183 SS1 ジェイソンの再起(上)
第140話で、ラーズとシンシアに再会した後のジェイソンのお話です。
ジェイソンは行きつけの酒場を訪れた。
奥の席ではパーティーメンバー四人がすでに酒を傾けていたが、いつもと少し様子が違う。
「悪い、待たせたな」
「気にすんなよ、兄貴。今、始めたとこさ」
気を利かせたメンバーがジェイソンの赤エールを注文する。
ジョッキが届いたところで、あらためて乾杯だ。
「兄貴、さっきの方とはもういいんですか?」
若い男が心配そうに尋ねる。
「ああ、そんな顔するなよ」
昔のメンバーと再会したことで、ジェイソンが抜けてしまわないか――それが心配だったのだ。
「たまたま会ったから、過去にケリをつけて来ただけだ。今後はすれ違っても挨拶するくらいだ」
「そうですか」
「だから、私が言ったでしょ。心配しすぎだって」
「まあ、良かった良かった」
「それで暗くなってたのか。安心しろ。俺からここを抜けることは絶対にない。嫌になったら、そっちから追放してくれ」
「そんなことしないわよっ!」
「するわけないっす」
「短い付き合いだけど、兄貴はもう俺たちの大切な仲間だ」
「ああ、そうだそうだ」
四人の顔を見回し、ジェイソンは潤みそうになる。
メンバーたちから必要とされる。
それがどれほど心強いことか。
『破断の斧』のときもそうだったはずなのに、その大切さを忘れてしまった。
今度は同じ過ちは繰り返さない。
ジェイソンはエールを一気に呷って、ごちゃまぜになった感情を一緒に飲み下す。
軽いエールの後味が、ジェイソンの心も少し軽くしてくれた。
「さっき彼女と出会って、過去に踏ん切りがついた。だから、お前たちにも聞いて欲しい」
彼らにはあの一件について詳しく話していない。
今こそが、話すのにふさわしいタイミングだ。
「あの子の名前はシンシア――」
ジェイソンは脱退の件について話し始めた――。
◇◆◇◆◇◆◇
ジェイソンがこの街ツヴィーに戻ってきた日のことだ。
馬車から降りたジェイソンは、その足で冒険者ギルドに向かった。
この街は半年ぶりだ。
あのときは、また戻ってくるなんて思っても見なかった。
ただ、前だけを見て、どこまでも進んでいけると――そう信じていた。
たったの半年。
短かったような、長かったような。
一連の件で、ジェイソンの心は大きく変わってしまったが、ギルドの建物は以前とまったく変わっていなかった。
来る者拒まず。去る者追わず。
相も変わらぬ佇まいで、ジェイソンを受け入れる。
「俺はもう一度やり直すんだ。ゼロから再出発だ」
わずかな間に髪は白くなり、十歳以上老けて見える外見になってしまった。
けれど、気持ちは若返った。冒険者を始めたばかりの初心を取り戻し、気力が満ちていた。
ジェイソンは喧騒あふれるギルドに足を入れる。
やはり、この街は若い。
はじまりの街アインスほどではないが、この前までいたドライよりは若さが違う。
ただ、夢と希望が爆発しそうなアインスとは違い、この街には夢を捨てた冒険者も数多い。
セカンド・ダンジョン途中で攻略を諦めた者。
ジェイソンと同じく、なんらかの理由でドライから出戻ってきた者。
生き方ではなく、職業としての冒険者を選んだ者たち。
自分は彼らとは違う――ジェイソンは自らに言い聞かせ、ギルドカウンターに向かった。
「どこか入れるパーティーはあるか?」
「はい、メンバー募集ですね……!?」
ギルドの受付嬢はジェイソンの顔を見て、笑顔を張り付かせる。
ジェイソンは予想していたので、動じることなく冒険者タグを差し出す。
「【2つ星】のジェイソンだ。ジョブは【戦斧闘士】」
名乗る男の見た目はもう引退してもおかしくない年齢だ。
受付嬢は必死に取り繕うとするが、「どうしてこんな人が?」という気持ちを隠しきれない。
ジェイソンは「そりゃ、そうだよな」と自嘲気味に口元を歪める。
「【2つ星】のジェイソンさん……あっ!?」
受付嬢はそこで気がついた。
最近話題の『無窮の翼』の壊滅騒動。
目の前に立っている男が、その当事者の一人であることに。
「なにか?」
「しっ、失礼しましたっ」
まだまだ動揺が収まっていないようだが、受付嬢は職務を思い出す。
手を動かすことによって、気持ちを落ち着けようとしたのだろう。
「えーと…………メンバー募集ですね……」
受付嬢は情報端末を操作し、データを探していく。
「……条件はございますか?」
「攻略を諦めていないパーティーだ」
「ジョブや到達階層についてはどうですか?」
「俺が求めるのは、本気で【2つ星】を目指している奴らだ。それ以外はなんでもいい」
「分かりました。では、前衛アタッカーを募集しているパーティーを照合しますので、しばらくお待ち下さい」
ほどなくして、受付嬢がいくつかの候補をピックアップしてくれた。
「これにする。ダメだったら、また頼む」
応募一覧を見て、ジェイソンはすぐにあるパーティーを選んだ。
理屈ではなく、直感で選んだ。
――翌日。
ジェイソンは顔合わせのために、ギルド酒場を訪れた。
次回――『ジェイソンの再起(下)』
8月15日更新です。
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