39話 脅し。
39話 脅し。
「こっちっすよ、センセー。あそこの店っす」
((異世界のメシかぁ……まあ、イヤじゃないんだけど、本当に美味しいの?
「正直、そんなでもないっすね」
((えぇ?! じゃあ、なんで連れてきたの?!
「物価がめっちゃ低いから、ほんの数円で、お腹いっぱいになるっすよ。てか、センセー、自分で創っておいて、なんで知らないんすか」
((そんな細かい所まで設定してないよ。このプロワールドは、大正ロマンっぽい世界で、広さは日本列島くらい。人口は一億人ちょっと。俺が決めたのは基本的にはそのくらい。あとはダンジョンとか、どこにアイテムを配置したとか、そのくらいだな。
「RPG〇クール感覚っすねぇ」
((ソレ系のアレより思い入れ的には低いな。俺、村人のセリフ設定とかもしてないし。だから、そこらの『たくさん歩いている人達』も、『俺が創った』なんて、とてもじゃないけど思えない。
店に近づいたところで、佐々波は、
『龍名』を視界に捉えた。
彼女と目が合うと、佐々波は、
ニタァっと黒く笑い、
「あー、龍名センパイじゃないっすか。ちぃーっす」
「ひっ」
((誰? 知り合い?
そんな表情を浮かべる無崎に、
一瞬、虫を見る目を向ける佐々波。
無崎の耳元に口をよせ、
龍名に聞こえないよう、
小声で、こしょこしょと、
「バカっすか、センセー。最年少でプロ棋士になった龍名センパイっすよ。未来の七冠王とまで言われている天才高校生。20人しかいない超特待の一人。つまりは、ボクと同じぐらいの天才ってことっす」
((マジか。すげぇな。
「てか、なんで知らないんすか。めちゃめちゃ有名人っすよ。今度、最年少でタイトル戦に挑戦するかもって今朝のニュースでも言っていたじゃないっすか」
((俺はニュースも新聞も見ない。俺の両目が映すのはラノベの文字列だけだ。えっへん。
(本当に、中身は、ただのガキだな、こいつ)
佐々波は、心の中で吐き捨ててから、龍名に視線を向けて、
「いやぁ、奇遇っすねぇ。龍名センパイ。こんな所で何をしてんすか?」
「……べ、別に……野究カードの探索をしているだけ」
「へぇ、そうっすかぁ。へぇー、へぇー」
(知っている……こいつら、確実に知っている……わたしがロキ側についたこと。完全にわたしを殺しにきている……どうしよう……どうしよう……)
「じゃあ、ボクらはこれで失礼するっす。これから、ご飯を食べにいくんで」
「……ぇ……」
あっさりと龍名の横を素通りしていく二人。
まるで、路傍の石でも見るような、
龍名に何の関心も示していない無崎の視線。
「ちょ、ちょっと……」
龍名は、思わず、
「わたしに……会いにきたんじゃないの?」
「は? いや、別に、そんなんじゃないっすけど? うぬぼれないでほしいっすね」
((おい、佐々波。やめてやれよ。確かに、今の龍名先輩のセリフには、有名人ゆえの驕り高ぶりが見えたけれども……『わたしに会いにきたんでしょ? サインくらい、してあげても構わなくってよ』的な態度で、ちょっとだけ『感じ悪かった』けれども。でも、相手はマジの有名人なんだろ? こういう時は、軽く『握手』の一つでも求めてあげないと、プライドを傷つけちゃうだろ。空気を読めよ。
「なになに? 握手っすかぁ……うぅん」
(悪手? ……わたしの判断が悪手ってこと?)
「確かにそうっすねぇ。あはは」
そう笑ってうなずくと、
佐々波は、ニタァっと黒い笑顔を浮かべて、
「まあ、これからも頑張ってください。タイトル戦進出が決まる一局、確か、来週でしたっけ? まあ、このままだと、タイトル挑戦とかムリだと思うっすけど。くく」
そう言って、龍名に背中を向けて歩き出す。
――無崎は、その横を歩きながら、
((結局、握手しないんかい。ただただ感じ悪っ。つぅか、お前、また毒吐いたな。余計な事を言って、無駄に敵を増やすなよ。
「あれは、ボクなりの激励っすよ。『このままだとダメだ。もっと精進しろ』っていう」
((お前は何様なんだ、と言いたい。
「あと、ボク、ボク以外の美人嫌いなんで、手を握るとか無理っす」
((なんで、そんな、常に美人に殺気をふりまいてんだよ。お前は『嫉妬する側』じゃなく、『嫉妬される側』だろ。『中身の終わり方』に反比例して、見た目だけは、世界トップクラスの美人なんだから。
「……ふふふ」
((なにわろてんねん! キモかったからか? 俺のセリフがキモかったからかぁ?! 俺が女子の容姿を褒めるのは、そんなにもキモいのかぁ!
怒りをあらわにする無崎と、
終始ニタニタしている佐々波。
そんな二人の背中を、見えなくなるまで見つめていた龍名。
(今の宣言は……わたし程度ならいつでも消せるという脅し……このまま悪手を打ち続けるか、それとも、それ以外の選択肢をとるか選べという……最終宣告……)
恐怖に体が震える。
膝から崩れ落ちる。
(無理……あれと敵対はできない……敵に回せば、確実に死ぬ……)
完全に戦意を失った龍名は、
その日の内に、ロキへ、
『交わしたばかりの約束反故に対する謝罪』の連絡を入れる事となった。




