デスペイン
「んんんぅっ……」
リーサの声が我慢している様に上ずっていて心配になる。
一応顔を確認すると痛い訳じゃないみたいだ。
声を漏らさない様にがんばってるって所か……。
「えっと、リーサはどんな風に強くなりたい? たぶん、そう言う事が出来るよ」
「あっく……チ……チドリ、さん……は、どんな……わたし……に……なって……」
ああ、普段のリーサから考えるとなんて言いたいのかわかる。
どうしたら俺が嬉しいかって事かー……。
ただなー……リーサには自分で選んで欲しいって気持ちもある訳で……。
もしかしたらこの手の技能とかは無意識にみんな割り振っているって可能性があるんだ。
レナさんみたいな例があるから一概には言えないけどさ……。
意識と体は別々って事なのか?
それとも才能は自ら選べないのを体現している世界なのか。
本人が望む物とは異なる形で魔石が勝手に成長してしまうって事かもしれない。
ともかく、リーサは駆け出しの魔法使いって感じみたいだし、まだまだ成長の要素が多分にあるはず。
とりあえず資質を上げる感じで知識向上を6まで取ってマジックマスタリーも6。
長所を伸ばすという意味で水魔法修練を……って上げるにはなんか条件が足りない?
現時点でも十分高いけどさ。
じゃあ、ちょっと疲れやすい子な感じがするから生命力向上を5まで取っておこう。
魔力も少し増やす為に魔力向上を7。
リーサ=エルイレア Lv15 女 種族 人間? 職業 魔法使いLv16
習得技能 力向上2 知識向上6 魔力向上7 生命力向上5 魔力操作7 マジックマスタリー6
魔力回復力向上5 水魔法修練9 四属性魔法修練5 神聖魔法修練6 合成魔法修練4 補助魔法修練5
調合技能4 水龍の力 水のささやき 守護の資質 歌姫
スキルポイント3
とりあえずこれで様子を見よう。
余裕があるならあるに越した事は無い。
勝手に何かを取得した場合、リーサが無意識に行った事だって証明にもなるしね。
と言うか……魔法使いとして無駄が無い。
そういや俺のサバイバル技能って調合技能も兼ねているんだっけ。
色々と習得出来る技能があるみたいだけど、把握しきれないなぁ。
って考えが逸れた。
リーサにはまずはこれくらいで良いでしょ。
まだまだ成長の余地があるんだしな。
「はい、おしまい」
「……ああっ……う……んっ……はぁ……はぁ……」
「どうだった? コレで満足したかな?」
リーサは肩で息をして、歳不相応に色っぽく見える目つきでコクリと頷いた。
「とりあえず元気になるのと、魔法を使いやすい様にしたからね」
「はい……ありがとう、ございますっ」
これからのリーサの生活を考えたら、たぶん大丈夫になったはず。
なんて感じで電気治療を施してリーサも満足したのか、素直に眠ってくれたのだった。
尚、翌朝……調査隊の人達は元よりシュタイナー氏から何か白い目で見られた様な気がするのは俺の思いこみであると思いたい。
翌日から俺達は調査を終えて当初の目的だったイストラへと向かう事にした。
調査隊を連れての馬車の旅なのだが……思ったよりも遠いなぁ。
道中で小さな村とかに立ちよったりするのも理由なんだろうけどさ。
思えば前の異世界でも似た様に町から町への移動は思ったよりも時間が掛ったか。
話によると飼い慣らされた魔物とかに乗って素早く移動するなんて事も出来るらしいけれど、生憎とそう言った足の速い乗り物は大抵少人数を前提としていて、しかも運べる物資も少ないんだとか。
金に余裕の無い人や大量の物資を運搬する人はキャラバンを組んで移動する事の方が無難らしい。
まあ、馬車で揺られての旅もなかなか悪くは無い。
時々魔物と遭遇しての戦闘もあるから気を抜けないしね。
で、俺は馬車に乗っている間、俺が読んでいた本が薬草辞典なのを理由にレナさんから色々と教わる事になった。
更に読み書きが出来るように簡単な文字まで一緒に教わっている。
懐かしいな……前の異世界の文字も勉強して覚えたんだっけ。
「チドリさんは凄く腕が立つのに読み書きが出来ないんですね」
「まあね」
元の異世界だったらそこそこ出来たんだけどなぁ。
一朝一夕で覚えられたら苦労なんてしない。
……脳裏に技能修得で知識向上を振ると言う考えが過るが気にしない。
俺はサンダーソードに全てを捧げる事を決めているからな。
まずはサンダーソードを極めてからでないとそんな寄り道に力なんて入れられない。
とはいえ……40も振って置きながらカンストしないのには何があるのだろうか?
