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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
53/55

scene:53 宇宙怪獣来たる

 加速力場砲のエネルギー源は、天震力である。同じ天震力を使う加速力場ジェネレーターを多用したせいで、天震力貯蔵タンクに残っている天震力は残り少なくなっていた。

「教授、残っている天震力だと三発しか撃てないよ」

「三発あれば十分だわ。その代わり絶対に命中させて」

「そんなぁ……ソウヤ、交代して」


「分かった。交代や」

 ソウヤは加速力場砲の照準システムを立ち上げた。目の前のモニターにリュリアス号と位置情報、それに加速力場砲の諸元情報が映し出される。

 モニター越しに見るリュリアス号は、かなり改造されているのが分かる。元々は探検船だったらしいのだが、その船体のあちこちに武器が増設されていた。


 リュリアス号が荷電粒子砲を発砲。真空を飛び越えた荷電粒子がユピテル号のバリアに衝突して火花を飛び散らす。

「被害状況は?」

 教授が制御脳のディアーナに確認した。ディアーナはユピテル号にダメージなしと報告する。バリアに回すエネルギーを増やしたことで、リュリアス号の攻撃を撥ね返すことができたようだ。


 イチは敵の攻撃を回避すべく、激しく軌道を変えながらユピテル号を飛ばしていた。ユピテル号は小惑星帯を目指して飛んでいる。

「教授、モノポールは使えないの?」

 モウやんがリュリアス号を憎々しげに睨んで尋ねた。モノポール亜光速ガトリング砲を使えれば、確実に仕留められると思ったようだ。

「無理言わないで。こんな激しい回避行動を取っている状態では、難しいわ」


 その時、アリアーヌが大声を上げた。

「リュリアス号の船首部分から、何か出てくる!」

 敵の船首部分から大型荷電粒子砲と思われる武器が迫り出してきた。ユピテル号が以前装備していた五六口径荷電粒子砲と似たような武器が姿を見せる。

「イチ、前方の小惑星の後ろに回り込んで」


 イチは前方に漂っている長さ七〇〇メートルほどの小惑星の背後に潜り込もうとユピテル号のエンジンを全開にする。その加速でソウヤたちの身体が座席に押し付けられた。

 ユピテル号が小惑星の影に入った瞬間、敵の大口径砲が光を放った。凄まじい威力を持った荷電粒子の塊が小惑星に突き刺さった。


 小惑星の中に潜り込んだ荷電粒子は内部でエネルギーを解放。数千万トンもありそうな小惑星が爆散した。無数の欠片がユピテル号のバリアに衝突して弾き返される。

 小惑星の破片が飛び散る中、ソウヤは加速力場砲を操作していた。敵の攻撃が止まったからだ。加速力場砲の砲口がリュリアス号に向けられる。


「ソウヤ、小惑星の破片が邪魔なんじゃないの?」

 アリアーヌが顔を曇らせて確認した。

「任せといてや」

 リュリアス号に照準を合わせた加速力場砲が発射された。音速の数十倍にも加速された投射弾が弾道上にある破片を吹き飛ばしながら飛翔する。

 ソウヤは間髪入れず二撃目を発射した。一撃目の投射弾を追うように発射された二撃目は破片に邪魔されることなく直進する。


 一撃目の投射弾は破片の影響で少しずつ弾道がずれ始め、リュリアス号の左舷を虚しく通過した。だが、邪魔がなくなった空間を飛翔した二撃目の投射弾は、リュリアス号の船首に命中。

