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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
50/55

scene:50 ユピテル号と宇宙クラゲ

 宇宙ステーションの建造を中止したソウヤたちは、金属資源のすべてと氷塊をラグランジュポイントに送るように、マスドライバー船に指示を出した。

 氷塊については、小惑星から取り出し用意したタンクに入れてからになるので、金属資源を送り終わった後に飛ばすことになるだろう。


 ユピテル号はプシケを離れ地球に向かった。教授はリュリアス号に連絡し一緒に行かないのか訊いた。それに対する返事はユピテル号が行けば、必要ないだろうというものだ。

「あいつらが地球に置いてきた搭載型惑星間航宙船は、戦闘に参加するのかな?」

 モウやんが疑問を投げかけた。教授は否定するように首を振る。

「あの航宙船に、大した武装はなさそうよ。戦闘には参加しないと思う」


 芹那は心配そうに進行方向にある地球の様子を見ていた。

「大丈夫かしら?」

 近くにいたチェルバが鼻を鳴らして答える。

「ふん、心配ないずら。このチェルバ様が、お前たちの惑星を守り抜いてやるずら」

「そうだ。チェルバ様に任せておけば、大丈夫ずら。但し、お茶菓子には注意するずら」

 お茶菓子として全員に配られたバームクーヘンが、芹那の皿から消えていた。チェルバの仕業である。芹那は大きく溜息を吐いた。


「あいつら、何が目的で太陽系に来たんだろう?」

 イチが呟くように言う。

「どうせ碌でもないことや。それより間に合いそうなんか?」

「巡航速度で十分間に合うと思うけど、スピードを上げようか?」

「必要ないわ」

 教授はユピテル号の性能をリュリアス号に知られたくないようだ。リュリアス号が敵に回る恐れがあると思っているのだろう。


「それより、ユピテル号の近接防御火器が少ないのは問題ずら」

 チェルバが珍しく問題提起した。宇宙クラゲを荷電粒子砲やモノポール亜光速ガトリング砲で攻撃するのは、エネルギーの無駄遣いだとチェルバは力説する。

 確かにスペース機関砲で仕留められる宇宙クラゲに、荷電粒子砲を使うのは大げさだった。教授は近接防御火器の増強を許可した。

 担当はモウやんとチェルバたちである。


 三人は近接防御火器として、パルスレーザーキャノンを選択した。この武器は構造が洗練されているので、エネルギー消費量が少ないのが特徴だ。

 三連装二基、連装四基を製作し上下に分けて設置する。火器管制システムは基本的に制御脳ディアーナが行うことになるが、手動に切り替えることも可能とした。

 その威力は脅威度2の突撃機雷ウニまでなら通用する程度であり、脅威度3の砲撃ダンゴムシなら装甲で弾かれるだろう。


 ユピテル号が帰還した時、宇宙クラゲの先頭集団は地球から五時間の距離にまで迫っていた。

 同じ頃、アメリカのケネディ宇宙センターから新型宇宙往還機スペースホークが飛び立った。スペースシャトルは固体燃料補助ロケットの力を借りて飛び立ったが、スペースホークはジェブジエンジンだけで宇宙まで駆け上がる。


