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165 ヴェントンの回想4

 『水氷回廊』からの帰り道。

 会話はまったくなかった。

 みな、自分の心と向き合うだけで精一杯だった。


 ギルドに報告を終えて、宿屋に戻るとすぐに、自室にこもった。

 仲間と一緒にいるのが辛かった。

 でも、一人でいるのは、さらに辛かった。


 ――翌日。


 ほとんど眠れないまま朝を迎えた。

 そして、そのときすでに、サージェントは姿を消していた。

 誰にもなにも言わず、黙っていなくなった。

 俺は内心ホッとして、次に、そんな自分を激しく嫌悪した。


 宿屋の食堂に三人座り、無言で時間が流れる。

 テーブルに並んだ食事がすっかり冷め切った頃になって、俺はようやく、口を開くことができた。


「解散しよう」


 返事はなかったが、沈黙こそが返事だった。

 俺たち三人は大きな街まで移動して、そこから別々の馬車に乗った。


 『最果てへ』は幕を閉じた。

 俺の冒険者生活も終わった。


 ――仲間を信じられなかったのは俺自身じゃないのだろうか。


 その思いが頭にこびりついて、消えなかった。


 その後、俺はドライの街に戻った。

 理由はとくになかった。

 なにか考えがあったわけではない。

 なにも考えずに乗り込んだ馬車がドライ行きだっただけだ。


 活気ある冒険者の街ドライ。

 【2つ星】の優秀な冒険者が集う街。

 旧知の友人もたくさんいる。

 ドライは、一年前と変わらぬ姿だった。


 だが、俺は街に拒まれている気がした。

 街は変わらずとも、俺が変わってしまった。


 夢見る冒険者たちが、遠い国の住人のように思えた。

 その輪の中に入っていけるとは、到底思えなかった。


 違う街を選べばよかった。

 だが、今さら、移動する気力もない。

 もう、すべてが、どうでもよかった。


 それからは、酒浸りの、廃人のような生活だった――。


 凍りついたリードリッヒの苦悶の表情。

 狂気に染まったサージェントの目つき。

 絶望に打ちひしがれた仲間たちの顔。


 罪悪感。

 後悔。

 自己嫌悪。


 酔っ払っているときだけが、唯一、忘れることができた。

 忘れるために酒に溺れた。


 そんな最低の生活を一年ほど送った頃。

 ひとりの男が俺を訪ねてきた。


「おう、酔っ払い。生きてるか?」


 腹を蹴飛ばされて目を覚ました。

 俺は酔い潰れて、裏路地でごみ溜めで寝ていたことを思い出す。


 チンピラが俺に絡んできたのかと思い、俺は濁った目で睨み返す。

 暗がりで相手の顔はよく見えない。

 だが、身を持ち崩したとはいえ、そこら辺のチンピラに負けるわけはない。

 苛立ちとともに起き上がり、男の顔を殴りつけ――。


「うっ――」


 俺の拳よりも先に、男の拳が俺の腹にめり込んでいた。


「弱くなっちゃったなあ」


 聞き覚えのある声はどこか寂しそうだった。


 ああ、男の言う通りだ。

 俺はすべてを失った。


 強さも。

 仲間も。

 生きる意味も。


 そんなことを思いながら、意識が薄れていった――。

次回――『ヴェントンの回想5』


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