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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
45/55

scene:45 金属小惑星の採掘権

 アメリカのポーカー大統領は、ユピテル号と条約を結んだユピテル陣営の報告を受けていた。

「この海上都市というのは、どういうものなのだ?」

 中央情報局《CIA》の長官であるマイケル・ウェブスターは、眼鏡の位置を直し報告を始めた。

「ユピテル号の宇宙往還機であるプラネットシャトルが、着陸する施設として建造されたもののようです」


「これだけの規模のものが、二、三日で建造されたと?」

「日本が資材を用意したのが五日前、海上都市が着水したのが二日前になりますので、計算するとそうなります」

「ユピテル号は、それだけの建造能力を持っていることになる。あの大きさの船で可能だとは思えん」

「可能だったから、海上都市が存在するわけです」

 大統領は納得していない顔だ。


 マイケルが待っていると、大統領が先を促すように視線で合図する。

「構造的には、円盤状の着陸施設と円柱の部分に分かれているようです。円盤部分は直径三〇〇メートル、円柱部分は直径五〇メートル、長さ二〇〇メートルです」

「中身はどうなっている?」

「移動と姿勢安定のためと思われるスクリュー、方向ラダー、安定翼などがありますので、それを制御する機械や動力炉があると思われます」


 ポーカー大統領が動力炉と聞いて興味を示した。

「動力炉の種類は何だ?」

「燃料電池のようです。大量の水素が運び込まれましたから、間違いないと思われます」

「その燃料電池の性能は?」

「地球のものより高性能らしいのですが、詳細は不明です」


「詳細を調べたまえ」

「大統領、詳細は日本人でさえ知らないのです。それに燃料電池など地球のものが少し高性能になっただけ。問題にするほどのものではありません」

「なあ、マイケル。私が判断を誤ったと思うか」

「リュリアス号を選んだことですか? まだ援助内容も決まらない状況では、判断できません」


 ポーカー大統領が弱気になっているのには理由がある。リュリアス号が技術情報を渡す代償として、とんでもない条件を突き付けたからだ。

 その条件とは、小惑星プシケを渡せというものだ。プシケは火星と木星の間の軌道を公転している比較的大きな小惑星である。

 重要なのは、プシケが金属の塊のような小惑星だということ。その組成は、純度の高い鉄とニッケルからなり、太陽系の中でも貴重な金属小惑星だった。


 しかもプシケの大きさは幅二〇〇キロ以上と大きく、将来の宇宙開拓時代において重要な資源になると考えられていた。

 ちなみに、その価値は天文学的な数字になるらしい。

「他国の中には、技術情報に比べて代償が高すぎるのではないかと主張する国もある」


 マイケルがメガネをクイッと上げ、

「ユピテル陣営が、黙っているでしょうか?」

 ポーカー大統領が顔をしかめた。ユピテル号が金属資源を含んだ小惑星から採掘する許可が欲しいと要求した時、アメリカと中国が拒否したからだ。


「そうだな。そのことも考慮しなければならんだろう」

 ポーカー大統領は、主要国と相談しプシケを丸ごと渡すことは拒否。採掘権を与える条件で援助を受け取れるように交渉を纏めようと努力した。

 交渉相手であるリュリアス号の船長は渋ったが、採掘権だけで承知させた。また、ユピテル陣営にもユピテル号に採掘権を与えることを承諾した。

 リュリアス号から技術情報を受け取ったアメリカを始めとする国々は、新しいロケットの開発に取り組み始めた。


 一方、日本を始めとするユピテル陣営は、海上都市マレポートの整備を進めていた。マレポートのほとんどの区画は空だ。

 そこに大量のパネルを運び込んで部屋を作り、大量の生活用品と食料を運び込んだ。マレポートの内部に新しい町が姿を現そうとしていた。

 一三ヶ国では、マレポートに住む人員の選出を進めていた。マレポートに住むのは、宇宙関係の仕事をしている研究者と技術者である。


 彼らに託されたプロジェクトは、再使用型宇宙往還機の開発である。但し、スペースシャトルのような中途半端なものではなく、ジェット旅客機のように宇宙を往復する機体の開発だった。

 研究者や技術者たちは、それを不可能だとは考えなかった。ユピテル号が提供したヒムラルエンジンは、それだけのポテンシャルを持っていたからだ。


 もちろん、宇宙往還機が短期間に開発できるはずもなく、普通なら年単位の開発期間がかかるプロジェクトである。

 だが、ここにユピテル号のサポートが加わればどうなるか。進んだ技術情報や装置類を与えることはできないが、ユピテル号の航宙船用制御脳に備わっているシミュレート機能を研究者や技術者が使うパソコンから使えるようにしたのだ。