 地球で開発されたロケットエンジンとは、隔絶した性能である。

「こちらスペースホーク、迎撃高度に到達しました」

 船長のカーティス・ソーウェルは、ケネディ宇宙センターへ報告してからユピテル号を探した。インドの上空に異星の船が浮かんでいる姿が目に入る。


「ユピテル号に連絡を入れてくれ」

 カーティスの指示でユピテル号と回線が繋がった。カーティスは教授に共闘を申し出た。

『こちらは構わないわ。だけど、そちらは大丈夫なの?』

「心配ない。ところでリュリアス号の搭載型惑星間航宙船はどこに行った?」

『あの船は、地球の裏側に避難したわ。戦闘能力がないそうよ』


 スペースホークの船長は顔を歪め通信を切った。

「なぜ、大統領はリュリアス号を選んだんだ?」

「リュリアス号の方が大きかったからじゃないですか」

 火器担当のカールが肩を竦めて答えた。


 その頃、地上の航空宇宙センターでは、共同探査システムから送られてくる映像をチェックしていた。

「袴田理事、ユピテル号が間に合ったようです」

 映像をチェックしていた青木が、ユピテル号の姿を確認して袴田理事に報告した。

「芹那君から連絡が入っていたので、大丈夫だと分かっていたが、ホッとした」

「これは……ユピテル号に新しい武器が装備されていますね」

「何だと……どんな武器かね?」

「スペース機関砲でないのは分かるんですが……」


 袴田理事は大型モニターに映し出すように指示した。

 宇宙空間を漂うユピテル号の装甲に見慣れない装置が追加されていた。モウやんたちが追加したパルスレーザーキャノンである。

 この武器はそれほど大きなものではない。パルスレーザーキャノンは直径四〇センチほどの球形の武器で、眼球のように回転して照準を敵に合わせる。


 ユピテル号が帰還したという知らせは、世界中に伝えられ多くの人々が安堵した。それらの人々の中には、教授の容貌から女神だと崇拝する者もいて、ユピテル号の人気は高い。

 アメリカはスペースホークから送られてくる映像をテレビ局に提供した。目的はアメリカが誇るスペースホークの活躍を見せることで国民に安心感を持たせ、他の国々にアメリカの技術力を誇示することだ。


 宇宙クラゲの集団が地球を包囲するように近づいてくる。ユピテル号はアジアから中心に守りを固め、スペースホークはアメリカを中心に防衛する位置に移動する。

「教授、ボソル荷電粒子砲で先制攻撃を仕掛けたらどうや?」

 ソウヤが提案した。性格的に待っているのはしょうに合わないようだ。

「宇宙クラゲの探知能力は、意外に優れているのよ。遠距離からの砲撃だと躱される可能性が高いわ」


 防御力・攻撃力とも最低レベルの星害龍だが、探知能力だけは優れている。宇宙クラゲへの遠距離攻撃は、追跡ミサイル以外の命中率が五割ほど落ちるというのが屠龍猟兵の常識だった。

「面倒臭い奴だな。僕がリメルジャーで突撃して蹴散らしてやるよ」

「ダメよ。地球人に花を持たせてやりなさい」

 教授はスペースホークが活躍するチャンスを与えるように指示した。


 芹那はユピテル号のカメラで撮影した映像を地球のフォーマットに変換して日本の航空宇宙センターに送り始めた。その映像を受け取った袴田理事は日本政府に転送した。

 その映像を見た小寺総理は、使えるのではないかと考える。

 アメリカがスペースホークの映像を解説付きでテレビ放送し始めたのを知った世界各国の人々が、自国でも放送しろと要求の声を上げ始めていた。


 ユピテル号から送られた映像は、アジアからヨーロッパ、アフリカまでもカバーしており、それらの地域へ配信することにした。

 その映像を見た人々の中で、ヨーロッパとアフリカの人々が不安の声を上げた。自国の上空ががら空きになっているという状況に恐怖を覚えたようだ。

 アフリカの国の中には、ユピテル陣営の国もある。それらの国からの要望がユピテル号に届いた。


「アフリカの上空も守ってくれ、と言ってきたわ。ソウヤ、行ってくれる?」

「了解や。オーストラリアはどうするんや?」

「モウやんにお願いするわ」

「おー!」

 モウやんは張り切って声を上げた。


 ソウヤとモウやんは、それぞれの駆龍艇で発進した。ソウヤの担当範囲はアフリカを中心についでにヨーロッパを防衛するというものだ。

 ヨーロッパの国の中に、ユピテル陣営に入っている国がなかったのが優先順位を下げられた理由である。

 芹那は二隻の駆龍艇が発進する様子を解説付きで撮影し、地球に送った。


 その映像を見たヨーロッパの人々は、とりあえず安心した。だが、アフリカより優先順位が低いと聞いて、複雑な表情を浮かべた。

 アフリカ諸国は、ヨーロッパの国々により植民地にされた歴史がある。かって宗主国として君臨した国が、昔の植民地より低い待遇で扱われるのだ。複雑な表情にもなるだろう。


 最初に戦闘が始まったのは、アジアの上空だった。パルスレーザーキャノン担当のチェルバとミョルは、宇宙クラゲに狙いを付け発射ボタンを押した。

 一秒間に三〇発ほどのパルスレーザーが発射され、宇宙クラゲの胴体に穴が開く。近くにいた宇宙クラゲがユピテル号に向かい始めた。仲間を殺られたことでユピテル号を敵だと認識したのだろう。


