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冒険者の話

「イますぐ、ここから、ニゲろ!」


 ドラゴンウォーリアーは強い意志を持った目で、人の言葉を発して冒険者達に逃げろと言ったそうだ。

 再度笛の音が響き、意識がぼんやりとしそうになる。

 が、直後に再度咆哮が響き渡り、意識を失いそうになるのをどうにか堪えたらしい。


「ハヤく!」

「あ、ああ!」


 笛の音を聞くと意識を失いかねない状況を冒険者は辛うじて飲み込み、ドラゴンウォーリアーの命じるままに走ってその場を離れる事にした。

 それに合わせてドラゴンウォーリアーは大きく息を吸い込み火炎の息をライブモットとその後ろに居るネズミの魔物に向けて吐いた。


「「「ヂュウウウウウウウウウウウウウウ」」」


 無数のネズミ達の声を聞きながら冒険者達は一目散に逃げ出した。


「ガオオオオオオオオオ!」


 咆哮が響き渡り、ドラゴンウォーリアーが戦う音が聞こえてきた。

 しばらくしてドラゴンウォーリアーが追い掛けてきて、笛の音がする度に咆哮で我に返り、命からがら逃げ出す事に成功した。


「はぁ……はぁ……ライブモット達は?」

「いないみたいだ」

「逃げ切れたか?」


 周囲が安全なのを確認して冒険者達はホッと胸を撫でおろしつつ、後ろに付いてきているドラゴンウォーリアーに意識を向ける。


 魔物同士の縄張り争い?

 それとも獲物を横取りするために助けた?

 もしくはどこかに飼い主でもいるのか?

 だが……ドラゴンウォーリアーを?


