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163 サージェントの回想4

「大丈夫だ。これでトドメだッ!」

「ダメよッ!!! 待ってっ!!!」


 止めるリードリッヒを振り切るように、俺は曲剣を振り下ろした。

 トドメを刺すための全力の一撃だ。


 曲剣は袈裟斬りにアイス・マジシャンの身体を斬り裂き、まっぷたつに両断した。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 アイス・マジシャンの身体がずり落ちる。

 確かな手応えを感じた俺は――油断していた。


 これで終わったと、完全に気を抜いていた。

 また、リードリッヒとやり直せる。

 その思いに浮かれていた。


 喜びの笑顔でリードリッヒへと振り返る。

 そこに同じ笑顔があると信じて――。


 だが、彼女の顔は歪んでいた。

 恐怖に怯え、歪んでいた。


「サージェント、まだよッ!!!」

「なんだとッ?」


 切実な叫びに俺は振り返る。

 倒したはずのアイス・マジシャン。

 原型は留めておらず、ひと塊の紫色の氷になっていた。


 そして、紫の氷塊は――。


「リードリッヒィィィィィィ!!!!!!」


 手から曲剣が落ちた。

 俺は駆け寄る。


 太い紫の氷柱の中に閉じ込められた彼女のもとへと――。


 まるで琥珀の中の虫のように、リードリッヒは氷柱の中で固められていた。


「リードリッヒ、リードリッヒ、リードリッヒ……」


 俺は直径1メートルもある柱にすがりつき、彼女の名前を繰り返すことしかできなかった。


「サー……ジェ……ント」


 柱の中から、くぐもった振動が伝わってくる。


「リードリッヒ! 生きてるのか? ちょっと待ってろッ!」


 俺は曲剣を拾い上げ、氷柱に叩きつける。

 何度も、何度も、叩きつける。


「クソッ、クソッ、クソッ――」


 魔法すら斬り裂くオリハルコンの剣は、だが、氷柱に弾き返されるばかりだった。

 傷ひとつつけられない。


「どうしてだ、どうしてだ、どうしてだ」


 柱の中のリードリッヒと目が合う。

 彼女の口が小さく動いている。


 彼女の言葉を一言も聞き漏らさないようにと、柱に耳を押しつける。


「サー……ジェ……ント……たす……け……て」

「ああ、待ってろ。今、助けるからッ!!!」


 曲剣を叩きつけ、叩きつけ、叩きつける。

 頑丈なオリハルコンの剣は刃こぼれひとつしない。

 だが、同じように、氷柱にもかすり傷ひとつない。


「クソッ――」


 剣がダメならと、マジック・バッグをひっくり返し、ありとあらゆる魔道具を試してみる。


 だが――なにをしても、氷柱にダメージを与えられない。

 リードリッヒの頬の赤みは失われ、怖ろしいほどに蒼白い。


 今、この一瞬ごとに、リードリッヒは死に近づいていく――。


「うわあああああ。リードリッヒ、リードリッヒ、リードリッヒ、リードリッヒ、リードリッヒ、リードリッヒ」


 拳で氷柱を殴りつける。

 繰り返し、繰り返し、繰り返し。


 皮膚が裂け、血が飛び散り、骨が砕けても、俺は止めなかった。

 俺を止めたのは、リードリッヒのか細い声だった。


「もう……いい……よ」

「リードリッヒ……」

「あなたが……傷つく……姿……見たく……ない」

「リードリッヒ……でも、俺は……」

「私は……もう……ダメ……」

「そんなことないっ! 諦めるなッ! 俺がなんとかするからッ!」

「ううん……それより……話……したい」

「あっ、ああ……そうだな」

「愛して……るわ」

「ああ、俺もだ。愛してるよ、リードリッヒ」

「今まで……ごめ……ん……な……なさい」

「悪かったのは俺だ。自分のことで精一杯で、君のことを思いやる余裕がなかった。ごめん、ごめん、ごめん」

「あなたと……過ごせて……楽しかったわ」

「俺もだよ。君との日々はなによりも輝いていた。絶対に忘れないから」

「あなたとの……思い出があるから……私……幸せよ」

「ああ、ああ、ああ……」

「今まで……ありがとう……ね」

「あっ、ありがとう、ありがとう」

「冷たく……なって……きた」

「リードリッヒ、リードリッヒ」

「そろそろ……ダメ……か……も」

「そんなこと言うなよ……。まだ、話したいことはいっぱいあるよ。そうだ、ここを出たら、あのワインを開けよう。特別な日に飲もうって約束したあのワイン。あれを一緒に飲もう」

「一緒に……飲みたかったわ……」

「ああ、だから、一緒に帰ろう、なっ?」

「………………」

「リードリッヒ……?」

「………………」

「おいっ、目をっ、目を開けてくれよ。なあ、リードリッヒッ!」

「…………っ」

「リード……リッヒ…………」

「あい……し……てる」

「愛してるよ、リードリッヒ。だから、目を開けてっ。どうか、目を開けてくれよっ」

「………………」

「リードリッヒ!」

「…………さむい……の」


「…………とっても………………さむい…………」




「…………いや……だ」





「……さむい…………こわい」







「…………しにたく…………ない……」








「……しに…………た…………く…………な……い…………」


















 リードリッヒが目を開ける――。






「どう……して……わたしの…………ことば……しんじて…………くれ…………なかった…………の」






 それが彼女の最期の言葉だった。

 苦悶に満ちた、恨みの目だった。


 俺を責める表情のままで――彼女は逝った。


 最後の最後で、彼女の言葉を信じなかった。

 俺が彼女を殺したんだ。


 俺は震える身体で、氷柱にすがりつく。

 冷たくなった彼女を抱きしめんと。


「許してくれ、許してくれ、許してくれ――」


 彼女はなにも応えない。

 応えられない。


 それでも、俺は許しを乞おうと繰り返した。

 いつまでも、繰り返し続けた――。


次回――『ヴェントンの回想3』


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― 新着の感想 ―
[一言] どうでもいい回想が長すぎる
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