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032 火炎窟攻略2日目1:前衛シンシア

 ――ファースト・ダンジョン『火炎窟』第11階層。


 ファースト・ダンジョン攻略を開始して二日目。

 今日は早朝からダンジョンに潜り、丸一日を攻略に費やす予定だ。


 ダンジョン入り口から転移した俺とシンシアは、第11階層のスタート地点に降り立った。

 第11階層も第10階層までと同じく石造りの迷宮型フロア。

 違いといえば、石の色が少し暗くなっているくらいだ。この形状が第20階層まで続く。


 昨日と同じく、今日も精霊術のエンチャントで強化した身体でダンジョンを駆け抜ける予定だ。

 今日の目標は第20階層のボスモンスター討伐まで。


 昨晩、地図で計測したところ、踏破距離は約300キロメートル。

 昨日の約3倍もあるが、今日は一日がかりだし、昨日は余裕をもっての進行だったので、十分に達成可能な目標だ。


 そして、今日は昨日との違いがひとつある。


「調子はどう?」

「ええ、絶好調よ」


 前に立つシンシアは、緊張も気負いもなく自然体。

 伝わってくる気配から、調子の良さが伝わってくる。


 今日は俺ではなく、シンシアが先頭を務める。

 昨晩の打ち合わせ通り、彼女の力量確認と、連携の練習を兼ねてだ。


「最初は雁行陣で行こう」

「ええ」


 シンシアを先頭に、俺は左斜め後ろ1メートルほどに位置取る。

 シンシアの武器は短めのメイスなので、1メートルくらい離れていれば、彼女の間合いを邪魔することもないし、彼女は右利きなので、左側を俺がフォローできる。

 それに雁行陣は他の陣形に移りやすいという長所もある。

 俺が右に移動すれば縦陣、前に出れば平行陣に移行だ。


「じゃあ、エンチャントしたら出発しよう」

「うん。お願いね」


 昨日と同様、火と風の精霊の加護を二人に付与する。

 そして――。


『水の精霊よ、シンシアの武器に宿り、凍てつく武器となれ――【氷武器アイス・ウェポン】』


 途端、シンシアのメイスが霜を帯び始め――あっという間に氷に包まれる。


「わあ、すごい! それに全然冷たくないのね」

「ああ、氷属性を付与した。ここらのモンスターなら、一撃で倒せるよ」

「ふふっ、楽しみ!」


 シンシアが二度、三度メイスを軽く振って調子を確かめる。

 その顔を見ると、満足しているようだ。


 シンシアの武器に氷属性を付与した理由――それは、第11階層からは火属性のモンスターが頻出するからだ。

 シンシアの実力的には付与なしでも問題ないだろうが、俺の精霊術の練習という意味でも、付与しておいたのだ。


『水の精霊よ、凍てつく剣となれ――【氷剣アイス・ソード】』


 俺も自分用に氷剣を呼び出す。これで準備完了だ。


「じゃあ、行くわね」

「ああ、今日はシンシアが先行だ。俺は後から付いて行くよ」

「おっけー、行くよー」


 颯爽と駆け出すシンシアを追いかけ、俺も走り出した――。


 走る俺たちの周囲を精霊たちがくるくると回りながら付いて来る。

 特に、ここ火炎窟は火の精霊にとって快適な環境なようで、いつもよりご機嫌で飛び回っている。

 そのうちの一体が俺に情報を伝えてくれる。


「シンシア、敵だ。前方20メートル先、ファイア・ラットが五体」


 精霊とは未だ会話することは出来ないが、こういった情報のやり取りが出来るようになった。

 頭の中に直接、情報を伝えてくれるのだ。

 俺からも、索敵や付与の強弱調整をお願いすると、精霊たちはその通りに行動してくれる。

 だから、氷剣の長さを一瞬で変えたりも出来る。


 その上、精霊の能力はずば抜けている。

 索敵ひとつとっても、俺の【索敵】スキルはレベル4だが、そんな俺よりも先に精霊が敵の接近を教えてくれるほどだ。


「ええ、分かったわ」

「フォローいる?」

「大丈夫よ」

「オッケー」


 会話をしているうちにファイア・ラットとの距離が縮まっていく。

 ファイア・ラットは全長30センチほどのネズミ型モンスターで、その毛皮は燃え盛る炎で覆われている。


 攻撃力は大したことがない。しかし、身体が小さい上に、素早く動きまわるので、攻撃を当てるのは中々に骨が折れる。昔は、俺も苦労したものだ。


 だが、ここにいるのは【2つ星】冒険者だ。

 この程度の的にピンポイントで打撃を命中させることが出来なければ、サード・ダンジョンでは通用しない。


 シンシアは速度を落とすことなく、メイスを一閃、二閃、三閃――。


 五体のファイア・ラットはドロップ品を落とし消え去る。

 俺たちの接近に気づくことすら出来なかっただろう。


 それにしても、流れるように見事な攻撃だった。

 一切の無駄を削ぎ落とした、洗練された動きだ。

 思わず見惚れてしまった。

 飛び抜けて美しい彼女だけに、まるで物語に出て来る女傑のように神々しい姿だった。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない……」

