043 火炎窟攻略2日目9:リュークとセラ
ロッテさんと別れた俺たちはギルド酒場にて、『月詠の狩人』たちと合流した。
彼らとは第20階層ボス部屋前で出会い、アドバイスする約束をしたのだ。
リーダーのリューク含め、みんな礼儀をわきまえた後輩で、俺は若い彼らが気に入った。
だから、丁寧にアドバイスを伝えたのだが、長々と語ったアドバイスに彼らは熱心に耳を傾けていた。
今はそれも終わり、彼らは食べるのも忘れ、ボス攻略について熱心に話し込んでいる。
俺とシンシアは彼らの姿を懐かしい思いで見守りながら、のんびりと食事と酒を楽しんでいた。
「よくあれだけのアドバイス出来たわね。リューク以外の四人のジョブはさっき聞いたばかりでしょ?」
「ボス部屋前で出会った時に、残りの四人の装備を見たし、そのときにジョブも予想してたんだ。だから、ボス戦の間、彼らだったらどうするか考えてたんだ。シンシアがほとんどやってくれたから、ボス戦の間は暇だったし」
「さすがだわ。それと気になってたんだけど、『無窮の翼』のときはフレイム・バット戦はどうやったの? ラーズの凄い作戦でも使ったの?」
「いや。俺たちの場合は、アイテムと精霊付与で火力底上げしたウルの氷属性範囲魔法一発でズドンだ。作戦もなにもない」
「…………ホント、規格外ね、『無窮の翼』は。最短クリアはだてじゃないわね」
「まあ、終わった話だ」
「そうね……」
そんなところで、不意に肩越しに声をかけられた。
少女の声だ。
「あのぉ……すみませんけどぉ……」
「ん?」
振り向いたら、予想通りリュークたちと同い年くらいの女の子だ。
この街のギルド酒場にいるってことは冒険者で間違いない。
見覚えはない子だと思うけど……。
もしかすると、前回のアインス滞在時と時期がかぶっていて、その時に知り合った子かもしれない。
必死に記憶を思い出そうとするが、なにせ二年前のことだ……中々出てこない。
すると、困っていたところにシンシアが助け舟を――。
「あら、セラちゃんじゃないの」
名前を聞いても、心当たりがない。
「知り合い?」
「ほら、さっき第20階層で助けてあげたモンハウの子よ」
「ああ、そっか。なるほど」
ああ、納得がいった。
モンハウから逃げてくる女の子たちのパーティーがいたな。
俺は反対方向に飛んで行ったファイア・バットを追いかけたから、彼女たちのパーティーとはすれ違っただけだ。
しかし、その場にとどまったシンシアは彼女たちと挨拶を交わし、知り合ったのだろう。
「それで、なにか用かな?」
「さっきはちゃんとお礼を言えなかったので…………ってなんでアンタがここにいるのよっ!」
俺に話しかけている途中、そこにリュークがいることに気づいたセラが牙を向いた。
「よお、セラ。なに、お前またやらかして、助けてもらったの?」
「またってなによっ! いつもやらかしてるのはそっちでしょうがっ!」
「なんだとぉ!」
セラの挑発に、リュークが怒りを顕に立ち上がる。
この沸点の低さ。若いなあ。
先ほどの真剣な態度とは打って変わって、今はただの悪ガキだ。
どうやら、リュークとセラは知り合いのようだ。
当の二人は喧嘩しているつもりだろうが、外からすればじゃれ合っているようにしか見えない。
年も攻略階層も近いみたいだし、同期なのかな?
