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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
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scene:52 宇宙クラゲの駆除

 土星に到着するまでの間、ソウヤたちはどうやって宇宙クラゲを駆除するか話し合った。土星の環に住み着いた宇宙クラゲを駆除するだけなら、それほど手間ではない。

 だが、土星の環をなるべく破壊せずに駆除するのは難しかった。

「土星の環に攻撃を加えて、宇宙クラゲを誘い出すのが簡単なんだけどな」

 モウやんが荒っぽい方法を提案した。


 イチが口をへの字に曲げて否定的な顔をする。

「土星の環を、美しいと感じている地球人は多い。その輪を破壊するのは賛成できないな」

「俺も同じや」

「じゃあ、どうするんだよ」


 教授がメインモニターに一つの表を映し出す。その表に書かれていたのは、宇宙クラゲが使っている合図だった。

「これは宇宙クラゲの合図と次元振音の周波数を表している。数時間前にトートが送ってくれた情報データから発見したわ」

「へえー、『食料あり』『逃げろ』『敵を反撃しろ』『警戒せよ』……」

 モウやんが読み上げるのを聞いているうちに、イチは教授が考えていることが分かった。

「分かった。次元振音を使って宇宙クラゲを誘い出して駆除するんですね」


 モウやんが感心したように頷いた。

「そうなんだ。でも、そんな罠に一〇〇万匹以上も引っかかるかな?」

「一回だけは引っかかるはずよ」

 教授が自信ありげに断言した。宇宙クラゲにも知性がある。しかし、この星害龍の記憶力は三年ほどしか続かないらしい。

 なので、一回目だけは罠が有効だという。


「よし、戦術は決まった。次元振音発生装置を作ればいいんやな」

 ソウヤが張り切って声を上げた。教授が頷いて、一言注意する。

「そうだけど、次元振音が聞こえる範囲を制限する必要があるわ」

「そうか。近隣の遷時空スペースにいるかも知れない星害龍を惹き寄せないためですね」

「イチ、よく分かったわね。宇宙クラゲを駆除しようとして、別の手強い星害龍を太陽系に連れてきたら、本末転倒よ」


「それで、どんな次元振音を発生させるんや?」

「『子供が助けを呼ぶ声』よ」

 アリアーヌが苦い顔をする。

「汚いやり方ね」

「相手は星害龍なんだぞ。倒さないと地球が危ないんだ」

 モウやんが強い口調で言い返した。


 次元振音を発生させるためには、大きなエネルギーを必要とする。そのエネルギー源として小型核融合炉を用意した。直径一〇メートルほどの球体に小型核融合炉とイオン推進機、次元振音発生装置を取り付けた。

 操縦はロボット脳を使う。船舶用制御脳を使うことも考えたが、宇宙クラゲに取り囲まれた場合は破壊されることになるので、安いロボット脳を選んだ。


 次元振音発生装置が完成した後は、のんびりした日々を過ごした。

 ユピテル号のメインモニターに映る土星が次第に大きくなり、八〇個以上ある土星の衛星も見えるようになる。この衛星の中で最大のものが、月より大きなタイタンである。

 タイタンは太陽系の衛星の中では珍しい部類に入る。濃い窒素の大気を持ち、液体メタンの雨が降る。地上にはメタンやエタンの川が流れ、湖があるという。


 土星で一番特徴的なのが綺麗な環である。この環を構成するのは、ほとんどが氷の粒や塊だった。宇宙クラゲが、ここに住み着いているのは氷の塊に卵を産み付ける習性があるからだ。

「金属小惑星プシケにいたリュリアス号が、こちらに向かって来るようです」

 アリアーヌが教授に報告した。

「今更応援に来るというの。少し変ね。リュリアス号の動きを監視しておいて」

「分かりました」


 土星に近づいたソウヤたちは、作戦を開始した。

 次元振音発生装置をユピテル号から発射し、土星から少し離れた宙域に移動させる。ユピテル号は土星と次元振音発生装置に対して正三角形の位置に来るように移動した。

「よし、時間や。次元振音が始まるぞ」

 ソウヤが声を上げた瞬間、次元振音発生装置から次元振音が発せられる。それはソウヤたちに聞こえるものではなかった。だが、土星の環に住む宇宙クラゲたちには聞こえたようで、氷の塊に隠れていた巨体を現し、次元振音発生装置の方へ移動を開始した。


