40話 無崎くんは、みんなから恐れられている。
40話 無崎くんは、みんなから恐れられている。
第ゼロ校舎は、創世学園でも数少ない、エレベーターがついている高層建造物。
五つ星の超高級ホテルでも使われている、すぐれた安全性と快適性を誇るルームレスエレベーターが運んでくれる一番上――最上階に広がる、優雅な『交流室』は、この頭がおかしい学校でも、飛びぬけた高級感を漂わせている。
複数のパソコン、冷蔵庫、電子レンジ、シャーワールームなどの快適な生活に欠かせない設備はもちろん、本革のソファーやロイヤルブランドのカップ&ソーサーなどの超高級調度品や、マンガやラノベも含めた大量の書籍が詰まった棚、カラオケマシンやダーツマシンやビリヤード台なんかのアミューズメント機械までもが配備されている。
匠の神業によって、環境光で満たされるよう徹底して計算しつくされた、日当たりも待遇も異常に完璧な、この交流室は、超特別待遇生にしか与えられていないIDカードがなければ立ち入ることが許されていない、きわめて特別な空間。
その交流室のど真ん中にセットされているポーカー用のテーブルに、
――五人の生徒が集まっていた。
男子三人に女子二人。
「確か、甲子園の予選って二ヶ月後じゃなかった? 練習に行かなくていいのかしら?」
ディーラーをしている『赤羽 佐奈』は、カードを配りながら、目の前に座っている『背の高い男子生徒』にそう声をかけた。
――赤羽は、マジックキャッスルに立った事もある天才マジシャンであり、その天才的なマジック技能が認められ、超特待生として創世学園に迎えられた少女。
そんな赤羽の言葉に対し、
『野球部の超特待である沢村』は、
「死ぬほど練習した所で、噂のヤクザが暴れたら、出場さえできなくなる」
淡々と、
「だから、まずは、そのヤクザをどうにかする。まだ噂を聞いただけで、直接見た事はないんだが……どうやら、相当ヤバいヤツらしいな」
「すでに魔王の異名をほしいままにしているわ。アレは異常よ」
「魔王ねぇ……まったく。勘弁してほしい。ヤクザが暴れたせいで甲子園五連覇の夢が果たせなくなるなんてありえない。……なあ、幸田、君も確か、何かの記録がかかっているのだろ? 僕の気持ち、わかってくれるよな?」
「俺の場合は、『どうしても果たしたい目標』ってわけじゃねぇけどなぁ。所詮、高校ボクシングなんざ、時間つぶしのお遊びだ。クソ過保護な親が高校を出るまではプロになるなって、うるっせぇから、ヒマと一緒にザコを潰して遊んでいるだけ。……ただ、例のヤクザは、放っておくとウザそうだから消す。やられる前にやるのが俺のスタイルだ」
沢村の隣に座っている『ボクシング部の主将である茶髪の男子生徒』がクチャクチャとガムを噛みながらそう言った。
ガムを噛んでいるのは、別に悪ぶっている訳ではなく、キシリトールを摂取して、ミュータンス菌を減らし、かつ、顎を強化しているだけ。
イタリア人とのハーフゆえの地毛茶髪と、口調の荒さと、常時ガムを噛んでいるせいで、周囲からは不良扱いされているが、実際は自己管理が厳しいだけのストイックな男。
「ミリア、お前は無崎討伐にこだわる理由なんてねぇだろ? なんで、今回の作戦会議に参加したんだ?」
幸田に問いかけられた『小柄な女子生徒』は、
『乾燥から喉を守る保湿マスク越し』に、
とても小さな声で、
「……」
「ぁ? なんて?」
耳を寄せると、
ミリアも、幸田の耳に口をよせ、
ギリギリ聞こえる声で、
「あいつ。怖い。死んでほしい。だから。参加した」
「前から何度も言ってっけど、てめぇ、もうちょっとでかい声で喋れや。ノドを大事にしているかなんかしらんけど、この距離じゃないと会話できないとか、面倒くせぇ」
「私は。歌手。たとえ。どれだけ。面倒くさがられても。ノドが。第一」
圧倒的な歌唱力が評価されて超特別待遇生になった少女、久遠ミリア(くおん みりあ)。
高校に入る前から、シンガーソングライターとしてメジャーデビューしており、高校二年生でありながら、すでに五作連続オリコンアルバム一位という、超一流の結果を残している超人気歌手。
「ヘイヘイとかMステとかに出ている歌手、ガンガン、大声で喋ってんじゃねぇか。そもそも、普段、小さな声で喋ってっからって、喉の寿命が延びるわけでもねぇだろ。アッコさん、昼の番組で、喉が飛ぶほど喋ってんぞ。酒だって山ほど飲んでいるらしいしよぉ」
そう言った幸田に、ミリアの隣にいる、
『ピッチリ七三分け』という攻めた髪型と丸メガネが特徴的な細身の男子生徒が、
「まあ、まあ、幸田さん。プロ意識が高いのはいい事じゃないですか。商売道具を大事にできない人は大成しませんよ。あ、赤羽さん。三枚交換します。……げぇっ……は、はは……い、いいカードが来ました。みなさん、降りた方がいいですよ。僕の手は最強で無敵です」
「工藤……お前、ポーカーがヘタにも程があるぞ」
「ははは、確かに、工藤は色々と顔に出やす過ぎるな」
幸田と沢村にツッコまれて、工藤は、ムっとした表情を浮かべ、
「べ、別にいいんですよ。モノ書きには、ポーカーフェイスなんて必要ありませんので」
「何がモノ書きだ。ただのラノベ作家だろ」
「ラノベをまともに読んだ事もないくせに、バカにするのはやめてください、幸田さん」
「頭のユルい女を複数人登場させて、主人公にラッキースケベを仕掛けるだけの、低俗な小説なんざ読む暇ねぇよ。俺は忙しいんだ」
「複数人登場させたヒロイン全員を魅力的に描く苦労も知らないくせに。あと、低俗なのではなく、わかりやすい文章を心がけているだけです。誰もかれもが難解な文章を求めているわけではありませんから。というか、そっちは人を殴るだけの簡単なお仕事じゃないですか。頭をいっさい使わなくていい、低俗で気楽な仕事ですね」
「あぁん? 今、なんつったぁ?」
そこで、ディーラーをしている『姉御気質の赤羽』が、
「はいはい、二人とも、ケンカしない。とりあえず、幸田、工藤くんに謝りなさい」
「あ? なんでだよ」
「工藤くんは確かに、ノーベル文学賞をとれるような高尚な小説を書いている訳じゃないわ。でも、高校生でありながら、すでに、アニメ化して大成功をおさめた作品を手掛けた一流の商業作家よ。どんな内容であれ小説を一本書くのは大変なこと。その小説をすでに十本以上書いていて、きちんとお金を稼いでいる人をバカにする権利は、まだ一円も稼いでいない今のあなたにはない」
「うっせぇなぁ……はいはい、ごめんなさーい。確かに、何であれ侮蔑はすべきじゃねぇ、それは事実だ。けど、俺がラノベ嫌いなのは、俺の勝手だろ。そこを譲るつもりはねぇ」
「……いつか、幸田さんが読んでも楽しめるライトノベルを書いてみせますよ。それを目標に頑張っていきます」
そこで、沢村が、
「アンチをも黙らせる作品か。工藤なら、いつか書けるかもしれないな」