 適法判定アプリで調べたら、シミュレート機能を使わせるだけならセーフらしい。


 マレポートの整備が進み、各国から選ばれた専門家がマレポートで働くようになった。その頃になって、ユピテル号に小寺総理から連絡が入った。

 技術情報を提供する代償として、リュリアス号に金属小惑星プシケの採掘権を与えるということを知らせてきたのだ。教授は、ユピテル号にも同じ採掘権を与えるように要求した。

 そのことは、ユピテル陣営の一三ヶ国に承認され、他の国々も追認した。


「教授、マレポートは造ったのに、何で採掘権なんかもらったんや?」

 ユピテル号の中でソウヤが質問した。

「マレポートを見ていて考えたのだけど、宇宙でもマレポート方式が可能なんじゃないかと思ったのよ」

「どういう意味?」

「例えば、宇宙ステーションの殻だけ造って、中身を地球人に任せるの」


 モウやんが首を突っ込む。

「宇宙ステーションなんて、必要ないんじゃない」

 アリアーヌは、教授の提案が意味することが分かった。

「その宇宙ステーションから、小型攻撃機を出撃させた方が、効率がいいのよ」

「そうか、出撃基地にするんやな」

 ソウヤは納得した。


 ソウヤたちは、どういうものにするか話し合った。

「その宇宙ステーションは、どれくらいの規模にするの?」

 モウやんも、乗り気になったようだ。イチが冷静な声で、

「宇宙クラゲを撃退するには、小型攻撃機が何機必要かを計算しなきゃならないな」


「合計で一〇〇万匹以上いるのよ。宇宙クラゲの習性を考えると、同時に数百匹単位で襲う恐れがあるわ」

 教授の言葉に、ソウヤたちの顔が曇った。

「予想より多い。それやと五〇機くらい必要やで」

 ソウヤが計算して告げた。


 全員が考え込んだ。当初考えていたより、規模が大きくなりそうだったからだ。

「プシケに行くんなら、航宙船用制御脳のシミュレート機能はどうするんや」

 ソウヤが教授に尋ねた。

「そうね。シミュレート機能を組み込んだ装置をマレポートに設置すればいいわ。カワズロボならアッという間に作り上げるはず」

 教授はすぐさまカワズロボに命じた。


 プシケの採掘権を受け取ったリュリアス号は、衛星軌道上に搭載型惑星間航宙船を残して地球を離れた。去った方向にプシケがあるので、ソウヤたちはリュリアス号の行き先が分かった。

 ソウヤは探査・調査系全システムを使って、金属小惑星を調べた。距離があるので詳しい情報は得られなかったが、重要な事実を探し当てた。


 金属の塊であるプシケに、多くの白金鉱脈を発見したのだ。しかもイリジウムを多く含む白金鉱脈らしい。

 ソウヤは教授に報告した。

「ふん、そうなのね。奴らの狙いは白金鉱脈とイリジウムを、合法的に採掘して持ち帰ることだったんだわ」

「白金って、プラチナだろ。プラチナが高いのは知ってるけど、イリジウムって高価なの?」

 モウやんが質問した。


「イリジウムは、エンジン製造に必要な素材の一つよ。造船事業が盛んな星系では、いつでも不足していて高値で取引されていると聞いているわ」

 教授の説明で、モウやんは納得した。

「それで、どうするんや。追っかけるんやったら、急がなあかんで」

「急ぐ必要はないわ。あれだけ巨大な小惑星なのよ。あの航宙船に搭載されている採掘マシンでは、全体の一パーセントを採掘するだけでも年単位の時間が必要だわ」


 教授はプシケに行く前に、ソウヤたちが家族と再会することを勧めた。そして、今後のことを話し合うべきだと言う。

 ソウヤは姉の芹那と連絡を取り、地球に戻ることを伝えた。再会する場所は、イロメ湖にした。

 ソウヤとイチ、モウやんの三人は、プラネットシャトルでマレポートに着陸し、秘密の通路を通ってステルス潜水艇が置いてある格納庫まで行く。


 イチが操縦するステルス潜水艇は、イロメ湖近くの海岸まで行った。その海岸に上陸したソウヤたちは、潜水艇から電動アシスト自転車を運び出す。

 その電動アシスト自転車は、ソウヤたちが学んだ宙域同盟の科学技術を使って作り出したものだった。外観は電動アシスト自転車に見えるが、マイクロマシンで作り上げた多機能マシンだ。