 船首のバリアが悲鳴を上げるように盛大に火花を散らした。投射弾はバリアを貫通、船体の装甲に打ち付けられ膨大なエネルギーを解放する。

 装甲に穴が開き、船首から突き出ていた大口径荷電粒子砲が折れ曲がり無残な姿となった。


「うおおおっ!」

 ソウヤが勝利の雄叫びを上げた。

「凄え」

 モウやんが称賛の声を上げた。イチもアリアーヌも同意するように頷く。

「ふん、まあまあ良くやったずら」「お見事ですずら」

 チェルバとミョルも珍しく褒めた。


「戦闘は続いているのよ。敵はダメージを負ったけど、小破程度。仕留めるわよ」

 教授の声で、モウやんとアリアーヌが荷電粒子砲の照準をリュリアス号に合わせて発射ボタンを押した。リュリアス号の船体に攻撃が突き刺さり、爆発が起きた。

 その時、リュリアス号から通信が来た。


『攻撃をやめろ』

 教授は目を細めて、モニターに映し出された敵船長の姿を見つめた。

「勝手な言い分ね。攻撃してきたのは、あなたたちでしょ」

『五月蝿い。攻撃をやめないと次元振音を使って星害龍を呼び寄せるぞ』

「そんなことをしたら、一番にリュリアス号が餌食になるわ」


『リスクは分かっている。お前たちを倒すためなら手段は選ばん』

 その直後、リュリアス号から大出力で次元振音が発せられた。リュリアス号の船長は、ちょっとした脅しで短時間作動させたら、停止するつもりでいたのかもしれない。

 しかし、そんなことはソウヤたちには理解できなかった。

「な、なんて無茶を……。ソウヤ、仕留めるのよ」

「おう!」

 ソウヤは加速力場砲の照準をリュリアス号に向け、天震力貯蔵タンクに残っている天震力の全てを加速力場砲に注ぎ込んだ。


「照準ロックオン……加速力場砲、発射」

 膨大なエネルギーを秘めた投射弾が、真空中を飛翔しリュリアス号に向う。

『な、何しやがる。メルギス種族が必ず報復するぞ』

 リュリアス号の船長が、わめき始めた。

「嘘を言いなさい。メルギス種族の探検船がこんなことをするわけないでしょ。どうせ薄汚れた犯罪組織の下っ端じゃないの」


 敵船長の顔が夜叉のような面相に変わった。但しウサギ人間なので、ソウヤたちの目から奇妙に見える。夜叉のようなウサギ───違和感がありすぎる。

『#&%$#&$……』

 ソウヤたちには聞き取れない言葉が、敵船長から発せられた。その瞬間、投射弾がリュリアス号に命中。その装甲に激突した投射弾が爆散した。


 リュリアス号の船内で何度か爆発が起き、船体の裂け目から機械部品や船体構造物が吐き出され、四方に飛び散り始めた。

「教授、あいつは最後に何て言ったんです?」

 モウやんが教授に尋ねた。教授は顔をしかめ、

「お前の急所を切り取って、太陽に放り投げてやる、みたいなことよ」

 ソウヤたちはげんなりした。イチが質問したモウやんを睨み、

「聞かなきゃ良かった」

 そう言うと、ユピテル号の進行方向をリュリアス号に向けた。


「アリアーヌ、今までの戦闘記録を編集して、地球に送っておいて」

「アメリカとか中国は、どう思うでしょう?」

 リュリアス号の正体を知った地球の各国が、どのように反応するかは分からない。

「ユピテル号と条約を結び直したいと言ってくるんやないか?」

「それは拒否ね。一三ヶ国で十分だわ」


 条約国を増やしても、ユピテル号にはメリットがなかった。特にアメリカや中国などの大国と言われている国は自己主張が強く、面倒事が起こりそうで遠慮したい。

 ユピテル号はリュリアス号の近くまで来て、中に生き残りがいるかどうか確かめた。

「生き残りはいないようです」

 アリアーヌが報告した。船内で起きた爆発が乗組員の命を絶ったらしい。


 教授はブルーアイ五〇体にリュリアス号の調査をするように命じた。使える部品や装置があったらサルベージしようと考えたのだ。

 しかし、爆発は強烈で使えるようなものはほとんどなかった。そこでリュリアス号の船体を曳航しながら外宇宙に向けて加速し、リュリアス号を放り投げた。

 これで地球人の手にリュリアス号の残骸が渡ることはなくなった。


「何者カガ、遷時空スペースカラ通常空間ニ出現シマシタ」

 ディアーナの報告で、ユピテル号のブリッジが静かになった。

「うそーっ、冗談だろ?」

 モウやんの言葉を、ディアーナが否定した。


