最終回 空間乖離(くうかんかいり)のマトリョーシカ。
最終回 空間乖離のマトリョーシカ。
閉鎖的な空間内で、極めて局所的な関係だけが、実際の所、特にこじれてもいないのに、結局の所、何が何だか良く分からないまま、なし崩し的に解決しちゃっただけなので、全体の歪みは丸々残ったままだった。
結果だけを見れば、ロキが無崎の支配下についた。それだけ。故に、夜城院や他の超特別待遇生達は、未だ無崎にビビっているし、佐々波の機嫌は悪いし、上品の中の無崎は無駄に神々しくなっていくし、クラスメイトは全員、今も、全力で無崎を恐れている。
周囲から見れば、何も好転していない。どころか最悪の方へと転がり落ちている。
悪の天才・ロキと、大魔王・無崎が、ガッチリと手を組んで、新たに産まれた『輝く狂華』という、完全盤石のチームになってしまった。全体の認識としてはそれで止まっている。――で、実際の所、何がどうなったかと言えば、
「陛下。あーん」
放課後、ロキの特別室で、高級ソファーに寄り添って座っている複数の男女。
蛇尾ロキと無崎朽矢。ロキは朝の内に買っておいたプリンを銀のスプーンですくうと、プルプルした甘味を無崎の口元に持っていく。
ちなみに彼女の頭の上には、『幸せそうな姉』を見て、満足そうな笑みを浮かべている小さなドラゴンが一匹。
((いや、あの……自分で食べられるんで……
困惑している無崎。
そんな無崎の隣。
ロキとは反対側、
ロキに対抗するように、無崎の隣に腰かけている佐々波が、
「ロキセンパァァァイ……センセーは、あなたの事が汚物にしか思えないそうっす。それ以上、センセーを苦しめるのはやめてもらえないっすかぁ? 空気読んでくださいよぉ、ほんと、マジでぇ」
血走った目と巻き舌の佐々波に、
ロキは優しく微笑んで、
「ちょっと、どこのどなたか存じ上げませんが、わたくしの陛下に、その汚い手で触れるのはやめて頂けます? 大いなる陛下は、この世界で最も高貴な御方。全てを超越した、この次元・空間の頂点に立つ偉大な帝王。すべての知的生命の父であり母。あなた風情が触れていい存在ではございませんの」
「こんなん、ただのカスだろうが、ボケぇ……つぅか、ナメた事ばかり抜かしやがって……死にたいなら殺してやるぞ? カスが……」
「まぁ、なんて野蛮な……陛下、わたくし、怖いですわ」
そう言いながら、より無崎に抱きつくロキを見て、佐々波は沸騰する。
「無崎に触るなっつってんだろうがぁあ! こいつはボクのオモチャだぁあ!」
激昂する佐々波と、迎え撃つ気満々の挑発的なロキ。
互いの存在が、邪魔で、邪魔で、邪魔で仕方がないといった様子の二人。
そんな二人の間に割って入るのは、いつだって、
「落ち着けや、佐々波、最近のあんた、本性しか出てへんで。ロキも、佐々波を挑発するんやめぇや。面倒くさぁてしゃーない」
「里桜ちゃん。黙ってみてようよぉ。その方がオモシロ……楽だよぉ」
ロキが、場をかき乱す役。
佐々波がキレる役。
上品里桜が調停役。
そして、気楽に面白がっているだけの二階堂。
そんな謎の状況下で、
毎度、ただただ、何もできずに、ひたすらアワアワする役が無崎。
あまりにも珍妙なペンタゴン。
コミュ障オタク陰キャの無崎に対処できる状況ではなかった。
「死ね、ロキィイイイイ!!」
((ひぃいいいいっ! ちょ、もう、マジで暴れないで、佐々波ぃっ! だれか、助けてぇええ!
★
――結局、その日も、無崎は、何もできず、
ただ、アワアワするだけで、大事な一日が終わった。
(なんで、佐々波とロキさんは、あんなに仲が悪いんだろう……なんかあったのかな……仲良くしてほしいなぁ……)
周囲の美少女が『謎』に険悪で、どうしたらいいかさっぱりわからない。
そんな、『謎だけでお腹一杯の、訳分からん日々』を過ごしていたある日、
無崎は、
――『その男』に出会った。
学校の帰り道、
学校近くにある大きなビルから出てきた『その男』は、
「――よし。『天の川級DPSカード』ゲット。これで、ランキング十二位にアップだ。……さぁて、そろそろ帰るか。あー、ハラ減ったぁ」
そう言って、ビルとビルの間の路地裏に入っていった。
その様子を見ていた無崎は、
「??」
気になって、後を追ってみる。
すると、路地裏の先で、その男は、
奇妙な『黒い壁』の中へと消えていった。
その男を飲み込むと、
黒い壁はスゥっと消えていった。
「……えぇ……えぇえ?」
無崎は、数秒、呆然としていたが、
(……はぁ? ぇぇ? どういう……ぇ、えっと、うぅん……)
ちょっとだけ考えてみたが、
無崎の頭では解答には届かなかった。
だから、
(まあ、いっか……まあ、なんか、蜃気楼とか、幻覚とか、そういう感じのアレだろう……たぶん……うん、きっとそう)
いつしか諦めて家路につく。
『あの男は何だったんだろう』とか、
『俺、今、夢でも見ているのかなぁ』とか、
そんなことを無邪気に考えながら歩いていると、
(……ん?)
――そんな無崎の目の前に、
また、『一人の青年』が現れた。
それは、トーガを纏う白髪の男。
どこかで見た事ある気がするが、なぜだか思い出せない。
その白髪の男は、無崎に、微笑みかけ、
「ありがとう。無崎」
ド直球に伝えられた、感謝の言葉。
無崎は、当然、
(え、何が?)
としか思わなかった。
――もしかしたら『この世界』も、自分が創ったMワールドやPワールドと同じく、『誰かの妄想に過ぎないんじゃないか』とか、
――もしかしたら『ついに時間の秘密を解き明かした未来のイス人が、時間の壁を超えて、感謝を告げにきたのかもしれない』とか、
……そんな事は、当然、無崎は、考えない!
そんなオチめいた事象など、
無崎にはどうでもいいのだ。
――無崎にとって大事なのは、
((わけわからんな。……まぁ、いいや。そんなことよりさっさと帰ろう。今日はセンエースのアニメ三期が始まる大事な日。テレビの前で全裸待機しなきゃ。
無崎の時間は終わらない。
最後まで読んでいただき、感謝!!
無崎の物語は、実のところ、もっと、山ほどありますが、
今のところ、この序章までしか存在しないので、
いったん、ここで幕を引きます(*´▽`*)
ここから先、
夜城院と無崎の闘い、
並行世界からやってきた闘手との戦争、
世界の統一、
神話生物との争い、
タイムリープによる騒動、
神の世界から愚神の襲撃、
などなど、色々とあるわけですが、
それが、描かれる日は、くるのかなぁ(遠い目
それら全てのエピソードを経て、完璧な化け物に育った無崎の意志を継いだ主人公「センエース」の物語を連載中なので、よろしければ、見ていただきたいです。
コミカライズ版の方も、漫画配信サイト「まんが王国」の方で配信中です(*´ω`*)




