パリパリマッサージ
翌日……ご近所の方々が俺を指差してヒソヒソ声を上げていた。
やはりルーフェの声が近所に響いてしまっていた影響だろう。
これは出来るだけ素早く対策を取る必要がある。
リーサと一緒に庭に出てルーフェと挨拶をする。
朝食は……さすがにルーフェが持ってきた肉は重たいので別にしよう。
結構減ってきているみたいだから近々ルーフェと一緒に狩りに行く感じかな?
この巨体を維持する肉の確保は狩りで得た方が良いと思うし……。
「リーサ、チドリ! チドリ凄い! 昨日出来なかったお掃除、なんかすんなり出来た気がする!」
ルーフェが朝起きて朝食を食べる前にと庭の片づけをしようとしたら、思い通りに出来て驚きの声を上げていた。
他にも手持ちの肉を上手く焼けたとか興奮している。
俺達に肉を是非とも食べてほしいと出してくるので少しばかりもらって食べた。
……昨日よりも火の加減が良いかな?
それ以外はまだまだって感じだ。
やはり技能はあっても習熟しないと反映されないってことなんだろう。
「ルルーン」
「ルーフェ、言葉が上手になったね」
「ルル? そう?」
リーサが顔を近づけるルーフェを撫でながら答える。
お礼とばかりにルーフェもリーサを舐めてる感じ。
何度も思うけど、美少女とドラゴンは絵になるね。
そんなルーフェが、ヒソヒソと遠巻きに話をしている昨日あいさつした主婦にゆっくりと近づいていく。
「ルルン! おはよう!」
リーサはご近所の人にはまだ慣れないって様子で遠巻きに黙って見つめている。
人見知りをしている訳ではなく、俺に対して失礼な噂をしている空気を察してしまったのかな?
申し訳なさそうにリーサが俺の方を見てくるので気にしていないよ、と微笑む。
ちょっとハードルは高かったけど、やって損はないし。
改めて人里離れた所でやるべきだったかとも思ったけどね。
「おはようございます」
「ルル……? ございます!」
あっちも昨日あいさつをしてきた手前、逃げるって訳じゃないけど、若干顔が引きつりつつ挨拶をする。
尚、ヒソヒソと話をしていた別の主婦っぽい人はルーフェが近づいた分、離れて行った。
「チドリ、マッサージ、上手。ルーフェ、チドリに頼んだ。変な声出たのでごめんなさい。誤解しないでほしい」
ルーフェ、ナイスだ!
いや、この言い方だと誤解は解けないのか?
「あ、ああ……そうなの? そういえばトーレル様の頑固な肩凝りを解した凄腕の整体師がイストラの街に来ているって聞いたけど……」
よかった。伝わっている。
しかし、シュタイナー氏の肩凝りってそんなに有名なのか?
どこまで噂が広まっているのか聞いてみたい気もする。
そもそもシュタイナー氏ってこのイストラの街での影響力大きいよなぁ。
凄い人と知り合になっているんだな。
「グルル、きっとチドリ!」
コラコラ、間違っちゃいないけど確信も無いのに答えるなって言いたい。
「なるほどねー……あんな声を出すってそんなに気持ち良いの? 私も日々の重労働で関節の節々がちょっと痛いのよねー」
「うん! スッキリする! ご近所さん、チドリにお願いしてみる!」
ここぞとばかりにルーフェが推してくる。
ステータスや技能習得等を弄れる部分は喋っていないから頼んだ事は聞き入れてくれている。
そして自然な流れで誤解を解けそうだ。
「でも、あんな声を上げるのははしたないし、マッサージって事は揉まれる事になるんでしょ? 夫が許してくれるかしら……」
「揉む? チドリ、マッサージする時触らない。パリパリマッサージ」
「え? そうなの? そういえばなんかちょっとルーフェ……さんの時、光って見えたわね」
「チドリー! パリパリマッサージー」
これは……ご近所への電気マッサージを軽く行う事で、リーサやルーフェに行う際の白い目を軽減する効果を出せるのではないか?
いや、もしも本当に凄腕マッサージ師として周囲に認識されれば、整体師としての仕事が出来るかもしれない。
サンダーソードを使ってそんな仕事をするのはどうかと思うけど、何もしないでサンダーソードを腐らせるよりは良いか。
ただ……こんな朝早く?
朝早いからこそか?
