サンダーソードの歌
「「「ヂュウウウ!?」」」
俺の放った技を受けてデスペイン達が吹き飛び、その中心に居た相手の姿をマジマジと見せつける。
それはリーサを甚振っていたネズミよりも大きな角笛を持ったネズミの魔物だった。
サンダーソードを通じて奴の名前が浮かんでくる。
デスアルジャーノンハーメルン
部下と思わしき棒を持ったネズミがハーメルンと言っていた。
コイツが主犯格の魔物か!
「ヂュ……まさか高々人間一人にこの死の軍団がここまで追い込まれ私にまで辿り着くとは思いもしなかった……」
「お前が黒幕だな」
あの洞窟の中にあった大きな足跡と大きさが丁度合致する体格をしているので間違いない。
「バカな……この私が、無数の魔素を取り込み、あの方々以外、他の追随を許さぬ力を得たこの私をここまで追い詰めるとは……」
俺の放った技で胸を切り裂かれ傷口に手を当てて荒い呼吸で俺をよろよろと指差す。
「貴様、何故私の配下であるデスペイン達をモノともせず、これだけの軍勢を屠ってここまでこれたのだ!」
俺はサンダーソードをデスアルジャーノンハーメルンに向けて構えて答える。
「知りたいか? それは全て念願だったサンダーソードを手に入れたお陰に決まってるだろ!」
俺がここまでこれたのは間違いなくサンダーソードのお陰だ。
以前の俺だったらとっくの昔に死んでいるだろうよ。
バチッとサンダーソードの雷が一瞬止まった様な気がするが、きっと気の所為だな。
そして、温かく優しい雨が降り続いている。
この雨が俺を守ってくれている限り、俺は死なない。
いつまでも戦っていられる。
俺が負けない理由が二つもあるんだ。
こんなネズミに負けるはずがない。
ネズミの軍団がなんだ。
雨の数の方が多いし、サンダーソードの雷撃を舐めるな。
「武器が優秀か……ハハ、そうだろうな! その雷の力で我が死の軍団は壊滅だ! だが――このままで終われるか! 喰らうが良い! この至近距離で耐えられるかな?」
デスアルジャーノンハーメルンが角笛に口を当てて音を奏でる?
バチバチとサンダーソードがスパークしていて音を出しているから音飛びして聞こえるんだよな。
だが、俺の冒険者としての経験が音波を使った攻撃だって教えてくれる。
前の異世界であった邪悪な魔法に似た様な攻撃が存在する。
アレは叫び声みたいな魔法だったっけ。
テラーボイスという魔法だったな。
その叫び声に飲まれると叫び声を上げ、その声を聞いた者が更に……と続く連鎖的で厄介な代物だった。
しかも意識を失うか死ぬまで叫び続ける。
混乱を治さねば面倒な奴。
「ヂュ!? この笛の音が効かないだと!?」
「無駄だ!」
俺はデスアルジャーノンハーメルンがこれ以上、妙な真似をする前にサンダーソードに力を込めて大きく縦に振り被り……破竜を放つ。
人々を死へ導く軍団を指揮する邪悪な魔物を前に、サンダーソードは一際力強く雷を纏い、縦一線に切り裂いた。
「ぐ……あああ……だが、ここで……お前も道連れだ!」
デスアルジャーノンハーメルンが一刀両断されたにも関わらず俺の肩を掴んで残ったデスペインに命じる。
どこまでもしぶとい!
紫電剣を撃つには俺の残りの力が足りない気がする。
まだ撃てるのは……ある!
どこまでも頼りっぱなしだな。
エアクリフォには感謝の想いしか無い。
第一の型・隼を経由して……水雷龍刃を放ちながら突き上げる。
「これで終わりだ!」
「ヂュ、ヂュウウウウウウウウウウウウ――……」
デスアルジャーノンハーメルンの胸目掛けて突進する様に水雷龍刃を放って飛び抜ける。
バオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! って轟音が俺の耳に響き渡ると同時に雷と水の本流に打ち上げられた。
うおおおおお!?
