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死の地平

「じゃあリーサを任せるよ」

「は、はい」


 リーサの応急手当ての合間に大ネズミを調べる。

 俺はこれまでの道のりで見た足跡と大ネズミの下半身の足を確認する。

 ……どう見てもサイズが合わない。

 もっと大きい足跡が、リーサ達を誘拐した現場に残されていたからだ。


「チュ、ゲホ……」


 なんて疑問に思っていると大ネズミの上半身から声が聞こえてきた。

 まだ生きていたのか、しぶとい……。

 魔石を取らなきゃ魔物は死なないのか?


「まさかこんな形で死ぬ事になるとは思いもしなかった。だが、オレを倒したからって調子に乗るのは早すぎるぞ」


 何やら瀕死の癖に勝ち誇った様な口調で大ネズミはこちらに言い放つ。


「オレはあの方の部下。既にあの方は目的を成すのに十分の配下を集めになられている。人間を媒体にした配下を献上したかったがそれもやむなし、オレを倒したと思ったら大間違い。チュウ」


 背後に何か居るってお約束な話……前の異世界でもこの手の奴はいたぞ。

 生憎と俺は二軍だったから又聞きでしかないけどさ。


「知るがいい、愚かな人間。お前等の大事な町にあの方が引き連れた配下をとても素晴らしい死の軍団へと変えて押しかけていくぞ。チュチュチュ……」

「何!?」


 配下を死の軍団!?

 ここに来るまでにレナさんに聞いた言葉が脳裏を過る。

 本来は群れるはずのないライブモット、そしてライブモットは死の行軍と恐れられるデスペインに変異して村や町に多大な被害を出す。


「最後の一仕事でこんな事になるとは思いもしなかったがもう既に作戦は実行中だ! 今頃、周辺地域で作り出された配下が集結し、あの方の笛の音と共に行軍をしている真っ最中であろう!」

「そんな……」

「ははははは! 愚かな人間共で死の協奏曲を奏でるハーメルン様に栄光あれー!」


 大ネズミの死体が闇の様に霧散して消え去る。


「わ!?」


 ネールが持っていた棒も霧散して消えてしまった。

 リーサの容体は……よくは無いけれど応急手当はどうにかなったって所だ。

 どうするべきなんだ?

 更に黒幕となる奴が控えていて、現在進行形で町に向かって進行中だって話だぞ!

 どれくらいの勢力なのか、シュタイナー氏に一刻も早く報告をしなくちゃいけなくなった。


「……リーサの容体は?」

「骨はどうにか接合できました。怪我もまだ完治とはいきませんけど……」


 俺は意識のないリーサを背負い、みんなに洞窟から出るように合図を送る。


「アルフレッド、外でレナさんが待機しているから皆でここを出よう。それから急いで町に戻りたい。安全の為に早く森からも出ないと」

「ええ……何やらとても不穏な事をあの魔物も言っていましたし、みんなも安心させたいです」

「もう大丈夫なの?」


 元気だった子供達が恐る恐ると言った様子で俺に尋ねて来る。


「ああ、もう大丈夫。俺が付いているからね」

「チドリさん……ありがとう」


 俺の事をおじさんと言った子がおじさんを外して言って来た。

 まあ、恩人になるのだからおじさん呼びはやめるか。

 ……思ったよりも俺はおじさん呼びされた事を引き摺っているんだなぁ。

 出来る限り気にしない様にしよう。

 25歳はもうおじさんなんだろう。きっと。


「それはみんなが孤児院に帰ってから聞くよ。さ、十分に注意して行こうか」

「「「うん!」」」

「……本当に申し訳ない。チドリさんが同行してくれていたらこんな事にはならなかったのかと思うと……」

「いや、俺もリーサの成長の為に見送ったんだし、こんなイレギュラーな事を気にしたらきりが無い。リーサは怪我をしてしまったけれど誰ひとり欠ける事無く出会えた事を感謝しましょう」

