表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

109/205

109 新しい朝

「おはようございまーす」


 朝の挨拶とは思えない沈んだ声が聞こえて来て、俺は目を覚ました。

 上体を起こそうとして、二の腕に重さを感じる。

 慣れない感覚に視線を向けると、そこには穏やかな寝顔を浮かべるシンシアの姿。

 あどけない無防備な横顔と、剥き出しになった肩の艶かしさ。

 昨晩を思い出す――。


「おはようございまーす」


 シンシアの美しさに見惚れていると、呼びかける声が再度聞こえて来る。

 その声は階下から――ロッテさんだ。


 ようやく、俺は状況を把握する。

 慌てて起き上がろうとしたせいで、シンシアも目を覚ました。


「おはよう」

「おはよう」


 シンシアの蕩けるような笑顔をいつまで見ていたいが、今はそれどころじゃない。


「ロッテさんが来てる」

「えっ?」


 シンシアはまだ寝ぼけているようだ。


「先に下りてるから、シンシアも支度してくれ」

「えっ、ええ、分かったわ」


 俺は床に落ちている衣服をパパっと着込む。

 シンシアに軽く口づけ、俺は部屋を後にした。


「じゃあ、また後で」


 リビングに向かうと、テーブルの上には朝食が並び、どんよりとした空気のロッテさんが頬杖をついて椅子に座っていた。

 この様子だと、昨晩も寝れなかったのだろう。


「今朝は遅いですね」

「ああ、昨日は大変だったからな。疲れが溜まってたみたいだ」

「ふーん。そうですか」


 言い訳する俺に、ロッテさんはジト目を向けてくる。


「シンシアさんもですか?」

「ああ、すぐ来るって言ってたよ」

「ふーん。二人そろって寝坊ですか。ずいぶんと仲がよろしいようですね」


 ロッテさんの視線がチクチクと刺さり、非常に気まずい。

 そんな針のむしろに耐えていると――。


「ロッテさん、おはようございます。遅くなってごめんなさい」


 二階から下りてきたシンシアが俺の隣に座る。


「いえ、お気になさらずに。私が夜通し仕事している間に、お二人がなにをしようと関係ないことですので」


 やはり、徹夜だったようだ。

 当たりがキツい。


「まあ、それはともかく、食事にしよう」


 誤魔化すようにして食事を始める。

 今朝もサンドイッチとサラダ、スープと簡単な食事だが、素材が良いので満足できる味だ。


 楽しいはずの朝食なのだが、ロッテさんの空気が重い。

 ロッテさんは黙々と食べ物を口に運ぶだけ。

 その空気を打ち破ろうと、シンシアが俺に話しかけてくる。


 他愛もない話だけど、それが昨日までよりもずっと心に染みる。

 シンシアの笑顔を見るだけで、ずっとずっと幸せになれる。

 そう思っていると――。


「ふーん。そういうことですか」


 ロッテさんはなにかを察したような口ぶりだ。


「とりあえず、おめでとうございます、と言っておきましょう」

「なっ、なんですか?」

「とぼけても無駄です。それだけの桃色空気を出していてバレないとでも思うんですか?」

「…………」

「ゆうべはおたのしみでしたね」

「…………」

「まあ、私は仕事してたんですけどね」


 目が笑っていない笑顔を向けられ、俺もシンシアも黙り込む。

 祝福してくれとまでは言わないけど、それにしても、これはツラい。

 なにも悪いことをしていないはずなのに、罪悪感に苛まれる。


 誰か、ロッテさんに休みを!

 それと、良い人を紹介してあげて!


 ロッテさんは美人だし、ギルド職員という信用ある職についている。

 寝不足だとちょっと怖いけど、基本的には性格もいい。

 実際、冒険者の間でも人気が高かった。

 そんなロッテさんだけど、浮いた話は聞いたことがない。


 これから三人で行動することが多くなるので、俺たち二人の関係を見せつけるのは、なにか申し訳ない気がする。

 ロッテさんにもいい人が見つかれば良いんだけど……。


「そうでした、大切な話を忘れてました」


 さんざん毒を吐いた後に、ロッテさんは何事もなかったかのようにサラッと切り出す。


「今夜は18時からお偉いさん方との会食があります。それまでにお戻り下さい」

「会食ですか?」

「ええ、フォーマルなものではないので、かしこまる必要はありませんが、遅れないようにお願いします」

「分かりました。ちなみにお相手は?」

「お楽しみということで」


 俺の問いには答えず、話は済んだとロッテさんは立ち上がる。


「じゃあ、おじゃま虫は仕事に行きます。思う存分イチャイチャして下さい」


 そう言い残してロッテさんは出て行った。

 見えぬ障壁にはばまれ、その背中に声をかける事は出来なかった。


「俺たちも支度しようか」

「ええ、そうね」


 ロッテさんが言ったように、シンシアとイチャイチャしたかったけど、俺たちは冒険者だ。

 本業をおろそかにするわけにはいかない。

 明日の休みまで辛抱だ。

 ロッテさん救済の日は……。


 次回――『風流洞攻略2日目1:精霊知覚』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まあ、ロッテさんが怒ってても仕方ないね。誰かさんのおかげで徹夜になったのかも、理解できないお猿さんだもの。 冒険が危険なのは分かるが、もう少し配慮出来るかと思ったけど。
[良い点] やっぱりバレテーラ [気になる点] お偉いさん方が登場するのか。 立場や役職以前にまずはどんな人物かだな。 [一言] 成程、ここで冒険者のオン・オフの切り替えがちゃんと出来ないと元パみたい…
[一言] >誰か、ロッテさんに休みを! いや、せっかくの休みを仕事(徹夜)に変えたの君たちだよww そして徹夜するレベルの仕事を放り投げてきた本人たちが目の前でイチャついてたらまぁ毒吐きたくなるわなw…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