「ディアーナ、移動している宇宙クラゲの数をカウントして」

「了解シマシタ」

 制御脳のディアーナが返事をして、カウントした数字をメインモニターに表示する。

 その数字が、一万を超え一〇万に迫り一気に増えた。宇宙クラゲの群れは川の流れのように伸びてゆき、その数が五〇万を越えた。


「凄い。こんな数を駆除できるの?」

 モウやんが弱気になったようだ。毎度のことなので、ソウヤは苦笑しながら答える。

「当たり前や。今回はパルスレーザーキャノンだけやなくて、ボソル荷電粒子砲も使うぞ」

 メインモニターに映し出される宇宙クラゲの数が、一〇〇万を少し超えた時点で増加が止まった。


「戦闘開始!」

 教授が号令し、戦いが始まった。ユピテル号は土星に進路を切りスピードを上げる。川のように伸びた宇宙クラゲの群れに近づいたユピテル号は、パルスレーザーキャノンを撃ち始めた。

 その一撃一撃が数匹の宇宙クラゲを仕留めていく。


「荷電粒子砲、発射準備完了」

 ソウヤが声を上げた。

「群れの中心を狙いなさい。狙いが定まったら発射して」

 長く伸びた宇宙クラゲの集団の中に、一段と密集している場所があった。そこに向けて荷電粒子砲が発射される。強力な威力を持つ荷電粒子の束が、宇宙クラゲの集団に突き刺さり蹂躙する。

「やったー、荷電粒子砲の一撃で五〇〇匹くらい消えたぞ」

 モウやんは喜んだ。だが、敵は一〇〇万を越えていた。喜ぶのは早すぎる。


「敵が集まっているうちに、どんどん撃つのよ」

 教授が叱咤する。その声を聞いたソウヤは何度も何度も荷電粒子砲を発射した。

 パルスレーザーキャノンを受け持っていたチェルバとミョルが声を上げた。

「敵が多すぎるずら。誰か手伝うずら」


「僕が手伝うよ」

 宇宙クラゲの群れを監視していたモウやんが手を上げた。

「私はソウヤを手伝う」

 アリアーヌが後部にある荷電粒子砲を起動した。


 イチはソウヤたちが砲撃しやすい位置を探しながらユピテル号を移動させていた。

 一時間ほど経過して、メインモニターに表示されている宇宙クラゲの数が一〇〇万を切った。

「イチ、疲れたでしょ。操縦を代わるわ」

 教授がイチと交代した。ソウヤたちも交代で休憩を取り始める。


 この頃になると、ユピテル号に向かって来る宇宙クラゲも現れ始め、ユピテル号は頻繁に移動しながら戦うようになった。

「切りがないよ」

 モウやんが弱音を吐き始めた。モニターに示されている宇宙クラゲの数は七〇万代になっていた。かなりのエネルギーを消費したはずであるが、教授は問題にしていなかった。


 メイン動力炉が縮退炉で、核物質でも重水素でもない物質をエネルギーに変換しているからだ。また、荷電粒子砲で飛ばす荷電粒子の原料も大量に貯蔵しているので問題なかった。

 しかし、補助動力炉にしている大型核融合炉で問題が起きていた。燃料である重水素が確実に減っているのだ。ボソル荷電粒子砲は通常エネルギー源が補助動力炉になっているので、縮退炉に切り替える必要がありそうである。


「イチ、操縦を交代して」

 疲れたらしい教授が、操縦の交代をイチに促した。

「推進剤がもったいないから、移動は加速力場ジェネレーターを使って」

 加速力場ジェネレーターは天震力貯蔵タンクに貯められている天震力を使っている。ソウヤたちが満タンにしていたので、まだ九〇パーセントほどが残っている。


 戦いは六時間続いた。この頃になると、宇宙クラゲの数は三〇万に減っていたが、群れはりとなっていた。

「はあーっ、ダメや。荷電粒子砲が非効率になってきた」

 ソウヤが座席の上でぐったりした様子を見せた。


「教授、どこまで減らせばええんや?」

「数万単位にまで減らせば、地球が生き残る時間を稼げるはずだわ」

「でも、火星の宇宙クラゲは凄い勢いで増えましたよ」

 イチが短期間に倍以上に増えた事例を指摘した。


「宇宙クラゲには、繁殖期があるのよ。今が繁殖期なので猛烈な勢いで増えているけど、もう少しすれば、繁殖期も終わるわ。トートが配布した情報データにあったわよ。読んでないの?」