「……はい」


 と言う訳で俺達は洞窟の外に出る。

 すると少し離れた所からレナさんが駆け寄って来る。


「チドリさん、アルフレッド! みんな! 大丈夫だった!」

「大丈夫だったけどリーサちゃんが!」


 孤児達がレナさんに駆け寄って一番怪我が酷いリーサの事を報告する。

 レナさんは俺が背負うリーサを見て見つめて来る。


「手当てはどうにか出来ています」

「そう……出来るだけ早く治療をしましょう」

「それも大事なのですが、どうもみんなを誘拐した魔物が死に際にとても不吉な事を言いまして……出来る限り早く報告に戻った方が良いかと思います」


 俺はレナさんに大ネズミが言った事を話す。

 レナさんは驚きで唖然としながらアルフレッドに顔を向けるとアルフレッドも頷いた。


「わかりました。早く帰りましょう!」

「ええ」


 と言う事で俺達は急ぎで森を出る事にした。

 問題は……馬二頭だと孤児達を含めて移動に大きく時間が掛る点か。

 さすがに定員オーバーだし、馬だって疲れのない生き物じゃない。

 この世界の馬も魔石を内包しているそうで、シュタイナー氏が所有する馬なので優秀ではあるのだろうが、それでも限度はある。

 結構走らせているし、徐々に息が上がってきているのが分かる。


「……んん」


 なんて思っていると背負わせていたリーサから声が聞こえて来る。


「目が覚めたかい?」

「ここ……は?」

「まだ馬で移動中。しっかりと掴まっているんだよ」

「うん……」


 そう頷くとリーサを俺を掴む力を強めた。

 物分かりが良くて助かるかな。


「チドリさん」

「なんだい?」

「……助けてくれて、ありがとう。そして、ごめんなさい」


 これは……リーサなりに反省しているって事で良いのかな?

 ただ、色々と言わなきゃいけない事は沢山あるけどさ。


「それは後にしよう。けど、わかったよ」

「フフ……リーサちゃん、とても立派だったみたいね」

「レナさん……」


 ここであんまり褒める様な真似はリーサによくないって言うのに。


「ああ、ごめんなさい。ただ、勇敢なのは褒めてあげなきゃ」

「勇気と蛮勇を履き違えさせない様にしないと……」

「あらら……チドリさんは何だかんだ言って教育熱心なんですね」


 茶化さないでほしいんだけどなぁ。

 無茶をするのが当たり前にならない様に教えて行かなきゃなぁ。

 なんて感じで軽口を叩いていると、孤児たちも緊張がほぐれたのか少しばかり表情が明るくなってきていた。

 そして……森を抜けた所で松明を持ったシュタイナー氏と他の人々が待っていた。


「おおチドリ殿、レナ。どうやらみんなを見つける事が出来たようじゃな」

「ええ……ただ、リーサ達を捕えていた魔物が死に際に……」

「それでじゃな。チドリ殿達にお願いしたいのじゃが町の皆を避難誘導する手伝いをしてくれんか、レナは皆をこのまま避難させるのじゃ」


 俺が事情を説明するよりも早くシュタイナー氏がひっ迫した表情で言う。


「何かあったんですか?」

「うむ……チドリ殿とレナが出かけた直後の事じゃ。冒険者が青い顔をして総合ギルドに駆けこみ緊急報告を行った。証言を聞いたワシが直々に確認に出向き……同時にチドリ殿達の様子を確認に来た次第じゃ」


 俺は……先ほどの出来事から連なる不吉な考えが脳裏を過っていた。


「デスペインの……行軍ですか? お爺ちゃん」

「……よくわかったのう」

「それは……はい。アルフレッドやみんな、リーサちゃんを連れ去った魔物が倒される時に言い放ったそうです」

「魔物を媒体にライブモットを量産していました。僕達がその目でしっかりと見ました。さらったのも僕達をライブモッドの媒体にするつもりだったのです」

「なんと……では先日ワシらが遭遇した跡は……」

「実験か、もしくは計画的な襲撃だったんでしょうね」


 レナさんとアルフレッドの証言にシュタイナー氏が信じられないとばかりに目を見開く。


「緊急避難警報を出さねばならん。あの地平さえも覆い尽くさんとする死の行軍……いや死の地平とも言える無数のデスペインが今まさにイストラの街目掛けて行軍している最中なのじゃ!」


 やはりそんな事態が起こっているのか。

 出来ればあの魔物のハッタリであってほしかった。


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