36話 切り札の応酬。
36話 切り札の応酬。
「消えろ、ロキぃいいい!!」
放出された熱量は、殺戮の咆哮。
不可避の死。
輝く一閃。
――だが!
「?!!」
夜城院は、そこで、絶望を知った。
「な、何が……」
何が起きたのか分からなかった。
気付いた時には、目の前にいたはずのロキが消えていて、
自分の手中からは、切り札も消えていた。
「驚きましたわ。まさか、愚直なあなたが、追いつめられているフリまでしてくるとは……さっきの『うぅ……』という演技は、どのくらい練習なさったのですか?」
背後から聞こえてきた声に振りかえると、
そこでは、夜城院の切り札である『蛇』を飼いならしているロキが立っていた。
「?? ど、どういう……」
「さて、何が起きたのでしょう」
「……」
夜城院は必死に頭を回した。
思いつく可能性は一つ。
「……ゾーン系の野究カード……まさか……て、手に入れたのか……」
「ええ。汎用野究カード『ワンイニングゾーン』。三秒だけ時間を止められる、わたくしの切り札。正直、あなた程度との闘いで、使うつもりはなかったのですが……うふふ、誇って構いませんよ。あなたは、わたくしに、汎用野究カードを二枚も使わせた。これはとても素晴らしい事ですわ」
「……ぐ……くっ……」
「さて。こちらには、まだ切れる手札が二枚ほど残っていますが、夜城院さんの『残りジョーカー』は、いかほど?」
「……」
ギリギリと奥歯をかみしめている夜城院の姿を満足気に見ていたロキは、
「まさかもう終わりですか? だとすると、死ぬしかありませんわよ?」
言葉の終わりと同時、空中で停止していた六匹の蛇が、超高速で夜城院に襲いかかった。
(ぐっ! なっ……)
生き生きと暴れている蛇を見て、夜城院は奥歯をかみしめた。
「くっ、なぜ、これほどの錬度で扱える! クレイジーキッドをまともに扱えるようになるまで、オレがどれだけ反復練習したと思って――」
「わたくし、蛇を扱うのは得意ですの。気質が似ているからでしょうか。うふふ」
優雅に微笑んでいるロキとは対照的に、
夜城院は、必死に、蛇と応戦していた。
使いなれている『152ギロのムービングストレートブレード』で、どうにか蛇を弾き飛ばしているが、
「ぐぁ!」
捌き切れず、『背後から距離を詰めてきた一匹の蛇』に背中をザクっといかれてしまう。
クリティカルなダイレクトアタックで、ギガロ・バリアが一気に削られる。
死が見えてきた。
だが、
「くっ……くそがぁっ……」
夜城院は、怯まない。
グっと奥歯をかみしめて、
必死に体勢を立て直し、
「ぜっ……絶対に負けてやらねぇ……正義は死なねぇ! 悪を殺す力が正義だ!! オレの覚悟をナメるなよぉ、ロキぃい!」
血を吐かんばかりの勢いで剣を構え、
「死ぬまで正義を執行する!! オレは、オレが死ぬまで、絶対に死なねぇ!! 決死の覚悟でかかってこい! ロキぃい!」
「死ぬまで死なないって、当り前の話ですわね」
うふふっと、優雅に微笑んで、
ロキは、『三匹の蛇が絡んでいる剣』を夜城院に投げ返した。
「?!」
夜城院は困惑した顔で、クレイジーキッドを回収してから、
「ど、どういう……なんのつもりだ?」
「相変わらず、素晴らしい胆力です。あなたとわたくしが手を組めば、確実に、あの魔王を討てるでしょう」
「……手を……くむ? ……はぁ?」
「休戦協定を結びましょう。そして……共闘しましょう」
夜城院は、血走った目を収めることなく、流れるように蛇を浮遊させ、
「お前の言う事など……信じると思うか? 卑怯で卑劣な魔女の言う事なんか」
「わたくしは、あなたの敵です。『黒に染まったわたくし』は生粋の悪。蛇尾ロキは、反体制の象徴。支配構造を殺す獣。故に、正義と秩序を愛するあなたとの関係が変わる事はありえません」
「ああ、ありえない」
「けれど、現状、わたくしの敵も、あなたの敵。敵の敵は味方ではありませんが、利用価値はある。そう思いませんか?」
「……それは、どういう…………っ!!」
そこで、夜城院に電流走る。
「……ロキ、お前……まさか、無崎と敵対したか?」
「はい」
「なんでだ……お前らは、同類だろう? 同じ道を志す悪同士のはず……」
「あの男は間違いなく、わたくし側の人間なのですが、少々、我が強すぎて……ソリが合いませんの。同族だからといって仲良くできる訳ではない……悲しい話ですわ」
「つまり……『気に食わないから排除する』……『その手伝いをしろ』、と、そういうことか? ……ふざけるな」
「まずはヤツをどうにかする。それこそが最優先事項とは思いませんか?」
「お前は信用できない。共闘などしたら、いつ、背後から撃たれるかわからない」
「あなたなら、必ずそう言うと思ったから、一度、闘わせていただきました。あなたを倒すために用意しておいた切り札の内半分を無駄に使ってまで。分かっていると思いますが、先ほど使った二枚は、どちらも、とんでもなく希少ですのよ」