「じゃあ、行くわよ」

「ああ」


 その後もシンシアはファイア・ラットやその変種などの小型モンスターを蹴散らして突き進んで行く。

 そのまま進んでこの階層も残り半分というところで、精霊の探知網に新たなモンスターが引っかかった。


「前方の曲がり角の先に、オークが一体」


 オーク、通称、豚人間。

 身長は180センチほど。

 人間のような胴体に豚の頭。

 醜悪極まりないモンスターだが、その身体は並の人間より二回りほども分厚く、攻撃力・防御力ともに高い。

 そして、その肉の旨さは昨晩味わったばかりだ。


 この階層では一番強いモンスターだが――シンシアからは頼もしい返事が返ってきた。


「了解! このまま突っ込んで倒すわ。お肉ゲットよ!」

「おう、任せた」


 これまで俺の出番はなし。

 全部、シンシアが一蹴してきた。

 この調子でオークもやっつけてくれるか?

 さすがにオークのような大型モンスターは厳しいか?


 そんな俺の心配は杞憂だった――。


 角を曲がり、そのままの速度でオークに突進。

 ミスリルメイスを横薙ぎにフルスイングした。


「ぶげべぇら」


 無様な悲鳴を残し、オークは5メートルほど吹き飛び――絶命した。


 シンシアは一撃を放った後も速度を緩めず、倒れたオークの横を駆け抜ける。

 まるでそこに敵などいなかったかのように。


 俺は急いでドロップ品のオーク肉をマジック・バッグに仕舞い込みながら後を追う。

 魔石やあまり価値のないドロップ品はスルーだが、肉となれば話は別だ。

 昨日の打ち合わせでも、「肉は拾おう」と意見が一致した。

 ドライの街の冒険者がどれだけ肉に飢えているか分かってもらえるだろう。


「凄いわね。あんなに飛ぶとは思わなかったわ」

「凄いのはシンシアだよ」


 確かに俺のバフによる強化はあるのだろうが、それにしても見事なフルスイングだった。

 躊躇いなく敵に近づき、全力でのフルスイング。

 やっぱり、シンシアは前衛向きの性格かもしれない。


 シンシアの快進撃はその後も続いた。

 小さなモンスターは的確に捕らえ、大きなモンスターはその身体ごと弾き飛ばす、正確で強力なメイスさばき。

 シンシアの前に第11階層のモンスター程度では、俺たちを足止めする障害物にすらならなかった。


 その調子で第11階層を難なく踏破し、俺たちは走り続ける――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 ――午前11時半。


