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055 火炎窟攻略5日目6:火の試練5

「そう。でも、サラは失望した。そして、怒っている。だから、もう、手加減しない」


 言い終わるや、サラの姿がブレる。


「なッ!?」


 次の瞬間、サラは目の前にいた。

 慌てて両腕でガードするが、サラは水平に手刀をなぎ払う――。


「はっ!?!?」


 俺の両腕の肘から先が消失していた。

 遅れてやって来る激しい痛みと燃えるような熱さ。


「ぎゃああああああ!!!!」


 頭が現実を理解するより先、耐え難い痛みが襲いかかり、思わずうずくまる。


「ここは火の世界。すべてはサラの思うがまま」


 冷めたような怒ったような声が、上からかけられる。

 痛みのあまり、なにも言い返すことが出来ない。


「……………………クッ」


 痛みを堪え、脂汗がダラダラと流れる。


「だから、こんなことも容易い」


 サラは蹲る俺の首を片手で掴み持ち上げる。

 そして――。


「次は足」


 軽く蹴っただけのように見えた。

 しかし――。


「うぎゃあああああ!!!!!」


 今度は膝から下が消えた。

 四肢を失った俺を、サラは興味なさそうに放り投げる。


 受け身も取れず、地面にぶつけられた俺は、どこが痛いのか分からないくらいの激痛に転げ回る。


「サラをがっかりさせた罰」


 サラはツカツカと歩み寄ってくる。

 チラと見ると、いつの間にかその手には炎の槍が握られている。


「これも罰」


 無造作に炎の槍が俺の腹部を突き抜け、地面に縫いつけられる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


 想像を絶する痛み。

 縫い止められているので、のたうち回ることすら許されない。


「このまま頭を潰して終わりにしても良いんだけど――」


 サラはほんの少しだけ口角を上げて笑う。


「そのまま燃え尽きていく姿を見ているのも、また、一興。少しでもサラを楽しませること。それがあなたに残された最後の仕事」


 はりつけにされた虫が弱っていくのを観察するような目つきで、サラは俺を見下ろす。


 ダメだ。このままでは死を待つのみ。

 こんなところで死ぬわけにはいかない。

 俺はまだ、なにもなしていない。

 このままだと幼馴染に追放されて、無様に死んでいくだけ。


 そんなのッ、許せるかッ!


 怒りの炎が燃え上がる。

 先ほどと同じ過ちは繰り返さない。

 炎を燃え上がらせ、それと同時に制御するのだッ!


 やってやる。

 やってやる。

 やってやる。


 身体が焼ける痛みに耐えながら、俺は必死で考えを巡らす。

 このままだと死ぬだけ。

 それが嫌なら死ぬ気になって考えろッ!


 考えろ。

 考えろ。

 考えろ。


 これは殺し合いじゃない。

 試練だ。

 乗り越えられる試練なんだ。


 効果的な手段は――。

 今の俺に出来る最善は――。


 !!!!!


 俺は今まで勘違いしていた。

 この試練の意味を――。


 だから、必死になってサラの攻撃を躱したり、サラに一撃を入れようと、やっきになっていた。


 だけど、違うんだ。


 これは火の試練だ。

 他の精霊の力を借りれない以上、火に打ち勝つ方法はただひとつ。

 それを悟った俺の口から自然と詠唱が紡ぎ出される。


 ――火は人と共に有り。


 ――ヒトは火と出会いて人とり。

 ――人の歩みは、火の歩み。

 ――人の有るところ、火もまた有り。


 ――人とは火を起こす者(なり)

 ――では、火とはなんぞ?


