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149 ローガン商会(上)

 ――ツヴィーの街に人族の男が率いる商会があった。


 男の名はローガン。

 エルフが主であるこの街で、人族の商会長は珍しい。


 男の名を冠したローガン商会は、彼一代で築き上げた商会だ。

 もともと悪どい商売でのし上がった商会ではあったが、ギリギリ法の内ではあった。

 だが、半年前、一人の男と出会ったことで、道を踏み外した。


 ――半年前。


 奇妙な男がローガンのもとを訪れた。

 誰からの推薦もなく、ふらりとその身ひとつで現れた男。


 対応した部下は、本来なら門前払いするところだが、男が提示した冒険者タグを見て、考えをあらためた。


 ――【3つ星】冒険者。


 男のタグには星が3つ刻まれていた。

 部下は自分の裁量で扱える問題ではないと、ローガンに事情を伝えた。

 ローガンは報告を受けると、すぐに男を執務室に招き入れた。

 新たな儲け話を期待して――。


 だが、男の顔を見た瞬間、ローガンはイヤな予感がした。

 男の瞳は奥底まで凍りつき、その奥では狂気が微かに揺れていた。

 軽率に男を受け入れたことに、早くも後悔していた。


 執務室に入るなり、男は勝手にソファーに座る。

 ローガンが苦虫を潰しながら向かいに座ると、男は名乗りもせずに端的に言い放った。


「アンタの趣味について話がしたい」

「…………なんのことだ?」


 眉をピクリと動かすに留めたが、返事が一拍遅れてしまう。


「リリサ、アドミラ、エッツィ――」


 男が挙げたのは、どれもエルフの女性につけられる名前だ。

 ローガンの顔がこわばる。

 なんとか誤魔化せないかとローガンは思案するが、男の厳しい視線はそれが無理であると伝えていた。


 人族であるローガンがこの街に拠点を構えた理由は彼の特殊性癖にあった。

 ローガンはエルフ、それも年端もいかぬ幼い子を傷めつけながら陵辱することでしか劣情を満たせない。

 この国で奴隷は非合法であるが、それでも奴隷商は存在する。

 ローガンもまた、顧客のひとりであった。


 己の欲望を満たすため、商会はその隠れ蓑だった。

 商会自体はグレーゾーンだったが、ローガン本人は真っ黒。

 致命的な弱点を抱えていた。


 その弱点を男はピンポイントで突いてきたのだ。

 ローガンは覚悟を決める。


「名前は?」

「そうだな、ウィードとでも呼んでもらおう」


 男が名乗ったのは禁薬の隠語。

 あからさまな偽名だ。


「用件は?」

「べつにアンタをどうこうしようってわけじゃない。ちょっと協力してもらいたいだけだ」


 それから、ローガンとウィードの関係が始まった。

 ウィードは遠慮なくいくつもの要求をつきつけてきた。


 商会の地下倉庫を自由に使えるようにすること。

 足がつかないかたちで、倉庫をいくつか確保すること。

 奴隷を大量に購入すること。


 それ以外にもさまざまな要求をしてきた。

 ローガンは黙ってそれを受け入れるしかなかった。


 どれも商会を傾けるほどの影響はなかったが、ローガンは自分以上の巨悪に巻き込まれていることを理解した。

 それでも、ウィードに従うしかなかった。


 そして、ある日ウィードはひとりの男を連れてきた。

 ヤーバーという男。これも偽名だ。


 陰気な男だった。

 不健康に痩せぎすで、髪も髭も伸び放題。

 もともと白かったであろうローブは灰にくすみ、ずいぶんとくたびれている。

 自分の見た目に頓着していない。

 いや、それ以前に他人にまったく興味がない。

 なにかに囚われ、それ以外には少しも関心を抱いていないようだった。


「やあ、同志ローガン。ご協力に感謝するよ。希望の日は近い。その日まで耐え忍ぼうじゃないか」


 ケケケケッと潰れたカエルの断末魔のような笑い声。


「それじゃあ、ボクはさっそく研究室ラボにこもるよ。素敵な場所を用意してくれてありがとね。同志ローガン」


 ウィードの指示によって、商館の地下倉庫は改造され、用途のわからない器具や薬剤が大量に運び込まれていた。

 その場所こそが、ウィードの研究室ラボ

 これから、神をも恐れぬ所業が行われる場所だ。


「さあ、実験台ネズミちゃん待っててね、一緒に遊ぼうよ〜」


 用は済んだとばかり、ヤーバーは地下に向かう。


 ローガンはこのとき、あらためて自分の選択を後悔した。

 それと同時に、もうすでに抜け出せないことも悟った。

次回――『ローガン商会(下)』


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