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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
43/55

scene:43 教授と日本代表

 小寺総理は宇宙船の窓から見える光景に感動した。そして、ここが宇宙なのだと感じる。

 芹那は、会議室でジャンプしてみた。

「何をしているのかね?」

 袴田理事が見ていたようだ。


「ここの重力ですが、地球より少し弱いみたいです。異星人に合わせているのでしょうか?」

「そうかもしれないね。人工重力を簡単に作り出せる種族だ。心して相手をしなければいけない」

 芹那と袴田理事が話をしていると、会議室のドアが開いた。史上初めてとなる地球人政府代表と異星人の会談が始まった。


 日本人たちは、ユピテル号の艦長オルタンシア・クシェペルカ、通称『教授』を初めて見た。そして、女神のように神秘的で美しい容貌に衝撃を受けた。

 自衛官の二人が小声で、

「なんて凄い美人なんだ。これが異星人なのか」

「異星人なのは間違いない。あの耳を見ろ。特徴的な耳をしている」


 日本政府代表の中には、ボーッと見惚れている者もいる。

「初めまして、地球の方々。私は屠龍戦闘艦ユピテルの艦長オルタンシア。仲間からは『教授』と呼ばれていますが、あなたたちは、オルタンシアまたは艦長とお呼びください」

 教授が優雅に一礼した。


 これに答えて、小寺総理たちも自己紹介する。

 自己紹介が終わり、会議が始まった。

「皆さんが宇宙クラゲと呼んでいる星害龍の脅威を、どこまで把握しているか分からないので、私の方で説明します」

 教授は普段の話し方とは違い、交渉時によく使う話し方をしていた。

 会議室の中央に太陽系の三次元映像が映し出される。


「現在、宇宙クラゲの存在が確認されたのが、赤い部分なります」

 土星とアステロイドベルトの一部、火星、地球が赤く染まった。そして、確認された宇宙クラゲの数が表示される。

「そ、そんな馬鹿な」

 崎坂大臣があえぐような声を発した。


 小寺総理が教授に顔を向ける。

「艦長、この数字は確かなのですか?」

「ユピテル号が探知した数です。増えることはあっても減ることはありません」

 重い沈黙が会議室を支配する。


 気を取り直した総理が、

「宇宙クラゲを根絶する方法はあるのですか?」

「方法はいくらでもあります。問題は、あなたたちがその方法を使えるかどうかです」

 小寺総理が厳しい顔になる。

「どういう意味でしょう?」


 教授は恒星間基本法の関連する部分を教え、ユピテル号が援助できるものに制限が課せられていることを告げた。

「その法律を破った場合、どうなるのでしょうか?」

「天神族の懲罰は厳しいのです。我々は処刑され、地球人全員が、下級民にされるかもしれません」

 教授は下級民の意味を教えると、小寺総理たちが顔を青褪めさせた。


「厳しすぎる」

「天神族は、その絶対的な力で、自分たちが決めた恒星間基本法を守らせます。それが支配宙域の秩序を守ることだと考えているのです」

「その天神族とは、どれほどの力を持っているのです?」

「天神族の戦艦一隻で、太陽系を消せます」


 小寺総理は、天神族が逆らってはダメな存在なのだと理解した。そうすると、恒星間基本法を遵守じゅんしゅしながら、宇宙クラゲの脅威を取り除かねばならないということになる。

 ユピテル号が譲渡できる技術は、今のところスペース機関砲・ヒムラルエンジンだけだ、と教授が告げた。ヒムラルエンジンは、ある第四階梯種族が開発した高性能エンジンである。

 その種族が数百年に渡って改良を続け洗練された技術であり、完成度が高い、


 偶然にも教授の技術コレクションの中にあったものだ。これらの技術や製品を譲渡しても大丈夫かは、宙域同盟が配布しているアプリで確認した。


 その名も『適法判定アプリ』である。状況を入力し判定させると、適法かどうかを答えてくれる便利なアプリだ。


 文部科学省の崎坂大臣が目を輝かせた。

「その技術情報は、すぐに頂けるのでしょうか?」

「日本だけを優遇するということはできません。代表の皆さんには、この話を持って帰ってもらい、国連などで話し合ってもらうことになります」


 小寺総理が頷いた。

「それはもちろんですが、国連で何を話し合えと?」

「我々が地球人を援助するには、政府と条約を交わさねばならないのです。条約を交わした国だけを対象として援助します」

「これは例えばの話なのだが、日本があなたたちと条約を交わし、技術情報を受け取った後、それを他国へ渡すことは可能なのでしょうか?」


 教授は否定するように首を振った。

「それは許されません」

「では、他国がハッキングなどの違法な手段で技術情報を入手した場合はどうなるのです?」

「条約は無効になります。我々は地球から手を引くことになるでしょう」


 日本政府の代表たちの顔が厳しいものに変わる。教授は表情の変化に気づいた。

「どうかしたのですか?」

「恥ずかしながら、日本のセキュリティに関する技術は高くありません」

 小寺総理は、そういう技術に関してアメリカや中国が、日本より上だと評価していた。

「なるほど、セキュリティの問題も解決しなければならないということですね」


 一度休憩を取ることになった。三〇分後に続きを始める約束をする。その時、芹那だけが艦長に呼ばれた。

「何でしょうか?」

 袴田理事が何事かと近づいてきた。

「女性同士の話があるの。彼女をお借りするわ」

「ですが……」

「袴田理事、私は大丈夫です」


 教授と芹那は通路に出た。

「あなたに会いたいという人がいるの」

 芹那は会議室から少し離れた部屋に案内された。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 その時、ソウヤは自分の部屋で待ち構えていた。心の中で感動的な再会を想像しながら。

