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068 勇者パーティー22:クリストフ編終幕

 ガイドラインに従い、マイルドな描写に修正しました。(2021/02/27)

 オリジナル版はノクターンに上げてます。


 クウカは一人、くらい思考に浸っていた。


 ジェイソンはパーティーを見限り、去って行った。

 バートンは借金奴隷として鉱山送りになった。


 そして、一番厄介だったラーズは、一番最初に追放された。


 後は一匹残っているが――。


 私の気づかないうちに逃げ出すなら、見逃してあげる。

 だけど、そうでなかったら――。


 いずれにしろ、邪魔者はいなくなった。

 そろそろ、メインディッシュね。


 想像するだけで、快感が全身を駆け巡る。


 いよいよ、彼女の長年の悲願が成就するのだ。

 耐えに耐えた。

 クリストフと出会ってから五年間。

 絶対に成功させるため、この機会を虎視眈々と待ち続けたのだ。


 今日は、その最後の仕上げ。

 クリストフがどんな顔をするのか、想像するだけで胸のドキドキが止まらない。


「ああ、クリストフぅ。いい顔で泣いてちょうだいねぇ」


 未だ夢の中のクリストフの寝顔を眺める


「安心して眠れるのも、これで最後。楽しいひとときを存分に味わってね」


 クリストフに口づけすると、クウカは部屋を後にした。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 クウカが部屋に戻ると、着替えを済ませたクリストフがベッドに腰掛けていた。

