160 サージェントの回想1
氷の悪魔が現れ、目の前が光に包まれたかと思うと――俺は知らない部屋にいた。
「リードリッヒ!」
隣りにいたのはリードリッヒ。
彼女ひとりだけだった。
「サージェント!」
「他のみんなは?」
「いないみたいね」
「ああ、そうみたいだな」
「扉も魔法がかかっていて、開けられないわ」
どうやら、三人とは離れ離れになってしまったようだ。
「いったい……」
頭の中に先ほどの悪魔の言葉浮かぶ。
――試練を与えよう。仲間を信じる心が本物かどうか、それを確かめてやろう。
これは試練だ。
なぜ、分断されたのか。
バラバラになっても仲間を信じろってことか?
「サージェントッ!」
リードリッヒの甲高い声で思考が中断される。
少し前まではその声すら愛おしかった。
だが、今はその声が耳障り。
不快感を覚えながらもリードリッヒが指し示す方向を見る――新たなモンスターだ。
氷の魔法使いだろうか。
ローブの形状をした氷をまとい、長い氷の杖も持っている。
「下がれッ!」
俺が指示するまでもなく、リードリッヒは後退して距離を取っていた。
リードリッヒは回復職。
後ろから支援するのが仕事だ。
そして、俺は曲剣使い。
前衛のダメージ・ディーラーだ。
大きく湾曲したオリハルコンの曲剣を構え、アイス・マジシャンとリードリッヒの間を塞ぐように立ちはだかる。
リードリッヒとの関係は上手くいってるとは言いがたい。
『水氷回廊』に潜り始めてから、どちらともなくすれ違い始めた。
最初は少し脇道にそれただけ。
そう思っていたが、脇道はどんどんと本道を離れ、今ではどうやったら戻れるのかわからない。
俺たちは迷子だった。
道に迷ったのか、それとも、『水氷回廊』に取り込まれてしまったのか。
いつからか別々のベッドで眠るようになった。
空虚な言葉を交わし、平静を演じる。
冷め切った空気が流れている。
俺はリードリッヒを愛している。
だが、それが今のリードリッヒでないことは、自分が一番良くわかっていた。
彼女も俺と同じ気持ちだろう。
だが、それでも――彼女が大事な仲間であることは変わらない。
俺は恋人である前に、冒険者だ。
剣士だ。前衛職だ。
――リードリッヒは俺が守る。
未知の相手だ。
魔術師タイプだろうが、油断は禁物。
俺はどんな攻撃が飛んできても大丈夫なように腰を落とす。
無表情なアイス・マジシャンが杖を振ると――氷塊が俺めがけて飛んできた。
紫色の光に包まれた氷塊。
直径20センチ。
高速で飛んでくるが、対処可能な速さだ。
問題なのは――。
顔に迫る紫色を曲剣ひと振りで一刀両断する。
氷は砕け、紫色は霧散する。
「魔法がかかっているな」
ただの氷塊ではなく、なんらかの魔法が付与されている。
喰らったら、衝突ダメージだけでなく、追加ダメージを受けるだろう。
追加ダメージがなにかはわからない。
魔法使いのカリアがいたら、わかったかもしれないが……。
盾職のタウンゼントがいれば、全部防いでくれただろう……。
リーダーのルーカスがいれば、最高の連携で応戦できただろう……。
――仲間の不在が痛かった。
次回――『サージェントの回想2』




