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印象操作

「ふー……」


 学園内でシュタイナー氏が向かった方角を追いかけると、丁度後ろ姿のシュタイナー氏を発見した。

 ある一室に入って行ったので、軽くノックして名を名乗ると快く迎え入れてくれた。

 どうもいろんな書類のある部屋のようだ。

 シュタイナー氏は俺を部屋に招くと椅子に腰かけて疲れたとばかりに声を漏らす。


「どうじゃったかな? このリヴェル魔術学園の試験は」

「何と言いますか……入学者への懐が深いんですね」


 見た所、この入学試験において不合格者はほとんどいない。

 相応に学費が必要ではあるらしいけれど、それでも審査は寛大に思える。


 昔、日本の話で聞いたアニメの学校みたいな感じにも見えなくもない。

 学費さえ払えば教えてくれるけれど卒業後には何の保証もないとかそんな話だ。

 専門学校でさえ無い学校だったりするとか聞いた事すらある。

 それも、戻る事の出来ない世界と俺からすると遠い話になるんだけどさ。


「そうじゃな……確かに入学を拒む事はほぼ無い。才能は確かに必要であるが、諦めるかの判断をするのは本人じゃ。その夢を掴むために、ワシ達は出来る限り尽くす。それがこのリヴェル魔術学園の方針じゃな」


 なんか立派な事を言っているような気がする。

 感銘を受けてしまいそうだ。


「そもそも魔術学園には冒険者志望の者も多く輩出している。魔法の才能が無いからと言っても、魔法の知識を得る機会を失わせるのは間違いじゃろう」

「それは……魔法の才能が無い戦士向けの者でも、どんな魔法であるのかを知れば良いって事ですか?」

「うむ。そのような側面もある。その辺りはロッドクラスの選択授業にも盛り込まれておる」


 魔法の才能が無くても魔法を学ぶ機会を与える……か。

 確かに、どんな魔法や呪いであるのかの心当たりが付けば対処の仕方も自然と分かってくる。

 困るのはどう対処したらいいのかすらわからない状況だ。

 本来なら簡単に解ける仕掛けなのに、心得が無い者しかその場に居なかったら偶然に賭けるか、諦めるしかない。

 魔法が使えない事と、知識が無いのとは別……って事なんだろう。

 冒険者が身に付ける知識とは別に、専門的な魔法使いの知識と言った所か。


「もちろん魔法使いを育てる教育機関としての側面もあるぞ? それはどのクラスも変わらん」

「はぁ……」

「チドリ殿はもう帰るのかの?」

「ええ、その挨拶に来ました」

「うむ、わざわざ足を運ばせてすまないのう」

「いえ、これから警備をする事にもなりますので……」


 シュタイナー氏が普段どこに居るのかを聞くという意味もある。

 なんて思いながらぼんやりと窓の方に意識を向ける。

 窓の外には校庭が見えて、リーサ達がみんなで楽しげに話をしている。

 他にも受験生達が入学前から親しい者と雑談しながら帰る用意をしているようだった。


「リーサ殿の調子はどうだったかの?」

「あー……ブッククラスになりましたね。色々とありがとうございます」


 一応お礼を言っておこう。

 するとシュタイナー氏がちょっと眉を寄せる。


「別にワシが贔屓にしておる訳ではないのじゃがな。ブッククラスになったのはリーサ殿の実力じゃよ。立派な事じゃ……」

「そうでしたか」


 レナさんはロッドクラスで、今季のクラス分けでブックを目指しているとシュタイナー氏は世間話をする。


「で、チドリ殿。聞きたい事があるのではないかのう?」

「聞きたい事、ですか?」

「うむ」


 んー……なんかあったかな?

 心当たりはないと思ったけど、そうだなぁ……。


「どうも響きからするとスタッフクラスが一番上に感じますね。リーサもなりたかったみたいで、隠そうとしては居ましたが落ち込んでいるように見えました」


 この状況でリーサにサプライズプレゼントをしても良いのかな?