 彼女が外出している間に、シャワーを浴び、身支度を整えたのだろう。


「あっ、お目覚めになられたのですね。おはようございます」

「ああ、おはよう」


 クリストフは立ち上がると、クウカに歩み寄り、軽く口づける。

 それだけで頬を赤らめるクウカがいとおしくて堪らないクリストフだった。


「お腹空いてますよね?」

「ああ、ハラペコだ」


 クウカはクリストフの大好物である人気店『豚貴族』のカツサンドと飲み物を並べていく。


「切らしちゃったので、買ってきました」

「おっ、いつもクウカは気が利くなあ」


 二人並んで食事する姿は、付き合い始めの若いカップルそのもの。

 一見、平和な光景だ。

 この後に悲劇が待ち受けているとはとても想像できない。


 やがて、食事が終わり、クリストフが宣言する。


「うしっ、腹も満ちたし、行くぞっ!」

「ダンジョンですか?」

「ああ。最近休みがちだし、失敗続きだ。そろそろ本気出さないとなっ!」

「はいっ!」


 三度に及ぶ、無様な潰走。

 しかし、クリストフはめげていない。

 立ち上がったその姿は、まさに勇者そのもの。

 ゆらぎない自信に満ちあふれていた。

 クウカによる【英雄の心(ブレイブ・ハート)】の暗示によって植え付けられた偽りの自信だとも知らずに。


「で、みんなはどうしてんだ?」

「それが……」

「ん? どうした?」

「バートンさんはいつもの場所です」


 困った顔で伝える。

 自分の非情な決断によって、奴隷堕ちしたことは伝えない。

 クウカの言葉を信じきっているクリストフは、疑いもなく信じこんだ。


「ったく、バートンの女好きも呆れたもんだ」


 この一週間クウカの身体に溺れきりだった自分のことは棚に上げて、クリストフは吐き捨てる。


「クリストフさんは……そういうお店に行ったりはしませんよね?」


 上目遣いで見つめられ、クリストフはドキッとする。


「あっ、ああ。もちろんだ。俺はクウカ一筋だからな」


 今のクリストフにとって、紛れもない本音だった。

 過去にはそういう店で遊んだり、行きずりの関係を楽しんだりと、散々に遊びつくしてきた。

 しかし、クウカと良い仲になり、彼女の虜になった今、他の女のことは頭になかった。


 クリストフが知っている女は、皆、クリストフの【勇者】という肩書きか、類まれなクリストフの外見に惹かれてやって来るものばかりだった。


 だけど、クウカは違った。クリストフ自身を愛し、どこまでも尽くしてくれる。

 関係を持っても態度を変えたりせず、その純真さは失われなかった。


 そんな彼女に身体も心も奪われたクリストフは、他の女なんかどうでもいいと思うまでに変化したのだ。

 隣で微笑みを浮かべているクウカこそが、誰よりもクリストフの外側にしか興味ないことに気づかずに。


「ウルは?」

「ウルさんはずっと部屋に閉じこもりきりです」


 心配そうな表情を浮かべるが、本心ではどうでもいいと思っているクウカだった。


「後、あいつは? なんだっけ、名前忘れたけど、新入りのヤツ、あいつはどうしてんの?」

「ジェイソンさんですか?」

「ああ、そうそう。それそれ。あいつもビビって部屋にこもってんのか?」

「いえ、ジェイソンさんは脱退しました」

「はあああ???」

「置き手紙を残して、いなくなってました」

「おいおいおいおい。なんだそりゃ。せっかく、入れてやったのに、ひとつも役に立たなかった上、黙って出て行っただあ?」

「はい、そうなんです。ヒドいですよね」

「チッ。信じらんねえほど恩知らずなヤツだな」

「ええ、本当です」


 クウカはクリストフの怒りに同調する。

 そんな彼女に、クリストフはどんどん気分が良くなってくる。

 自分が肯定されることがなによりも嬉しいクリストフ。

 そして、それを知り尽くしたクウカの演技。

 お似合いの二人かもしれない。


「まあ、今頃、ウチに入れてもらったけど、通用せずに追い出されたって悪評が広まってるだろ。もうアイツを入れてくれるパーティーなんかないだろうな。はっはっは」

「ホントです。ざまあみろですっ!」

「つーか、みんな使えねえな。頼りになるのはクウカだけだ」


 クリストフはクウカの華奢な身体を引き寄せ、頭を撫でる。


「そんなことないです……でも、クリストフさんに頼りにされると嬉しいです」

「そうかそうか。クウカも俺を頼って良いんだぞ」

「はいっ。私にはクリストフさんだけです」


 クウカはクリストフから離れるつもりもない。

 そして、クウカの暗示によって、完全に依存させられてしまったクリストフもまた、彼女から離れることはできない体になっていた。


「それで、これからどうしますか? やっぱり、やめますか?」


 クリストフの腕の中で、クウカが見上げたまま問いかける。


「いや、やめない。二人で潜ろう」

「二人で……ですか?」

「不安か?」

「いえ、クリストフさんと一緒なら、怖いものなんかないです」

「そうか」


 クリストフは嬉しそうに笑う。


「それに……クリストフさんと二人っきりって、なんかドキドキします」


 顔が赤いクウカにそう言われ、クリストフの胸が少年のようにときめいた。


「あっ、ああ。そうだな。俺も楽しみだ」

「はいっ! 嬉しいですっ!」


 クウカはクリストフに抱きつき、喜びを表現する。

 しかし、健気で真っ直ぐな言葉とは反対に、クリストフの胸に埋めたクウカの表情は醜く歪んでいた。


 抱き合ったまま、二人の会話は続く。


「なあ、クウカ」

「なんですか?」

「ここ最近の失敗で俺は気づいた」

「なににですか?」

「俺はあれだ、スランプってやつみたいだ」

「スランプ……ですか?」

「ああ、これまで順調に来ていたから分からなかったが、誰でも一時的に調子が落ちることは普通らしい。それをスランプって言うんだ」

「だからだったんですね?」


 トンチンカンなことを言い出したクリストフに、クウカは必死で笑いをこらえながら、適当に話を合わせる。

 でも、こういうおバカなところも、クウカには可愛く思えた。


「ああ。だから、癪ではあるが、少し戻ろうと思う」

「そうですね。その方が良いかもしれませんね」

「俺とクウカの二人なら、2層か3層あたりが良いかと思うが、オススメの狩場はあるか?」


 ピタリ。

 はまった。

 今、最後の1ピースが、ピタリと、はまった。


 沸き上がる歓喜をクウカは必死で押しとどめ、いつもの笑顔を作り上げる。


「ええ、それでしたら、とっておきの場所がありますっ!」

「そうか! じゃあ、今日はそこに行こう」

「はいっ!」


 こうして、二人はダンジョンに潜る。

 浮かれているクリストフはまだ知らない。

 これが彼にとって、ダンジョンに潜る最後の機会になることも知らずに――。

 失敗から立ち直ろうとする勇者。

 それを支える健気な聖女。

 ラブラブっすなあ(棒読み)。


 次回――『勇者パーティー23:クリストフ編終幕2』


 ふったっりっでっ、ダンジョン〜〜♪

 どこ連れてかれるんだろ?

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― 新着の感想 ―
[一言] なる程、ジェイソンの悪評を広げたのはクリストフの仕業だったのか。まあ、ジェイソンの方も十分に非はあったが。 それにしても、痛いのや、猟奇なのや、狂ってる描写が含まれてると作者様が言ってる以上…
[気になる点] ……まさかクウカってネクロフィリア(死体に欲情する異常者)じゃないだろうな…? それも生前愛した人間の死体を好むとか。
[一言] んんん?ただのヤンデレじゃないのか? 妙に計画的だな。
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