この街では、同期は結構比較されるから、良い意味でも悪い意味でも意識してしまう。
お互い良いライバルになれば、ともに刺激しあって良い方向に行く。セラとリュークもそうであればいいのだが。
ちなみに、『無窮の翼』は早々と同期から一歩飛び出したので、ライバル関係のパーティーはいなくて、少し寂しかった。
目の前の彼らを見ていると、少しうらやましく思える。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。セラちゃんもリューク君も。ねっ?」
「はっ、はい」
「おっ、おう」
シンシアが慈愛に満ちた表情でたしなめると、二人とも大人しく矛を収めた。
リュークだけでなく、セラまでもが少し顔を赤らめている。
シンシアの大人の魅力に毒気を抜かれたようだ。
それを満足気に見ながら、シンシアが口を開く。
「セラちゃん、ラーズにお話があるんでしょ?」
「はっ、はい」
「リューク君、それが終わるまでおとなしくしててね。ねっ?」
「はっ、はい」
「じゃあ、セラちゃんどうぞ」
二人とも、完全にシンシアの手のひらの上だ。
まあ、年上の美人お姉さんにかかれば、十代の若者なんてこんなものだ。
シンシアに背中を押されたセラが俺の方を向いて、真剣な表情になる。
「ラーズさんでよろしいでしょうか?」
「ああ」
「『五華同盟』パーティーリーダーのセラです。今日は危険なところを助けていただいてありがとうございました。この借りは必ずお返しいたしますので」
セラは深々と頭を下げる。
律儀な子だ。こういう子は周囲からも可愛がられるだろう。
リュークとはぶつかり合っているようだが、お互いいがみ合っているわけではなさそう。
こういうのもまた良い人間関係だ。
「頭上げてよ」
「はっ、はい」
「うん。感謝の言葉はもらっておくよ」
「はいっ、ありがとうございます」
「ただ――」
「…………」
「借りに関しては、返す相手を間違っているよ」
「えっ?」
セラは俺の言葉にポカンとしている。
そりゃ、そうだよな。
俺が言われた時も同じリアクションだったのを覚えてる。
「俺も若手だったときに先輩冒険者に助けられたことがある。今日の君たちみたいにね」
「…………」
「そのときに言われたんだ。『借りを返す気があるなら、困っている後輩を助けてやってくれ』ってね」
「…………」
「その先輩もさらに上の先輩に助けられ…………そういう連鎖がずっと続いているんだよ。俺は冒険者のそういうところが好きだし、自分がその一員であることに誇りを持っている。感謝する気持ちがあるなら、この連鎖を続けてもらえると嬉しいな」
「はいっ! 絶対にそうしますっ!」
セラちゃんはキラキラとした目を向けてくれる。
彼女だけでなく、『月詠の狩人』の面々も真剣な顔で聞き入ってる。
うん。俺が先輩から受け継いだ思いは、ちゃんと彼らに届いたようだ。
彼らなら下の世代へとちゃんと伝えてくれるだろう。
少し肩の荷が軽くなった気がした。
「そうだ。セラちゃん時間は大丈夫? 良かったら、空いてる席にどうぞ?」
「え〜、シンシアさん、コイツなんか床で十分ですよ」
「ウルサイっ。アンタは黙ってろ。シンシアさんは私を誘ってくれてんだっ! シンシアさん、お誘いありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますね」
「オマエの顔見てると、酒がマズくなるんだよ」
「うっさい! どうせ酒の味なんて分かんないんだから、泥水でもすすってればいいのよっ!」
「けっ……」
へそを曲げたのか、リュークはそっぽを向いてしまった。
「では、失礼します」
セラは俺の隣に腰を下ろした。
てっきりシンシアの隣に座るものだと思っていたから、これは意外だった。
「えへ」
「おっ!?」
思っていた以上にセラとの距離が近い。
二人から厳しい視線を向けられる。
リュークとシンシアだ。
リュークはそっぽを向いているけど、横目でこちらを気にしている素振り。
シンシアも厳しい視線を投げかけてくる。
セラは二人の視線は気にせずに、俺の手を両手で掴んで来た。
そのまま腕を引っ張られ、俺の身体はセラの方を向く。
「今日は本当に助かりました。シンシアさんから聞きましたけど、お二人はスゴい方だそうですね。お話を聞かせて下さい」
「おいっ、ラーズさんはオマエに構っているほどヒマじゃねえんだよ」
「おっ、おう……」
二人の若さに当てられていると、背後から冷たい声が――。
「ねえ、セラちゃん。ちょっとくっつき過ぎじゃないかしら?」
「あっ、そうでした。嬉しくって、つい。ゴメンナサイ」
セラは慌てて手を放し、俺から離れる。
リュークは「チッ」と舌打ち。
セラを加えて仕切り直しとなったが、気になったことがいくつか。
セラがやたらと俺に近かったこと。
注意されても俺に密着してくるし。
甲斐甲斐しく料理を取り分けてくれるし。
俺のジョッキが空になると、すぐにお代わりを頼んでくれるし。
そんなセラと俺のやり取りを見て、リュークが不機嫌そうにしていたこと。
セラが来る前はリーダーらしく率先して会話に加わっていたのだが、セラが来てからはほとんど喋らず、早いピッチでエールを流し込んでいた。
そして、最初は警戒する視線をセラに向けてたシンシアが、いつの間にかいつもの彼女に戻り、それ以降は積極的にセラに話しかけていたこと。
ちなみに、『月詠の狩人』の他の4人は、リュークとセラには関わらず、彼らだけで盛り上がっていた。
リュークとセラのやり取りは毎度のことなのかもしれない。
「じゃあ、そろそろ解散するか?」
いい時間になったので、『月詠の狩人』と別れ、俺たちも拠点に戻ろうとしたところで、シンシアが口を開いた。
「ねえ、セラちゃん。今夜、ウチの拠点に泊まっていったらどうかしら?」
シンシアさん、なに考えてるんすかね?
次回――『火炎窟攻略2日目13:セラ宿泊』
お泊り! お泊り!
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倉庫区様
素敵なレビューありがとうございました!
人生初レビューで感動しきりです!
この気持ち、執筆でお返ししたいと思ってます!
これからもよろしくお願いします!