 ――は。


 ――暗きを見通す灯りであり。

 ――肌を暖める温もりであり。

 ――獣を追い払う守りである。


 ――けがれた水を清め。

 ――毒を殺し肉を与え。

 ――鉄を鍛え、道具と為す。


 ――火は壊し、そして、新たな命を生み出さん。


「火を用いることと、火を起こすことはまったく別のこと。俺は今まで火を用いていただけだ。しかし、俺は火を起こすことができる。見ろっ、これが俺の起こす火だッ!」


「――【電光石火イグニッション・ファイア】」


 俺は消えかけていた心の火を燃え上がらせる。

 心の炎は現実の炎となって顕現する。

 数メートルに及ぶ高さの太い炎柱だ。

 俺の心の強さを表しているようで心強い。


 炎柱は俺に刺さっていた炎槍を取り込み、一体化する。

 取り込まれた炎は俺の新たな活力となる。


「炎よ、我が傷を癒せ――【炎癒キュア・フレイム】」


 腹部の大きな穴がふさがる。

 失われていた手足が再生する。

 それ以外の細かい傷もすべて癒えていく。


「サラが言ったように、ここは火の世界。火であれば自由自在に扱うことが出来る世界だ」


 そして――。


「火は燃やして奪うばかりではない。火は新たなものを生み出す存在でもある。それを使いこなすのが火の精霊術だッ!」


 俺は立ち上がり、サラに言い放つ。

 俺の全身は輝かんばかりの炎で覆われている。

 攻撃手段であり、防御手段であり、そして、活力の素である。


 今までは俺は火精霊たちを使役して火を操り、サラを倒そうとしていた。

 しかし、それではサラには勝てない。

 いや、そもそも、勝ち負けの話じゃないんだ。


 ――精霊は火となり、火は精霊となる。


 火と火精霊が別物だと考えていたからダメだったんだ。

 火と火精霊は表裏一体。

 どちらが主でも、どちらが従でもない。

 火精霊を操れる俺は、火もまた操れる。

 そして、火は心の中にもある。

 心の炎を燃やし、火や火精霊に働きかける。


 これこそが、精霊術の真髄だッ!!!


「なあ、サラ。俺もやっと分かったぞ」

「遅い」

「お前、俺と遊びたかっただけだろ?」

「最初からそう言っている」

「素直じゃねえんだから」

「火は気まぐれ。姿をひとつに留めない」

「そうだな。まあ、俺も疲れたし、待たせてる人もいる。これで終わりにしよう」

「見せて、ラーズの心意気」

「ああ、多分二回は無理だ。一発勝負だ。行くぞッ!」


 俺は渾身の叫びを上げるッ――。


「――【以火救火いかきゅうか】」


 火をって火を救う。

 俺はサラの細い身体を抱きしめる。

 俺の炎とサラの炎がひとつに融け合っていく。


 炎がひとつになり。

 身体がひとつになり。

 魂がひとつになっていく。


「そもそも、火に一つとか二つとかないんだよな」

「一つが全てで、全てが一つ。それが火」

「命を奪うのも火だが、命を与えるのもまた火。教えられるまで気付かなかったな」

「分かれば、良い」

「破壊と再生か。気づくのに時間がかかって済まなかったな」


 サラがフルフルと首を横に振る。


「良い。分かってくれたから。途中で諦めかけたけど、ラーズはちゃんと分かってくれた。だから、良い」

「そうか」

「ゼロから始まった火は、燃え尽くし、そして、ゼロへとかえって行く」

「ああ、刹那的だが、それもまた正しい」

「サラもラーズに還って行く」

「ああ、俺がサラの居場所だ」


 フフッと笑って、サラは消えて行った――。


「これからヨロシクね。あるじどの」


 この言葉を残して――。

 火の試練、無事クリア!


 次回――『勇者パーティー:ジェイソン編終幕』


 頑張れ、ジェイソン!


 ジェイソン編は全2話です。


   ◇◆◇◆◇◆◇


【お断り】


 まさキチです。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 次回から勇者サイドの各キャラごとのエンディングが描かれます。

 あえて、賛否が別れるだろう、少し冒険したストーリーにしました。

 猟奇的な描写もありますし、このキャラにここまでしなくても、という終わり方もあります。


 勇者サイドは読まなくても、メインの話には支障がない構成にしてあります。

 刺激が強い話を読みたくない方、特定のキャラに強い思いがある方は、読まずに飛ばした方がいいかも知れません。


 そういうわけで、「感想欄が荒れるだろうな」と思ってます。

 その際、攻撃的なコメント、汚い言葉、暴言など、他の方が見て不快になるであろうコメントは削除いたします。

 また、あまりに酷く荒れた場合には、感想欄を一時停止することもあります。


 もちろん、良識ある感想は大歓迎です。

 実際、いつも皆様の感想からエネルギーをいただいてます。


 以上、興ざめなお話で大変恐縮ですが、ご理解いただければ、ありがたいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初自分勝手でこっちを試すようなサラに腹たったw山火事とかの火を迎え火で消すみたいに火でヤっちゃってくれないかなって思ったけどいい感じに最後はまとまって良かった(*^_^*)
[一言] 己の力を理解する試練って感じか。理解出来なければ死ねっていう荒治療なの怖い どうでもいいけど、キュアフレイムってプリキュアの名前にありそうだなって思った。
[一言] ウル以外はどうなってもいいので、ウルには救いを!
感想一覧
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