 チェルバたちにとって楽しい狩りの時間だった。ユピテル号に吸い寄せられた宇宙クラゲは、パルスレーザーキャノンにより蜂の巣となる。

「どんなもんずら」

「チェルバ様、最高ずら」

 二人のファレル星人は、クルクルと回転して踊り、ムーンウォークを披露した。チェルバとミョルは地球の文化に毒されたようだ。


 アメリカ上空では、スペースホークが奮闘していた。宇宙クラゲに接近しては、スペース機関砲を撃ちまくり仕留めている。

「よし、また仕留めたぞ」

 カーティスが気合の入った声を上げた。素早く船の燃料と残弾をチェックする。残弾は十分にあるが、燃料が三割ほどになっている。宇宙に到達するために大量の燃料を使ったからだ。


「残敵の数は?」

「四匹です。一匹はカリフォルニア州に近づいています」

 他の三匹はスペースホークへ向かっているが、一匹だけ別行動をしている奴がいた。

「あいつ、サンフランシスコを狙っているんじゃないか」

 カールがカーティスに告げた。

「あれは最後だ。まず、向かってくる三匹を仕留めるぞ」


 スペースホークの真下にはニューヨークがある。三匹を仕留めるまで、ここを離れるわけにはいかない。

「カール、一刻も早く仕留めるんだ」

「了解」

 ユピテル号にとっては近距離攻撃になるが、原始的な地球の照準システムを使っているスペースホークにとっては遠距離攻撃である。


「クソッ、ミサイルが搭載されていれば……」

 三度射撃して、やっと一匹を仕留めたカールが愚痴をこぼした。

「この機体に搭載するミサイルは開発中なんだ。仕方ないだろ」

「だったら、もう少し接近してくれ」

「努力する。だが、一匹に接近すれば、もう一匹にすり抜けられる危険が高まる」


 スペースホークは右舷前方にいる宇宙クラゲに狙いを絞り攻撃を開始した。二撃目で宇宙クラゲの胴体に爆裂弾が減り込み爆ぜる。

「よし、もう一匹」

 左舷前方にいる宇宙クラゲに向かって軌道を変更し、エンジンを吹かした。


 その頃、アリアーヌはユピテル号で宇宙クラゲ全体の動きを監視していた。ユピテル号の担当区画に侵入した宇宙クラゲはチェルバたちが確実に仕留めている。心配する必要はないだろう。ソウヤとモウやんが担当する区画も心配ない。

 問題はスペースホークが担当するアメリカ大陸の上空である。一匹の宇宙クラゲがサンフランシスコの上空に到達しようとしていた。

「教授、どうしますか?」


 同じ頃、地上ではサンフランシスコの市民が青い顔をしてテレビの画面を見ていた。

「おい、スペースホークは何してるんだ。俺らの頭の上に化け物が来てるんだぞ」

「まずい、まずいぞ。今からでも避難しようか」

「馬鹿野郎、今から避難しても間に合うもんか」

 アメリカ国民の一部は、パニックを起こしそうな心理状態になっていた。


 ホワイトハウスのポーカー大統領は、執務室で歯を食いしばってモニターに映る宇宙クラゲの姿を見ていた。

「カーティス、何とかしろ」

 思わず叫んだ大統領。

 同じようなことを叫んだアメリカ人は、数え切れないほどいただろう。


 そのカーティスは、ニューヨークの上空で宇宙クラゲを仕留めたところだった。

「よし、サンフランシスコだ」

 スペースホークのエンジンが出力全開となった。ニューヨークからサンフランシスコまで、ジャンボジェットなら数時間かかる距離である。

 ジェブジエンジンを使っても十数分の時間が必要だろう。減速の時間を考慮しなければ、もっと早く到達できるのだが、速度を落とし迎撃の体勢を整える必要があった。


 スペースホークが到着する三分前、サンフランシスコの上空に達した宇宙クラゲが高度を落とし攻撃しようとしていた。

「あの化け物、高度を落とし始めているぞ」

「スペース機関砲の射程に到達するまで三分。クソッ、間に合わないのか」

 カーティスとカールが照準モニターに映る宇宙クラゲを見詰め呻くように言う。


 その時、宇宙空間を一条の光が貫いた。その光は宇宙クラゲに命中し蒸発させる。

 ユピテル号から発射されたボソル荷電粒子砲の攻撃だった。カールは唖然とした表情を浮かべる。

「嘘だろ。地球を半周するような距離から命中させられるのかよ」

「照準装置の性能が違いすぎる」


 地上では、アメリカのほとんどの国民がサンフランシスコ上空の宇宙クラゲが仕留められるのを見ていた。そのことにより、大勢の人間がユピテル号に感謝した。



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