 って不安になってくる程度には落ち込んでいた。

 けれど、ブッククラスもエリートクラスらしいし、プレゼントは渡すつもりだけど。


「リーサの事ですから、ここで腐らずにがんばってくれると信じていますけどね」


 別に俺はリーサが入学した瞬間から天才として名を馳せる事が大事だ、なんて思っていない。

 少しずつがんばって居場所を見つけてくれたら良いと思っている。

 そういう人付き合いを学ぶのも学校という場所だろう。


「うむ、それでいいのじゃ」


 シュタイナー氏も俺の考えに賛同してくれる。

 この人が賛同してくれるのは心強い。


「……レナにも内緒にしておる秘密なんじゃがな……チドリ殿には多大な恩があるから教えようかのう」

「知ったら命の危険がありますか?」

「ほっほっほ。そこまでではないので安心せい。ただ、口外はあんまりせんでほしい事じゃ」


 何だろう。

 ……まあシュタイナー氏程の人物が教えてくれる秘密を暴露する程、俺は愚かではないが。


「実はのう、スタッフクラスとブッククラスではブッククラスの方が本来は上のクラスなんじゃよ」

「え? でもスタッフの方が高名な魔法使いを輩出していると聞きましたが?」


 なんか辻褄の合わない話をしているような気がする。

 だからこそ秘密なんだろうけど、理由がわからない。


「それは結果であり、学園が印象操作をしているにすぎん。在学中から誰の目でも明らかになるほどの才覚を見せた者をブックからスタッフに、逆にスタッフからブックにと調整し、最終的にスタッフクラスで卒業させて見せただけじゃ」

「なんでそんな回りくどい事を?」

「うむ……これは魔術学園としての過去の歴史としてあるのじゃがな。エリートクラスを作るとそこに所属する事だけがステータスになってしまうのじゃ」


 シュタイナー氏は大まかな概要を掻い摘んで説明してくれた。

 過去、エリートクラスと一般クラスの二つに分けていた時代もあったそうなのだが、エリートクラスになったからと言う事で、腐るというか努力を怠る者が出るようになってしまい、一般クラスの者の方が頭角を現してしまうという、おかしな現象が発生してしまった。


 この事は学習を目的とした学園からすると良い所もあるが悪い所もある。

 エリートとして必死に教えたのに期待以下の、教育としての意味の喪失、教育が中途半端な者が頭角を現す学園の意味だ。


 それなら独学で学んだ方が良いんじゃないか?

 一般クラスの卒業生から学んだ方がより良い学習ができる。

 なんて事態になり、学園の意義が損なわれる可能性が出てしまった。


「その問題を解決するために大まかに三クラスに分けられるようになったのじゃ。一般、もしくは才覚が不安なロッド。間違いなく才能のあるブック。そして……カテゴリー外のスタッフじゃ」

「カテゴリー外?」

「そうじゃ。ロッドとブック、この二つに当て嵌めるのに向かない者達を集めた個性的なクラスと言えば良いかもしれん。リーサ殿も才覚だけでいえば十分にスタッフに相応しい才能は持っておる」

「それが何でブックに……」

「ふむ……チドリ殿に分かりやすく言うならば、試験で的を破壊した者がおったじゃろ?」


 ああ、一切の手加減無く魔法をぶっ放した彼ね。

 随分と派手だったので覚えている。


「チドリ殿は彼とパーティーを組んで魔物を相手に戦いたいかの? その剣ではなく、普通の近接武器だったとしよう」


 言われて考える。

 あの生徒の様な魔法使いが後ろにいる状態だ。


「……非常に申し訳ないし、状況次第で彼も加減をしてくれるとは思いますが、出来れば遠慮したいですね」


 あの高火力の魔法が俺の真後ろから飛んで来る、なんて事になりそうな気がして背中を預けるのは正直、怖い。

 そういえばシュタイナー氏はダンジョンでの戦闘でも俺に攻撃が当たらないよう、最大限注意して魔法を使っていたっけ。


「うむ。その点、リーサ殿はどうかのう?」

「しっかりと的に当てていましたね」


 リーサが的当てで使っていた魔法は確かに威力が高そうではあったけれど、しっかりと狙いを絞っていたし、的を破壊するような事は無かった。

 貫通性の高い攻撃とでも言おうか。


「そうじゃな。あの試験での採点基準は威力ではないのじゃ。むしろ的を破壊するなど言語道断。大型の魔物相手ならともかく、小型の魔物を爆発四散させては強固な魔石でさえも破壊させかねんし、探すのが難しくなる。選んだ魔法が火だったのも減点じゃな。素材なども碌に採れんじゃろう」


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