 ソウヤはユピテル号の探査システムを使って、通常空間に現れた存在を確認した。航宙船ではなく星害龍のようだ。

「なんや、こっちに猛烈なスピードで近づいてきとる」

 教授は近づいてくるスピードを計算して、顔をしかめた。高速戦闘艦並みのスピードなのだ。これだけの推進力を持つ星害龍は、クラーケン以上の星害龍である可能性が高い。


「まずいわね。近づいてくる星害龍は、相当な大物のようだわ」

 星害龍の出現場所は、太陽系の外縁部だったので土星に到着するまで一〇日ほどかかるだろう。その間に戦闘準備を整えておく必要がある。

「ソウヤたちは、まず天震力貯蔵タンクを満タンにしといて」

「了解や」


 アリアーヌがメインモニターに映し出されたユピテル号の情報を見ながら口を開いた。

「今回の戦いで推進剤がかなり減っています。補給しないと」

 ソウヤが提案した。

「土星の衛星に、原料がありそうやから、それを使って作ったらどうや?」

「そうね。いい考えだわ」


 教授はすぐに地球に許可を求めた。返事は数日後になるかもしれない。各国の同意を取り付ける時間を必要としているからだ。

 ソウヤたちは原料から推進剤を製造する小型プラント船の設計を開始した。

 イチは小型プラント船の材料を補給するために金属惑星プシケに向かった。


「そういえば、プシケに残してきたマスドライバー船はどうなったんだろ?」

 イチがマスドライバー船と通信回線を繋ごうとしたが、ダメだった。

「リュリアス号に破壊されたかもしれない」

 アリアーヌが嫌な予想を口にした。


 二日でプシケに到着。やはりマスドライバー船は、破壊されていた。ただの残骸に成り果てている。ただ採掘した金属資源は全て送り出した後だったようだ。

 ソウヤたちはマスドライバー船の残骸を資材として万能型製造システムに装填し、設計が完了した小型プラント船の建造を開始した。


 ソウヤたちは、その間にユピテル号の点検修理を行った。戦闘の影響で劣化した部品を取り替え、ユピテル号を新品同様の状態に戻す。

 小型プラント船が完成した後、土星に戻った。星害龍は宇宙クラゲの次元振音に惹かれて土星に向かっているようだからだ。


 推進剤の製造のため、小型プラント船を土星の衛星タイタンに降ろす。この衛星にあるメタンやエタンを吸い上げ、推進剤を製造した。

 推進剤の製造には、メタンやエタンなどの主要材料の他に特殊な添加剤を必要とする。その添加剤はユピテル号の中に貯蔵してあったものを使った。


 十分な量の推進剤を手に入れたソウヤたちは、小型プラント船を衛星タイタンに残し来訪した星害龍の下へ向かった。

 この時点では星害龍の正体は分かっておらず、万全を期すためにユピテル号の最強武器であるモノポール亜光速ガトリング砲を用意した。


 星害龍が天王星の公転軌道を越え土星に近づいた。

「敵の正体が分かりました。脅威レベル7、『崩星ドラゴン』です」

 アリアーヌが青褪めた顔で報告した。

 崩星ドラゴンは全長二五〇メートルで翼竜の羽とティラノザウルスのような体躯を持つ化け物だった。加速力場ジェネレーターと同じ原理で飛翔し、遷時空跳躍も可能な究極の生き物である。


「そいつの得意とする攻撃はどんなもんなんや?」

 ソウヤの問いに、アリアーヌがデータを読み上げる。

「口から空間破砕咆哮を放ち、敵を蹂躙するみたい」

 アウレバス天神族が大戦の初期に生み出した正真正銘の生物兵器だった。

「その他にも、背中に生えている触手のようなものから、大出力レーザーを放つ、だって」


 ソウヤたちの顔から血の気が引いた。レーザーを放つ触手が五〇本以上あったからだ。

「こんなのと戦うの?」

 モウやんがビビって弱音を吐く。

「あんなのを野放しにしたら、地球が失くなるわよ」

 教授の言葉でソウヤたちの決意が固まった。


 メインモニターに、崩星ドラゴンの姿が映し出された。禍々しいまでに凶悪な姿は、コルネル星系で遭遇したクラーケンより危険に見えた。

「まずは、長距離攻撃よ。アリアーヌとチェルバたちは、ボソル荷電粒子砲で狙って」

「任せるずら」

 チェルバたちが張り切って、ボソル荷電粒子砲の照準装置を立ち上げた。



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