 順調に攻略を進めてきた俺たちは、第16階層の通路をひた走っていた。


「左ッ」

「オーケー」


 走る先には丁字型の分岐。

 先頭のシンシアが確認の合図を送ってきた。


 もちろん、俺もシンシアも全階層のマップが頭に入っており、どのルートを進むか完全に把握している。

 それでも、分岐路でどちらに進むか、その都度確認するようにしている。


 間違いを避けるためという目的もあるが、主な目的は別にある。

 それは口頭でのコミュニケーションの錬度を上げることだ。


 こういう簡単なやり取りでも、それを積み重ねることによって、相手の呼吸が分かるようになる。

 いざという時に滑らかな連携をとるためには、これが必須。いわゆる、阿吽あうんの呼吸というヤツだ。


 短いやり取りで、意識を共有すること。

 呼吸を合わせ、流れるように連携すること。


 それがなによりも大事だと、尊敬する冒険者たちから教わった。

 生憎と『無窮の翼』では上手くいかなかったが、それでも俺は努力を続けてきた。

 今度こそ、シンシアとは完璧な連携をとれるようになりたいのだ。


 ――分岐が近づいてくる。


 シンシアが左に曲がり、俺も曲がろうとしたところで、火精霊の一体が俺から離れ、右に曲がっていった。


「ストップ」


 俺が声をかけると、シンシアは速度を落とし、立ち止まった。


「どうしたの?」

「いや、あれを見てくれ」


 俺は離れていった火精霊を指差す。

 【精霊視】のスキルを持つシンシアにはそれが見える。


「あら、なにか誘っているみたいね。どうしよう?」

「精霊が悪意を持っているとは思えない。それに、このフロア程度なら、なにか起こっても対応できる。行ってみよう」

「了解。私が先頭?」

「そうだなあ…………」


 俺は考え込む。

 俺が先頭の方が安全だ。

 しかし、ここはシンシアを信頼しよう。


「うん。シンシアに任せるよ。俺は探知に専念するから、戦闘はよろしくね」

「うんっ。任せて!」

「よし、行こう!」


 シンシアは火精霊に向かって走りだす。

 俺もその後を追いかけるが、俺たちが近づくと火精霊はどんどん逃げていく。俺たちを誘い込むかのように。


 火精霊の導くままに走り続ける。

 頭の中の地図と照らし合わせると、だんだんと次層への階段から離れて行ってることが分かる。


 ――どこへ向かってるんだろうか?


 この辺りはあまり旨味がなく、冒険者たちがあまり近寄らないエリアだ。

 俺は精霊による探知と【索敵】スキルを組み合わせて最大限の警戒をしているが、付近にはモンスターも冒険者も見つけることが出来ない。


「シンシア、なにもいないみたいだけど、一応警戒を続けて」

「うん。分かった」


 それから走り続けて3分ほど――。


「行き止まりね」

「ああ」


 行き着いた先は袋小路だった。

 俺たちが追いついたことを確認した火精霊は、なにか満足した様子で俺に纏わりつく。

 なにかは分からないけど、俺たちに伝えようとしてくれたのだろう。

 俺が「案内ありがとう」と伝えると、火精霊はフルフルと震えた。


「ただの壁みたいだけど……」


 シンシアは行き止まり壁を見つめてつぶやくが、不用意に壁に触れたりはしない。

 ファースト・ダンジョン攻略中のルーキーだったら、なにも考えずにぺたぺたと壁に触れてしまうところだ。

 しかし、さすがに【2つ星】ともなれば、そんな迂闊なことはしない。


「俺が調べてみるよ」

「ええ、お願いね」


 本来、敵の探知、罠の発見、宝箱の解錠などのいわゆる探索系スキルはシーフ系のジョブが専門とする。

 しかし、本職には敵わないが、それ以外のジョブでも取得することは可能だ。


 これは探索系のスキルに限らない。

 どのスキルであっても、誰でも取得できるのだ。


 しかし、それはあくまでも可能性の話だ。

 スキルとジョブとの相性によって、取得の難易度も成長の速さも異なる。

 そして、中にはほとんど不可能とも言える組み合わせも存在する。


 例えを挙げると、【精霊使役】のスキルはジョブランク1の【精霊士】になれば自動的に取得するが、それ以外のジョブが取得した例は歴史を遡っても存在しない。


 これは極端な例だが、基本的に自分のジョブとは異なる系統のジョブのスキルは取りづらいのだ。

 しかし、簡単なスキルであれば、時間と努力は必要とするが、取得可能だ。


 そして、シンシアは探索系スキルを持ち合わせていないが、俺は3つの探索系スキルを持っている。

 本職には勝てないが、どれもダンジョン攻略に欠かせない有用スキルだ。


 ひとつ目は【索敵】だ。

 モンスターと他冒険者の早期発見のため、昨日からフルで活用しているスキルだ。


 ふたつ目は【解錠】。

 鍵のかかっている扉や宝箱を開けるスキルだ。


 そして、みっつ目が【罠対応】。

 罠を発見し、解除するスキルで、今回のような場合にとても役に立つ。


 どれもスキルレベルは4。

 【2つ星】の本職であれば、レベル6は超えている。

 それでも、レベル4もあれば、ファースト・ダンジョンやセカンド・ダンジョンでは困らないレベルだ。


 俺は【罠対応】を発動し、行き止まりの壁を調べる――。

 検索結果


 丁字路  8,710,000件

 T字路 267,000,000件


 丁字路惨敗……。


 次回――『火炎窟攻略2日目2:隠し部屋』


 なにがでるかな? なにがでるかな?

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― 新着の感想 ―
[一言] 後書きの検索結果… T使われる前から丁が使われていたから丁字路が正解だと思うけどな ティーとてい音も似てるからどちらでも良いかw
[一言] 実はフレイム・オーガの金棒をシンシアが振り回す日がくることを楽しみにしている
[気になる点] >途端、シンシアのメイスが霜を帯び始め――あっという間に氷に包まれる。 他の属性でも出来るのかな?これw [一言] >「凄いわね。あんなに飛ぶとは思わなかったわ」 >「凄いのはシンシ…
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