ズドンとデスアルジャーノンハーメルンを貫通し、空中に飛び上がった俺の視線の先にクルクルと跳ね飛ばされて回転する魔石があった。
下を見ると弾け飛んだデスアルジャーノンの死骸が見える。
結構魔石って頑丈なんだな。
空中で俺は魔石を掴んだ。
「「「ヂュウウウウ――」」」
そしてゆっくりとサンダーソードが電気を放って電磁力で落下する俺の視界の中で闇の中で赤く光っていた死の軍団の光がポツポツと消えていき……朽ちていく。
どうやらボスであるデスアルジャーノンハーメルンを倒す事でデスペイン達に掛った邪悪な術は失われる様だ。
やがて、赤い死の瞳は全て消え、辺りに静寂が訪れた……。
スタッと着地し、俺は朽ち果てたデスペインの群れを見る。
膨大な数のネズミの死骸だ……その最後尾……通り過ぎた後を見て改めてその惨状の酷さを理解する。
紫色の地面に染められた……死の荒野としか言えない光景がそこにあった。
本当、これがイストラの町に辿りつく前にどうにか出来て良かった……。
さすがはサンダーソード!
エロッチの加護が宿る正義の代行者だ。
「はぁ~~~~……リーサ、どうにか生き残れたよ」
本当に運が良かった。
サンダーソードの雷とリーサが呼んでくれた雨雲が無かったら、どこかでデスペインに群がられて壮絶な死を迎えていただろう。
もう当分はこんなの勘弁願いたい所だ。
……デスアルジャーノンハーメルンの裏にまだ何か居てデスペインを更に使役して……とかは無いよな?
何かそれっぽい話をしていたから不安が拭えない。
「どちらにしてももう限界だ……早く俺も……避難しよう」
第二陣が控えてる可能性もあるしな。
これだけやれば時間は十分に稼げたはずだ。
シュタイナー氏がしっかりとイストラの方で避難をさせてくれている事を祈りながら、俺はリーサ達が避難すると行った方角へと歩き始めた。
「ふんふーん。おーサンダーソード~栄光のサンダーソード~」
自作のサンダーソードの歌を口ずさむ。
そうだな、今日の歌は栄光のサンダーソードにしよう。
◆
チドリさんが戦っていると思わしき雷は長い事続いていた。
私達はそのいつまでも降り注ぐ雷を遠くで見届ける事しか出来ない。
「……アレってチドリさんが戦っているんだよね?」
私は無言で頷いた。
「旅をしている時に何度も見たけど……凄い……あんなにいっぱい……」
「がんばれ……」
「うん、そうだ。チドリさん、がんばって……」
みんなが鳴り響く雷に脅える事無く応援する。
やがて……一際大きな紫色の光が膨れ上がったかと思った後、空に目掛けて龍の様な雷が登って行くのが見えた。
「チドリさん!」
私の中でイヤな考えが頭を過る。
負けたとは思わない。
けど、チドリさんが……どこか遠い所に行ってしまうんじゃないかって考えが出て来る。
やがて……闇の中で赤く光っていた物がドンドン消えて行った。
それから少し時間が過ぎた頃……辺りが徐々に明るくなってきた事に私達は気付く。
雲の切れ間から太陽の光が差し込んで来て……その切れ間から照らし出される光が私達がいる草原を映す。
その私達が見ている草原の先で、朝日を背負う様にして……。
「あ!」
私は無意識のうちに走り出し、レナさんが声を上げる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
草原の先、紫色になった大地の方から泥だらけのチドリさんがいつもと変わらない優しげな表情で私に手を上げて挨拶をしている。
とても遠くて小さく見えるけど見間違えるはずは無い。
私は自分でも驚くほどに夢中になって駆ける。
「チドリさぁあああああん!」
そしてチドリさんの元に行った。
「やあリーサ、その様子だと無事みたいだね。いやぁ……遠くから見ていたけどリーサって結構足が速いんだね」
それはいつもと変わらぬチドリさんだった。
信じてた。
私を英雄の様に助けてくれたチドリさんなら生きて……奇跡を起こして帰って来てくれるって。
「チドリさん、おかえりさない」
「ただいま、リーサ……とは言ってもまだ家には帰っていないけどね。さすがに疲れたね」
くたびれたってチドリさんは言いながら私の隣を歩いてレナさんの元へと向かう。
「第二波とかありそうな感じで不安だけど、まずは……どこかでゆっくり休もう」
「はい」
私は……こうしてチドリさんがイストラの町で最初に行った偉業を……見届けたのでした。
チドリさんを使わした神様……どうか、この素晴らしい日々が続く事を……祈ります。
◆
ここまでが一章です。
三日後に次章を投稿していきます。




