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192 ヴェントンの告白



「ラーズ、シンシア、少しつき合ってくれ」


 ヴェントンに呼び止められた。


「では、私はお先に。ロッテ、君もだ」

「ですが……」

「議事録をまとめたい」

「はい……」


 殿下と一緒にロッテも退出する。

 その顔はどこか晴れないようだったが、今はそれよりヴェントンが気になる。

 彼だけではなく、メンザも残るようだ。


「なんの話でしょうか?」

「…………」


 俺の問いかけにヴェントンは一度、目線を下げる。

 それから、ゆっくりと左手を右腕の腕輪に伸ばす。

 彼が魔力を流すと、全身が光に包まれ――。


 ボウタイのメンバーは幻覚の魔道具で姿かたちを変えている。

 光が収まると、さっきとは別の姿の男が、そこにいた。


 四〇過ぎ。

 その顔には深く、俺では分かりかねるなにかが刻まれている。

 その目は、いまだ冒険者としての光が灯っている。

 その身体は、鋼のように研ぎ澄まされている。


「これが本当の姿だ。今では知っている者は数人だけ」

「俺たちに見せた理由は?」

「二人には俺の本当の名も教えておこう」


 真剣な眼差しを向けられ、ゴクリと唾を呑む。

 隣でシンシアがギュッと拳を握るのが見えた。


「俺の名はルーカス。そして、一昨日戦ったヤツの名は、サージェントだ」

「ルーカス……サージェント……あっ」


 ヴェントン――ルーカスは頷く。


「知っているようだな」

「ああ、もちろんだ」


 俺だけでなく、当然、シンシアも頷く。

 冒険者ならば誰でも知っている名前だ。


 ここ数十年で【3つ星】を得て、『水氷回廊フォース・ダンジョン』に挑んだパーティーはたったの3つ。


 ハンネマンやメンザの『五帝獅子』。

 現在トライ中でシンシアの兄ロンバード率いる『神速雷霆しんそくらいてい』。


 そして、最後のひとつが――『最果てへ』

 リーダーはルーカス。そして、サージェントもメンバーの一人。

 彼らの終わり方は――。


「リードリッヒのことも?」

「知っている」


 十数年前、フォース・ダンジョン攻略中にメンバーが死亡。

 たしか、亡くなったのがリードリッヒという名の女性だ。

 それを機に、『最果てへ』は解散した。


「リードリッヒはサージェントの女だった……」


 ルーカスは唇を噛みしめる。

 俺もメンバーを失った。

 あんなかたちであっても、死に別れるという体験をしてきた。

 彼の抱えるものは、俺よりももっと重いのだろう。

 その重さがしわとなって、彼の顔に刻まれている。


「俺は死んだ……ハズだった。それも二回もだ」


 彼の視線は俺ではなく、遥か昔を見ている。


「リードリッヒが死んで、パーティーが解散した。冒険者としての俺はそのとき、一度死んだ」


 俺も何人も見てきた。

 本当に命を落とした者。

 そして、冒険者としての死を迎えた者。


 どちらがツラいのか、俺には知りようがない。

 笑って引退する者もいれば、屍のようにダンジョンを去って行く者もいた。


 【3つ星】を得た冒険者の重み。

 そこまでたどり着いた、本物の冒険者。

 冒険者としての終わり、仲間を失っての結末。


「それから一年は生きる屍だった。現実から目をそらし、かといって死ぬ度胸もない最低の生活だった――」


 抜け殻になった元冒険者を何人も見てきた。

 たとえ【3つ星】の彼でも、強靱な精神を持っていたとしても、見逃してくれない――それがダンジョン。


「――そんな俺を救ってくれたのが、アラヤさんだった」


 『五帝獅子』の元リーダーで、現在は冒険者ギルド・ドライ支部の支部長を務めている。

 彼の人柄からすれば、この場面で登場するのは、妙に納得できた。


「アラヤさんから聞いたんだ。『最果てへ』はまだ終わっていないと――」

 


ルーカスとサージェントの過去については、二人の回想シーン(第158話から第167)に詳しく書かれています。



【6月30日発売】

 書籍第1巻、雨傘ゆん先生の素晴らしいイラストで発売されます。

 書籍版はweb版から大幅改稿、オリジナルバトル追加してますので、web読者の方でも楽しめるようになっています。

 2巻も出せるよう、お買い上げいただければ嬉しいです!



次回――『ルーカスの提案』


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