よりサンダーソードの力が引き出せるような気がするけれど、それ以上強くなった実感は無い。
リーサの技能を参考にするに即席な力と才能の二つが重なった代物なのではないかと言うのが俺の憶測だ。
「それで……この単語は主に接続詞として使いまして」
懇切丁寧に教えてくれるレナさんの教えに感謝しか出来ない。
ちなみにコレ以外だと薬草に関して色々と教わっている。
なんとなく薬草に関しての方が覚えが早い。
元々前の異世界でも薬草類の調達とかやっていたから覚えやすかったってのもあるのかもしれない。
一方リーサはと言うと、シュタイナー氏が今回の調査で手にした品の解析をする合間の気分転換で魔法を教わっている様だ。
そんな割と勉強を続ける馬車の旅の最中の事……。
道を埋め尽くさんとする紫色の大きな痕跡が立ち寄ろうとした村の方へ伸びているのを調査隊の馬車は遭遇した。
「これは……」
シュタイナー氏は元より調査隊の人達の表情が引き締まる。
俺はどう反応したら良いだろうか?
「これ……何?」
そんな俺の疑問を察したのかリーサがみんなに尋ねる。
本当、リーサのお陰で俺が浮き過ぎる事が無くて助かるよ。
「災害……デスペインの行軍じゃろう。急いでこの先にある村へと向かうのじゃ」
「デスペイン?」
「普段は無害なんじゃが、何らかの状況で死の毒を振りまくようになる小型の危険な魔物じゃ……山の様な大群で一斉に進み、その進路を阻む物はなんであろうと噛み壊して突き進むのじゃ。後にはこの様に草木一本残らず、痕跡だけが残される。危険な毒や病、呪いも内包しておっての、噛まれたらどんな強靭な者であろうと死に至るのじゃ」
なんて言うか……イナゴの群れみたいな災害と呼べる魔物の群れの行軍だろうか?
魔物の大軍団なんて前の世界では邪神討伐の時以来だな。
この世界では稀にあるらしい。
思ったよりもシビアな世界なんだろうか。
「近づいて大丈夫?」
「何処に群れがあるのかを把握せんとな……それに災害と呼ばれる所以としてデスペインの群れはそこまで長い時間維持されん……どこかで朽ちている可能性が高いのじゃ」
「やや人道から逸れますが、無数にあるデスペインの死骸から魔石を採取すれば多少は被害にあった地域の復興資金になります」
「戦わないんですか?」
俺が尋ねるとシュタイナー氏は若干眉を寄せながら答える。
「デスペインは魔法の効きが悪い上に大量に現れる。罠や爆発物で対処しようとしても数に押されて抗えるとは思えん程じゃ」
なるほどね。
大体予想通りって感じか。
「死したデスペインを放置しておくとその魔石を他の魔物が食し、その地域の魔物がより強力になってしまう。これはデスペインの行軍を発見した者の責務なのじゃよ。近隣の町村に報告するだけでも意味があるのじゃ」
こんな二次災害まであるなんて、やはり異世界ってのはシビアだなぁ。
俺が前に居た異世界でも似た様な厄介な出来事とか無数にあったしなぁ。
特に10年前から最終決戦までの期間は、それこそ無数の不幸が転がっていた。
……あの病の流行を思い出すと今でも苦い思いがしてくる。
俺の目の前で手から水が零れ落ちるように無数に失われた命……それをただ見ていることしか出来なかった俺自身の無力。
あの時こそ俺自身の無力を感じた事は無かった。
どうして俺は、同じ様に日本から召喚された者達よりも弱いのだろうと……。
ここは……前の異世界じゃない。
けど、それと似た様な悲劇が転がっているんだ。
出来れば悲劇なんて無いに越した事は無い。
気を強く持って行こう。