夜にやっている方が誤解を招きそうだしな。
「じゃあご近所で初回はサービスって事でちょっとだけ……何か声が漏れないように布とか噛んでもらって良いですか?」
俺は近くの腰掛けるのに良さそうな段差に座るようにご近所さんを促す。
何事も経験だ。
「え、ええ……」
たぶん座っていても出来るとは思う。
「じゃあ……」
俺は座っている主婦の背中に沿うようにサンダーソードを立てて電気を意識する。
しっかりと鞘から抜いていないのを見てもらってから背中に沿わせたので敵意は持たれないと思う。
それにしても、もう四名ほど行っているので大分馴れた気がするな。
「あ、ああ……パリパリって……く、これ……ああん!」
「すみません。布、もうちょっと深く噛んでください」
声が漏れてる。
少し電圧を落として噛み直す余裕を用意。
「ふぁ、はい」
主婦がしっかりと布を噛み直したのを確認してから再開し、ステータスを表示させる。
うーん……ちょっとだけ関節痛のマイナス技能があるっぽい。
「~~~~~~~!」
なので所持しているスキルポイントで関節痛を1まで下げ、手短に終わらせる。
他にこの人、弱いけど腰痛もあるみたいだけど、残しておこう。
「はい、おしまいです。確認をしてみてください」
パチッと電気を出すのをやめる。
「はぁ……はぁ……、確かにこれは効く~って感じね」
すると若干白眼を向いて声にならない声を上げていた主婦が呼吸を整えながら我に返った。
それからよいしょっとばかりに立ち上がって驚きの表情を浮かべる。
「痛みが弱い……体がちょっと軽いわ! 凄いわ!」
若干興奮気味で主婦が電気マッサージの効果に驚きを隠せずにいる。
「ちょっと、凄いわよ!」
遠巻きに見ていた近隣住民に主婦が声を掛ける。
「こんな短い時間でここまでしてくれるなんて、ちょっと高い薬とかで治す人が多いのに……助かるわ」
「どういたしまして。今度は正式にお願いしてくれると嬉しいです」
「そうね。どれくらい効果があるかわからないけど、頼んでみようかしら」
「はは、効果が高くてお客さんがいなくなっちゃうくらいには効果が高いつもりですよ」
そうして腕は良いけど金稼ぎに向いていない凄腕風に答えて見る。
実際、マイナス技能を下げるだけなので、一度下げたら効果は期待出来ない。
「まあ、大きく出たわね。ちょっと期待するわよ」
なんて感じで機嫌良く主婦は答えて近隣の方々の所へ説明に行った。
まあ、体験って事でやってあげれば必然的にリーサやルーフェにやっていても不思議じゃないって空気になる……なってほしい。
頼んだぞ、主婦達の噂の速度。
「……」
リーサが黙って俺を見ている。
軽蔑されてしまったかな?
「ルーフェ、人見知りせずにチドリさんの悪い印象を拭った」
ああ、俺とルーフェを一緒に見ていたのね。
軽蔑じゃなくてよかった。
「ルルーン? ルーフェの所為だもん」
「まあね」
変な声を出したのが悪い。
我慢し難いみたいだけどさ。
とにかく、これで凄腕マッサージ師って印象を植え付けられたので、変な声を出させても問題ない。
うん、問題ないんだ。
シュタイナー氏達の良い顔が俺の脳裏に過ってしまうけど、良いんだ!
そう納得することで誤魔化した。
その日は足りない日用品の買い出しに出て、ルーフェの狩りを手伝いに行った。
何だかんだルーフェの食事は狩りに出かけて賄えそうな気がしなくもない。
ちょっと遠出しないといけないのが面倒と言えば……面倒だけど、リーサも戦いを経験したいって感じだったのである程度気分転換によかったようだ。
狩りに関してはあんまり語る必要はないかな?
俺もルーフェもサバイバル技能を持っているので森とかだと動物……魔物がどこに居るのかを追跡する事がしやすい。
出てきた魔物は野生の牛……ホーンバイソンという魔物の匂いをルーフェが見つけて遭遇、一匹でも大丈夫って言うので俺とリーサが戦闘に参加せず、ルーフェが仕留めて見せた。
牽制に炎を拭きつけ、怯んだ所を斧で脳天を叩きつぶす、ウサギ等の小型の魔物の場合はドラゴニックボイスで叫ぶだけで、魔物は動けず倒されていたなぁ。
Lvが高いから狩りも上手って事で良いのかもしれない。
ぶっちゃけ、ルーフェに乗って移動しているだけで俺達は見てるだけだった。
帰りがけにサンダーソードを素振りして雷を落として一匹魔物を仕留めた程度か……。
この狩りの仕方はリーサの教育に良くない気がする。
夜は酒場で飲みに行ってくると言って、リーサの入学祝いを密かに注文しに行った。
そんな感じの平和な日だった。