 トートが情報ブロックの中から探し出した宇宙クラゲの情報は全員に配布された。ソウヤたちも最初の部分だけは読んだ。しかし、最初の部分だけを読んで挫折した。

 専門家向けの情報だったので、専門用語が多く理解できなかったのだ。


「自分たちには難しすぎて理解できませんでした。教授は星害龍に関する生態学にも詳しいんですね」

「急いで勉強したのよ」

 教授が鋭い視線でソウヤたちを睨んだ。ソウヤたちは視線を逸らして話題を変えた。

「と、ところで、次元振音発生装置に宇宙クラゲが集まって、馬鹿でかい団子みたいになっていますが、どうしますか?」

 次元振音発生装置は宇宙クラゲから逃げ回っていたのだが、戦闘開始の四時間後に捕まり宇宙クラゲに覆われてしまっていた。


「数千匹は群がっているようね。最後に爆破しましょう」

 そう教授が答えた時、アリアーヌが警告の声を上げた。

「リュリアス号が戦闘速度で近づいてきます」

「時間のかかる作業が残っているから、助かるけど……」

 宇宙クラゲはばらばらになっているので、時間をかけて一匹ずつ駆除する作業をしなければならない。ソウヤたちはリュリアス号が手伝ってくれるのだと思っていた。


 ユピテル号とリュリアス号の距離が、荷電粒子砲の射程にまで縮まった。その瞬間、リュリアス号から強烈なレーダー波が放たれた。

 通常のレーダー波ではなく火器管制レーダーである。

「ロ、ロックオンだと!」

 モウやんが悲鳴のような声を上げた。


「船首を向けなさい!」

 イチが素早く船を回転させ、リュリアス号に船首を向けた。その時にはリュリアス号が荷電粒子砲五門の一斉砲撃を行っていた。

 荷電粒子砲の攻撃がユピテル号の左舷に命中。大きな振動が船体に広がった。


 ソウヤたちは身体を揺さぶられただけで怪我はない。

「クソッ、どういうつもりなんや!」

 ソウヤが怒声を上げる。その声に被せるように教授が叫んだ。

「被害状況は?」

 メインモニターに船体の構造図が表示され、左舷にある補助動力室が破壊されたことを示す。

「核融合炉が緊急停止や。カワズロボを応急修理に向かわせるでぇ」


「バリアに回すエネルギーを五倍に。イチは攻撃を回避して」

 教授が命じると、制御脳のディアーナがエネルギーの調整を行う。

 次の瞬間、リュリアス号からの攻撃が再びユピテル号の船体に命中した。今度はバリアが攻撃を撥ね返す。

「向こうは、ユピテル号を撃沈する気よ。反撃しなきゃ!」

 アリアーヌが叫んだ。


「少しだけ待って」

 教授は攻撃を中止するようにリュリアス号に呼びかけた。

「リュリアス号に告ぐ。攻撃をやめなさい。天神族が管理する星系で、こんなことをして恐ろしくないの?」

『ふん、天神族の監視は地球に限られている。この宙域で戦っても知られることはない』

 ブリッジのスピーカーから、リュリアス号の船長らしい声が響いた。近距離無線通信を使っているようだ。天神族に知られることを恐れているのだろう。

「そうだとしても、なぜ我々を攻撃するの?」

『邪魔だからだ』


 その瞬間、リュリアス号から強烈な妨害電波が発せられた。

「通信が切れたわ。リュリアス号の奴らは、ユピテル号を破壊するつもりのようね」

 アリアーヌが納得いかないという顔で口を開いた。

「どういうつもりなんでしょう。我々を攻撃しても、何の利益にもならないのに」

「あいつらは太陽系を手に入れるつもりなのよ」


 その言葉を聞いて、ソウヤたちが怒りの目をリュリアス号に向けた。

「でも、天神族が監視している地球人の星系なんですよ。どうやって手に入れると言うんです」

「地球人が全滅すれば、天神族は太陽系に興味を失い、放棄するかもしれない。それを狙っているのよ」

 星系の知的生命体が絶滅し、天神族が管理放棄を宣言した星系がいくつかあるらしい。

「まさか……宇宙クラゲはリュリアス号が持ち込んだんやないんか?」

「こうなると、その可能性が高いわ」


 ソウヤは荷電粒子砲をリュリアス号に向けた。

「容赦するな。全力でボコボコにしてしまえ!」

 モウやんが興奮して叫んでいる。ソウヤは「おう!」と叫んで発射ボタンを押した。

 ユピテル号から発射された光の帯が伸び、リュリアス号に命中した。だが、強力な荷電粒子も敵船のバリアに弾かれて霧散する。


「敵のバリアは強力なようよ。荷電粒子砲の一、二発じゃ効果がないみたい」

 アリアーヌが分析した結果を知らせる。教授はリュリアス号を睨んで、モウやんに命じた。

「加速力場砲を用意して」

 モウやんは頷いて、用意を始めた。



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