156 地下一階2
「ちょっと、いいですか?」
「手短かにな」
「ここには敵だけで、味方はいないんですよね?」
「ああ」
「急いでこの階の下に行きたいんですよね?」
「ああ」
「じゃあ、ぶっ放してもいいですか?」
シンシアは凄みのある笑みを利かせる。
この顔は怒りを抑えているときの顔だ。
やはり、誘拐犯たちへの怒りは相当なものだったようだ。
「構わん。やってみろ」
「うん」
シンシアは頷き――。
「ちょっと揺れるから、障壁お願いね」
「ああ、ステフ頼む」
「了解!」
ステフはマジックバッグにしまい込んだばかりのカイトシールドを取り出すと、その尖った先端を石床に突き刺す。
『――【不動盾】』
幅3メートルほどの魔力障壁が俺たちの前に出現する。
【不動盾】はステフの最大防御スキルだ。
発動中は移動できないという欠点がある上、メンザの障壁には及ばないが、それでも、十分強力だ。
ステフに習い、ボウタイメンバーの何人かも同じように魔法障壁を発動させる。
どれもステフに負けず劣らずの障壁だった。
やっぱり、ボウタイは優秀だ。
それを見届けたシンシアは前に出て、積み荷の山に歩み寄る。
積み荷は天井近くまで高く積み上げられ、部屋の奥までぎっしりと詰まって並んでいる。
『――【聖気纏武】』
シンシアは聖なる気を纏って身体能力を極限まで向上させる。
肩を軽く回してから、愛用のメイスを腰だめに構えると、純白の戦乙女舞闘装が軽く揺れた。
大きく息を吐き出し、腰を落として重心を下げる。
一拍の溜めの後――。
『――【天誅】』
シンシアのメイスが光り輝く。
そのメイスを水平に、シンシアはその場で一回転。
メイスは積み荷をぶち壊しながら、吹き飛ばし――フロア全体が激しく揺れる。
だが、これで終わりではない。
このスキルの本領はこの後だ。
【天誅】は直接攻撃した対象のみならず、その周囲にいる対象にも衝撃波でダメージを与える。
そして、衝撃波は連鎖する。
衝撃波を受けたものは周囲に向かって、さらに衝撃波が飛ぶのだ。
すべてを破壊し尽くすまで――。
木片、金属塊、硝子の破片。
大破した積み荷の一部が暴風に運ばれ、飛んで来る。
だが、それらはステフたちの張った障壁にぶつかり、地面に落ちる。
障壁はすべてを防ぎきった。
後に残ったのは残骸の山だけだった。
これだけの光景を目の当たりにしてもボウタイの面々は慌てた様子もない。
地下を揺るがす衝撃だったが、床や壁、そして、天井にはダメージはない。
シンシアはこのスキルで衝撃を飛ばす対象を任意にコントロールできるのだ。
確実に積み荷だけを破壊した。
いや、積み荷だけではない、積み荷の間にいた伏兵たちも巻き込まれていた。
「残りは10匹ね」
すっきりとやり切った表情でシンシアが告げる。
23人の伏兵のうち、13人が今ので命を落としたようだ。
「大幅に時間が短縮された。感謝する。問題は――」
ヴェントンは瓦礫の山に目を向ける。
高さ1メートルほどが部屋の奥まで続いている。
「――どうやって、奥まで行くかだな」
まだ敵は全滅していない。
このまま進むと、瓦礫に足を取られながら、不意打ちされる危険がある。
だが――。
「今度は俺の番だ」
皆の視線が俺に集まった――。
次回――『再会する二人』