 などなど、当然ながら無数の疑問が脳裏を過った。

 その件のドラゴンウォーリアーは後方をずっと見ている。

 全身に生々しい傷があるが、それをものともしない……雄々しい姿をしていたと冒険者は答える。

 今の所、敵と言う雰囲気ではない。


「どうして助けてくれたのかはわからないが、礼を言う」


 礼を述べるとドラゴンウォーリアーは振り返る。


「キにしないでイイ。ソレよりも、ニンゲンたち、注意する。ルル……」

「注意? あの魔物をか? 確かに見た事がない魔物だが……」


 初めて見る、催眠音波を扱う厄介なネズミの魔物だった。


「そりゃあ注意するし、近隣の街に報告はするが……」

「ソウじゃない。ルル……」

「そうじゃないって……何が?」


 疑問を投げかける冒険者にドラゴンウォーリアーはネズミがいた方角を指差して言った。


「コレカラ、あのライブモット、へんいして、ニンゲンのまちに向かう」

「それってまさか……」


 ライブモットが変異してデスペインになる事を冒険者達は知っていた。

 そして無数のライブモットがあの場に居て、それが全てデスペインになるとしたら、それだけでも災害となる。


「死の行軍……」

「けど、そこまで数が多くは……」


 信じられないと言う冒険者達にドラゴンウォーリアーは首を横に振って言った。


「アレ、いちぶ、たくさんはいごにイル。ハヤク、つたえにイカナイト、たいへん。ヤツラ、もくてきチ、あっち。ルル……」


 そうドラゴンウォーリアーはイストラの街を指差していた。

 ゴクリと冒険者達は息を飲み……振り返る。

 時刻は日が沈みかけた夕暮れ。

 遥か遠い所ではあるが……デスペイン独特の赤い目と白が黒に変わっていく大群が見えたような気がして背筋に寒気が走った。


「ハヤクいけ!」

「わ、わかった」


 急かされて冒険者達は駈け出した。

 そんな冒険者達を見送るようにドラゴンウォーリアーは手を振っていた。

 そうしてこの冒険者達は急いでイストラの街へと、俺達と入れ替わる形で辿り着き、ギルドに報告、シュタイナー氏の耳に入って今回の騒動が明らかになったらしい。


 ここまでが前置きだ。


 デスペイン騒動の後日、ドラゴンウォーリアーに助けられた冒険者達はお礼をする為、遭遇した地域を調査の合間に立ち寄ったそうだ。

 そして足跡を見つけて跡を追うと……そのドラゴンウォーリアーがノシノシと歩いていた。


「おい」

「ン?」


 声を掛けるとドラゴンウォーリアーは振り返る。


「ああ、コノまえノ、ヤツラか。ルル……ナンダ?」


 一体どうしたとばかりに返して来て、冒険者は安堵する。


「この前、助けてくれただろ? それにデスペインの群れが街を襲うことも教えてくれた。酒とか飲むか? 狩りの手伝いついでに飯とか何か礼をさせてくれ」

「ソウ、か。ルル」


 そうして冒険者はドラゴンウォーリアーに助けてもらった礼に行動して食料になる魔物を狩り、その日は晩飯を一緒に食べたらしい。


 人語を解する相手ならば魔物でも一緒にいられるとは……寛容で奇妙な状況だな。

 魔物の中には人語を理解し、人の世に溶け込んでいる者や魔法使いや魔物使いに使役されたりしている者がいるので無い訳ではないそうだ。

 もちろん、それは冒険者側もわかっていた事らしいのと俺にも補足している。


 狩った魔物を豪快に食べるドラゴンウォーリアーと酒を飲み交わす。

 両者共に名を知らない間柄だが、このような縁も悪くはないだろう。

 冒険者らしく、未知と刺激に溢れている、不思議な体験だ。


「本当、色々と助かった。アンタがいなければ俺達は今頃どうなっていた事か」

「もう、レイはもらった。キにしなくて、イイ。ルル」


 割と親しげに答えてくれるドラゴンウォーリアーに冒険者達は苦笑する。


「ところで気になっているのだが」

「ナンダ?」

「お前はどうして人の言葉を介して、俺達を助けてくれたんだ? それと……言っちゃ悪いと思うが、ドラゴンウォーリアーにしては頭が良い」


 この問いにドラゴンウォーリアーは遠い目をして星空を見つめながら答える。


「ドウシテ、ニンゲンのコトバ、はなせるか。それは――」


 ドラゴンウォーリアーは淡々と話を始めた。

 なんでもこのドラゴンウォーリアーはとある縄張りで妹分や弟分の面倒を見ながら生活をしていたのだが……ある日、人間に捕まり、生物実験の実験体として様々な改造を施されて行ったそうだ。

 副産物的にドラゴンウォーリアーは人語を理解できるようになったらしい。


 で……最終的にこのドラゴンウォーリアーは魔術式の媒体にさせられ、体は石化、精神は我を忘れさせられ、侵入者を検知するまで石化は解ける事無く、防衛装置として永遠とも呼べる時間を過ごさざるを得なかったんだそうだ。


「あのマホウがある限り、シヌことさえできず、ばいたいとしてナニかを作りだされツヅケタ」

「それは……辛いな」


 冒険者達はドラゴンウォーリアーに同情の念を抱いた。


「ソシテ……それは、オトズレタ。我をワスレ、あわれなクグツとなっていたトキにでてきたニンゲンが……いた」


 ドラゴンウォーリアーは更に話を続けた。

 石化が解け、魔術式の言いなりとなって暴れ、死ぬ事さえできない再生能力を付与されていた自身に果敢にも挑み、幾重にも死に匹敵する攻撃を繰り出していた人間がいた。

 恐ろしいと思うと同時に、やっと終われる……そんな冷静な部分が語りかけて安堵していたと言う。


 戦いは唐突に終わりを迎えた。

 ドラゴンウォーリアーの不死の原因である魔術式の媒体を、その人間が破壊してくれたのだ。

 やっとの事解放されたドラゴンウォーリアーはその場で倒れ、上に瓦礫が落ち、その場所を構築していた仕組みが崩壊した。

 終わった……とドラゴンウォーリアーは思った。

 だが、しばらくして意識が戻り、瓦礫を押しのけてその場から出た。


 こんな酷い事をしたのは確かに人間だ。

 だけど、解き放ってくれたのも人間だった。


 その人間は……ドラゴンウォーリアーからするととても眩い存在だった。

 仲間を守るために果敢に挑み、ほぼ一人で足止めから何まで解決して見せたのだ。


「ルーフェネットはそのニンゲンをサガシている。あの、ひかるパリパリした剣をもった強い剣士にもう一度、あいたい」

「そう……か。なら俺達も探すのを手伝ってやるよ」


 と、その時の冒険者達はドラゴンウォーリアーが探している剣士を見つけてあげようと決めた。


「イいのか?」

「ああ、悪い奴じゃないみたいだし、それが命を救ってもらった一番の礼になりそうだからな」

「たすかる」

「んで、そいつの特徴はそれだけなのか?」

「ううん。ナカマがいた。ちいさなおんなのこと、もうすぐオトナのおんな、それとノームっぽいろうじん」

「四人パーティーか……」


 言葉がたどたどしくてそれ以上聞き出す事は出来なかったが、冒険者達はドラゴンウォーリアーの探し人の特徴を覚え、こうしてイストラの街へと帰還してから探す様になったそうだ。




「それで……紫電の剣士だっけ? 今の所、光る剣を持った剣士って特徴的な奴が見つけられなかったから一応聞いておこうと思ってさ」


 と、冒険者はシュタイナー氏に視線を向けながら俺に聞いてきた。


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