 芹那が部屋に入ってきた。

「姉ちゃん」

 ソウヤは手を広げて芹那に駆け寄った。芹那はすぐに誰か分かった。走り寄る弟に、なぜか前蹴りを出していた。ソウヤの顔面に靴底が突き刺さる。


「何すんのや?」

 ソウヤが怒鳴る。

「それは、こっちのセリフよ。何であんたがここにいるの?」

 芹那は混乱していた。女神の如き艦長に呼ばれ、自分がなぜ選ばれたのか確かめようと思っていたのだ。だが、弟の顔を見て、すべて分かった。


「俺たち宇宙人に拐われたんや。そして、苦労の末ようやく帰ってきたんやで。そんな健気けなげな弟に蹴りはないやろ」

「宇宙人に拐われた……あのスポーツ新聞の記事が本当だったの」

「たぶん、それはヨタ記事やと思うで」

 芹那は部屋の中をキョロキョロと探す。いつの間にか、艦長はいなくなったようだ。

「他の二人は?」


「自分の部屋や」

「自分の部屋って……あんたたち、この船の中に自分の部屋を持っているの?」

「当たり前やろ。この船は俺らの船なんやから」

 芹那はふらっとめまいを起こした。


「姉ちゃん、大丈夫か。ここに座って」

 ソウヤは姉の芹那をソファーに座らせた。

「何か飲む?」

「水をちょうだい」

 ソウヤはドリンクサーバーから水をコップに注いで渡した。


 芹那は水を飲むと、少し気分が落ち着いた。

「二人を呼んで」

 ソウヤはイチとモウやんを呼んだ。すぐに二人が部屋に入ってきた。

「ソウヤのお姉さん、お久しぶりです」

「こんちわ」

 イチとモウやんを見て、芹那はホッとした。


 芹那はイチから、これまでの経緯を聞いた。イチが整理した話ができる少年だったと知っていたからだ。それでようやくソウヤが俺たちの船だと言ったわけが分かった。

「それだったら、あんたたちが宇宙クラゲを何とかしてよ」

「無茶言うなよ。天神族のことは聞いたやろ。太陽系ごと消されてもいいんか」


 イチが時間を確認した。

「そろそろ休憩も終わりです。芹那姉さんは、会議室に戻った方がいいですね」

「そうね」

「家に帰れるようになったら、連絡します」

「ええ、待ってる」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 芹那が会議室に戻ると、小寺総理たちが真剣な顔で話し合っていた。戻った芹那を見つけ、袴田理事が声をかけた。

「大丈夫だったのかね?」

「ええ、大丈夫です」

「事情を聞いてもいいか?」

「艦長が、地球のファッションについて話を聞きたがっていたので、少し話して来ました」

「ファッション……そうか、そのために女性の君を選んだのか」


 袴田理事は納得してはいないようだが、芹那のことは信用してくれたらしい。

 会談が再開された。今度は小寺総理が地球の歴史や各国の状況について説明した。

「アメリカと中国が、条約を結んでくれれば、宇宙クラゲ対策は進みそうですね。各国への橋渡しを頼みます。最後に、メルギス種族だと名乗っている連中には、注意した方がいいです。何か不自然なものを感じています」


「どういうことです。あの宇宙船はメルギス種族の探検船ではないのですか?」

 小寺総理が不安そうな顔をする。

「メルギス種族に会ったことがないので、何とも言えません。ただメルギス種族の航宙船を調べてみました。あれが探検船だとは思えません」


 小寺総理たちが帰還する時間になった。日本人たちがプラネットシャトルに乗り込む。そこにカエル顔のロボットが現れ、芹那たちのスマホを返した。

「帰リハ、月ヲ一周シテカラ戻リマス」


「えっ!」

 小寺総理が驚きの声を上げた。アポロ十一号は月までの往復に数日かけている。そんな時間はない。

「袴田理事、時間は大丈夫なのかね?」

「星から星を旅している異星人のテクノロジーなら、それほど時間はかからないのだと思います」


 芹那は戻ってきたスマホを手にして、ロボットに質問した。

「スマホを返してくれたということは、外の様子を撮影してもいいということなの?」

「ハイ。構イマセン」

 そう答えたロボットは、コクピットへ向かった。


 芹那は袴田理事に提案した。

「前方の窓と後方の窓に分かれて、動画を撮影しませんか?」

 袴田理事はすぐに了承した。芹那は前方へ行ってコクピットのロボットに前方を撮影する許可を取った。

 芹那は段々と近づく月を撮影し、袴田理事は小さくなる地球の姿を撮影する。


 プラネットシャトルは、二時間もかからずに月を一周して戻ってきた。羽田空港に着陸。芹那たちが降りると、すぐに飛び立った。

「袴田理事、家に帰って寝たいのですが……」

「ダメだ。航空宇宙センターへ行って報告しなくてはならん。きっと寝ないで待っているぞ」

 空港には送迎用の車が用意されていた。その車で、芹那たちは航空宇宙センターへ向かう。


 その日の午後、小寺総理はユピテル号に招待され、異星人と直接会談したことを発表した。その情報をテレビのニュース番組で知った各国首脳は慌てた。

 アメリカ大統領はホットラインで小寺総理へ連絡し、事情を聞いて不機嫌になった。


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