれた展開だろう。
むしろ主人公とその師匠の関係に近い気がする。
「そういった者は向上心はあったが、残念ながら努力が実を結ばなかった者が多い。故に弟子の才能に歓喜し、理論重視な方針である事が多いんじゃ」
「なるほど」
そりゃあ毎年無数に卒業生を出す訳で、在学中は元より、卒業後もパッとしなかった人が、偶然才能のある弟子に出会って教える機会もあるだろう。
どれだけ魔法の才能があっても、普通の人間は自分の魔力がどれ位なのか知る機会はほとんど無いんだしな。
そういった埋もれている才能があったとしても不思議じゃない。
親心的には成功してほしい。
俺も魔法の心得があったら教えるだろうし、リーサがラルガー流に興味があったら少しは教えるかもしれない。
……俺も型は大体知っているけど成功するのは第五の型までなんだよな……。
ただ、シュタイナー氏の言いたい事はまた別な所な気がする。
たぶん、あれだ。
それだけの才能があったら……と考えて、才能を持つ者に……自らの弟子に、自分が出来なかった事をさせてあげようと善意で学園に入学させて、入学時に思った願望を押し付けてしまうのかもしれない。
それが的を破壊する程の威力の高い魔法とかなんだろう。
ただ、これはパーティーで戦う事が出来る魔法使いではない。
「そう言った者達は確かに同世代よりも魔法の扱いに秀でているかもしれん。じゃが、彼等が魔法使いを志すのであれば、その間違った教えをを正さなければならん。常識が欠落した、しかし魔力の高い者を不合格にして野放しにするのまた、学園が望む事ではないからのう」
まあ、確かに。
魔力が高い以上、その中から成功する者が出て来る可能性が高い。
変な恨みを持たれて悪口を風聞されるのも面倒そうだ。
そして、魔力の高い常識の欠落した者を野放しにして、そういう奴ばかりになったら魔法使いという職業のブランドにも影響を及ぼす。
如何せん魔力が高い事がネックになっているって事だな。
「筆記試験は……まあ、魔法関連はそこそこなんじゃが、常識問題で大きく躓く者も多い。我々魔法使いは魔法だけ出来ているだけではダメなんじゃよ」
魔法使いも大変なんだなぁ。
頭を使う職業の大変さって奴だろうか。
「魔法は大きな力じゃ。所属するパーティー内で一番の凶器を持っているという自覚も必要じゃな」
魔法最大の長所はその攻撃力だ。
凶悪な魔物を倒すには威力の高い攻撃……魔法が必要な局面も多い。
瞬間的な攻撃であれば弓でも問題ないしな。
弓矢よりも遥かに高い攻撃力が魔法の長所とも言える。
けれど、先程シュタイナー氏が話した様に、パーティー内で一番の凶器は味方に向けられる可能性も秘めている。
弓矢と違って取れる手段も多い。
威力が高く、汎用性にも優れる。
だが、高威力の魔法を闇雲に撃てば良いという訳でもない様だ。
要するに、魔法使いには戦う魔物によって魔法を使い分ける事の出来る知性が必要なんだろう。
「後は人格等を面接で見て、最終的にクラス分けをするんじゃ。大成する者もいるが、落ちぶれる者、戦死する者も多い。それがスタッフじゃな」
魔法に詳しくても常識を知らなくては話にならない。
知識を司る者、大きな力を持つ者が常識に疎いと困るという事だろう。
耳に痛い話だ。
俺はこの世界の常識に激しく疎いしな。
考えてみれば、創作物の主人公が騒動にばかり巻き込まれるのは、こういう意味があるんだろう。
起こるべくして起こったとも言える訳だ。
俺も常識のわからない異世界に来てから、以前に比べて騒動に巻き込まれる頻度が上がった気がするしな。
ここに大きな力……サンダーソードが加わったら……。
「……俺もスタッフクラスになりそうですね」
自惚れている訳じゃない。
けれどシュタイナー氏の言わんとしている事がわかった気もする。
「チドリ殿は大丈夫じゃろう」
「どうでしょうね……」
ちょっとへこむ。
なんせこの前のデスペインの行軍だって、シュタイナー氏が激しく止めようとしたのを無視した。
結果的に勝てただけで、勇気と蛮勇を履き違えた行動に思われたって何の不思議でもない。
反省しないといけないな。
「それで……スタッフにはブックの競争相手になってもらっている、実は当て馬って奴ですか?」
シュタイナー氏は人格者だと思っていたけれど、中々に黒い部分を持っている。
いや、まあ、学園の方針なんだろうけどさ。
「言い方は悪いがそう言われても否定はせん。ブックはブックで傲慢にならん様に、スタッフはスタッフで油断できないライバルであるブックと研鑽する様に。それがこの学園の方針じゃな」
その後の補足で教えてくれたのだが、受験生が卒業までに死んでしまう事は珍しくないそうだ。
冒険に行って帰ってこなかったなんて話はそこかしこに転がっている。
それは魔術学園の生徒だけの話ではない。
けれど、特にスタッフクラスの生徒はその傾向が強いらしい。
……たぶん、高い魔力を持っているという自信が影響してしまうのだろう。
思い通りにならないのなら実戦で証明して見せる、とかな。
ただ、失敗するだけで済むなら良いが、戦いにおいて失敗は死を意味する事もある。
勇気のスタッフだったか。
言い得て妙だな……勇気=命知らず、という風にも聞こえる。
生き残った優秀なスタッフの生徒だけが一流になる的な感じかぁ……。




