35話 『夜城院』VS『ロキ』。
35話 『夜城院』VS『ロキ』。
「それ以上は近づくな。フィールド系汎用野究カードの発動範囲内まで近づく事は、敵対行為だとみなす」
「構いませんわ」
「……なに?」
「だって、最初からそのつもりですもの」
言いながら、ロキは腰を落として右足に力を込めた。
と、同時に、ブーツのカカト部分に隠していたカードを抜き取り、適正距離まで詰め、
「――『真っ向勝負』、展開」
一瞬の出来事だった。
夜城院も、即時対処しようとカードホルダーに手を伸ばしたが、
一手、遅かった。
「ちぃっ!」
夜城院は、スキャナーにM機のカードを通そうとしたが、
キンッと、高質な音が鳴って弾かれた。
夜城院は、渋い顔で、
「……『真っ向勝負』は……確か、『ピッチングマシンを封じるフィールド』だったか? ちっ……このクソ女がぁ……」
「ピッチングマシンの使用不可だけではありませんわよ。真っ向勝負は、他者の介入も禁止にできる、とても便利な汎用野級カード。あなたを殺すために用意しておいた切り札の一つですわ」
「……」
「どうです? 頼りのお仲間とM機を封じられた気分は」
「とことん卑劣な女だ……やはり、オレとの話し合いを望んでいるなんて嘘だったか。このタイミングで攻撃をしかけてきた理由は……無崎か? やはり、手を組んだのか? それとも、支配されたか? あの悪魔に、『オレを殺してこい』とでも命令されたか?」
「……」
「まあ、いい」
夜城院は、そうつぶやくと、スゥっと息を吸って、
「他者の介入禁止……つまり、この戦いに無崎は出てこないと言う事……むしろ好都合だ」
「随分とナメた口をきいてくれますわね。群れるしか能のないあなたが、お仲間の助勢がない状態で、わたくしに勝てるとでも?」
「ナメてんのはテメェだろ。『とっておきの切り札を隠し持っている』のが『自分だけ』だとでも思ってんのか?」
「?」
「機会をうかがっていたのは……虎視眈々(こしたんたん)とチャンスを待っていたのは、こっちの方だったって事だ」
言いながら、夜城院はホルダーから一枚のカードを取りだした。
スキャナーに通したと同時、夜城院の手中に『歪なフォルムのストレートブレード』が握られていた。
刀身に九匹のうねる蛇が絡みついているバスターソード。
「おやおや。『EX戯画』シリーズですか。Mマシンに匹敵する超々レアアイテム……素晴らしい」
「あぁ。Mワールドの北端、カウボーイシティの迷宮で見つけた、オレのとっておき。EX戯画シリーズ、タイプ・MM。コールサイン『クレイジーキッド』」
「とんでもないギガロ粒子の放出量……しかし、それはすなわち、『とんでもない扱いづらさ』を示している。EX戯画シリーズは、ある意味でMマシン以上に扱い辛いピーキーなリミットブレイクウェポン。あなたにそれが扱えるのですか?」
「必死に練習した。必死に、必死に……なぁ、知っているか? 人の口というのは、努力が限界を超えた時、本当に血ヘドを吐きだすんだぜ?」
「……知っていますわ」
柔らかくニコっと微笑んでそう答えるロキ。
含みのある笑顔。
夜城院は、
「これより、正義を執行する」
勢いよく、蛇がうねる剣を薙いだ。
すると、蛇がブブブっと震動を始めた。
鋭利な刃の蛇は、柄から離れ浮遊する。
そして、『意志をもっていると確信できる動き』でロキを威嚇している。
「なるほど……オールレンジ系のストレートブレード、と言う訳ですわね」
「辟易するだろ? 自分が使っておいてなんだが、正直、チートすぎて笑えねぇ」
言いながら、夜城院は浮遊する蛇をロキに向けて飛ばした。
ヒュンヒュンと、鋭利に空気を切り裂く音がロキの耳に届く。
八方から飛んでくる六本の歪んだ刃を最小限の動きで回避しながら、
ロキは、
(多角的な飛翔する斬撃は確かに厄介。……けれど……)
『飛翔する刃』の『わずかな隙間』を優雅にくぐりぬけ、『155ギロのストレートブレード』を取りだしながら、あっさり夜城院との距離をつめると、
「使い手が酷過ぎますわ。いくらなんでも……遅すぎる」
「ぐっ!」
ロキの接近・剣撃に対し、夜城院はまだ刃が三枚ほど残っているクレイジーキットで対応する。
剣戟に移行したと同時に、飛翔していた蛇は空中でピタっと止まった。
「どうやら、よほど集中しなければ、蛇の操作はできないようですわね」
「うぅ……」
「あなたの敗因は、不相応な武器を切り札だと勘違いした、その『底がない愚かさ』です。あなた程度が――」
「今ぁあ!! 吠えろ、リバースシックス!!!」
「っ?!」
夜城院の命令を受けると、ロキの背後で止まっていた六本の蛇が、絡み合いながら、邪悪な円環をつくった。
そして、その輪の中心に、一瞬で、高濃度のギガロ粒子が圧縮される。
「消えろ、ロキぃいいい!!」
放出された熱量は、殺戮の咆哮。
不可避の死。
輝く一閃。