「こんなの持ち出して、大丈夫なのか?」

 イチは先進技術を地球に持ち込むことを心配しているようだ。確かに、地球人に見つかれば大問題になるが、こんな時に、子供の持ち物を気にする奴はいないと、ソウヤは思っていた。

「大丈夫、大丈夫。行こうぜ」

 モウやんが先陣を切って走り出す。一見自転車のように見えるが、実際は電動バイクである。海岸から公道へ出て、イロメ湖へ向かう。


「こりゃあ、楽ちんだ」

 モウやんがご機嫌でスピードを上げる。

「こらっ、スピード違反で捕まるぞ」

「何言ってんだ。これは自転車だぞ」

「あの標識を見ろよ。山道だから時速三〇キロに制限されているだろ。自転車も同じなんだぞ」


 イチの警告で、モウやんは速度を落とした。イロメ湖に到着。そこには三人の家族が待っていた。三人の姿を確認した家族たちは、大喜びして三人を抱きしめた。

 それから質問攻めである。両親たちは、本当にソウヤたちが宇宙に行っていたことが信じられないようだ。

 無理はないのだが、ユピテル号でも見せないと信じてくれないかもしれない。


「本当だって、これを見てよ」

 モウやんが電動アシスト自転車に手をかけた。自転車の形をしたものが砂のように崩れ、ボストンバッグの形に変化した。

 それを見た家族は、少し信じる気になったようだ。


 ソウヤは数年ぶりに自宅に戻った。自分の部屋に入ったソウヤは、その部屋が少しの変化もないことに驚いた。

 机の上には、小学五年生の教科書が置かれていた。クローゼットの中を見ると、小さな服が並んでいる。

「あれから、随分な時間がすぎたんやな」

 ソウヤが感傷に浸っていると、下からソウヤを呼ぶ声が聞こえてきた。


 リビングに家族が集まっていた。父親の学が真面目な顔をして尋ねた。

「これから、どうするつもりなんだ。お前は小学校も卒業していないんだぞ」

 父親として息子の将来が心配のなのだろうが、ちょっとずれている。ソウヤにとって学歴など、もはや問題ではなかった。

 だが、父親と母親の顔を見て何も言えなくなった。父親の髪の毛が白くなり、深いシワが刻まれている。母親も随分と老けたようだ。


 芹那が父親の顔を見てから、視線をソウヤに移す。

「中学校は、中学校卒業程度認定試験というのがあるらしいから、それを受けて合格すればいいと思う。それなら高校へも行けるようになる。まあ、高校に行きたいのならだけど」

「そうか、弟のために調べてくれたんだな。その試験を受けて、高校へ進むのがいいんじゃないか」

 父親の意見に母親も賛成のようだ。ソウヤは顔をしかめた。両親は何も分かっていない。


 もう一人の姉美穂が、呆れたような顔をする。

「お父さんも、お母さんも姉さんの話を聞いたでしょ。こいつはユピテル号の乗組員なのよ。地球の科学力を遥かに超えた知識を持っているの」

「乗組員と言っても、どうせ下っ端の掃除係とかだろ。碌な教育も受けなかったんじゃないか。私はそれを心配してるんだ」

「一杯勉強したんやで、資格も取ったし」

「何の資格だ?」

「航宙船操縦士2級の免許や。あのユピテル号も操縦できる免許なんだぞ」


「操縦したことがあるのか?」

「もちろんや」

「そ、そうか。それは凄いな。そうだ、勉強は……どんなことを学んだんだ?」

「数学と航宙法・航宙船工学・天文学・エネルギー工学……」

「もういい。異星の科学は判断できん。その知識でどんなものが作れるんだ?」

「プラネットシャトルを設計したのは、何を隠そう俺や」

 ソウヤが胸を張る。家族全員が驚いていた。


 家族はソウヤの失踪届を取り下げ、ソウヤたちの失踪事案は終了した。警察が確認に来るかと思ったが、マレポートに外国籍の船舶が近づき、無断で乗り込もうとした事件やテロ事件が起きたようで、子供の失踪事案など構っていられないようだ。

 テロ事件は、政府要人が入院している病院が占拠され、政府にユピテル号からもらった技術情報を要求するというものだった。


 天神族の存在を理解していない者たちの仕業だろうとソウヤたちは思った。


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