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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
38/55

scene:38 モノポール亜光速ガトリング砲

 ユピテル号の武装強化が完了した。新しく追加したのは、モノポール亜光速ガトリング砲だけではない。単装ボソル荷電粒子砲も四基追加し、全部で連装一基、単装五基になった。

 ボソル荷電粒子砲だけでも、一隻の戦艦と互角に撃ち合えるだけの戦力になったのだ。

 しかも、アクティブ・シールドを設置したことで防御力も大幅に上がっている。


 一方、武装輸送船の建造を行っていたラグズ造船は、試作船を完成させた。二五口径荷電粒子砲二基と一六口径レーザーキャノン四基を備えた堅牢な輸送船である。

 全長二〇〇メートルの中型輸送船は、使い勝手が良く速度も十分だった。最大積載量こそ同クラスの輸送船より劣っていたが、海賊船にも対抗できる船となっている。


「旅行の期間は、どれくらいなんじゃ?」

「一〇日ほどになると思うわ」

 武装輸送船の販売準備をしているガモフ副社長の質問に教授が答えた。

「こんな時期に旅行に行かんでもいいのに」

「すまないわね。どうしても行かなきゃならない理由があるのよ」


 ガモフ副社長が溜息を吐いた。

「ユピテル号の武装を強化しているようじゃったが、危ないところへ行くなら気を付けるんじゃぞ」

 教授が笑って頷き、

「ええ、必ず無事に戻ってくるわ」


 ボニアント星系を飛び立ったユピテル号は、跳躍リングを潜ってモルヴェット星系へ向かった。

 モルヴェット星系の外縁部で通常空間へ出たソウヤたちは、探査システムで星系の隅々を調査開始する。

 現在のユピテル号は、リビングベースを収納し、モノポール亜光速ガトリング砲を船体下部に取り付けた戦闘モードである。


 ソウヤは三次元レーダーをチェックし、バルゾックの艦隊位置を確かめた。

「よっしゃー、敵は二つに分かれとるでぇ」

 戦艦二隻と駆逐艦三隻は、第三惑星ドレマークの周囲を回っている。そして、残りの巡洋艦三隻と駆逐艦三隻は、第五惑星近くを航行していた。

 ユピテル号に近いのは、巡洋艦と駆逐艦の艦隊だ。


 モルヴェット星系の恒星は、太陽と同じ黄色矮星である。惑星は六個で、第三惑星ドレマークだけが居住可能だった。青い海と緑に覆われた陸地は、地球に似ている。

 ただドレマークは、アウレバス天神族により生態系をいじられていた。星害龍の元になった実験生物が繁殖し、人間の住めない環境となっている。

 その惑星に住む生物は、化け物ばかりだった。


 もちろん、宇宙を飛び回る種族なら、化け物を退治し文明を築くことは可能である。但し、この星系が天神族の所有物でなければの話だ。

 すでに管理を放棄しているが、所有権が天神族にあるのは分かっている。そんな場所に住み着くなど考えられない。もし、天神族の機嫌を損ねるようなことになれば、種族全体が危機に陥るからだ。


 ソウヤが確認したバルゾックの巡洋艦三隻と駆逐艦三隻は、分派艦隊と名付けられ外縁部の警戒任務を行っている。

 バルゾックの分派艦隊は、ソウヤたちが気付いたと同時にユピテル号を探知した。

「星系外縁部に正体不明船を探知」

 探知システム主任が、分派艦隊を率いるバッセル准将に報告した。バッセル准将は、巡洋艦ヴォルゲの艦長でもある。

「船種は分かるか?」

「駆逐艦だと思われます」

 探知システム主任である乗員は、ユピテル号のフォルムから推測した。


 それを聞いていた操縦士が声を上げる。

「どこの軍が派遣したんだ?」

 バッセル准将は首を振る。

「どこかの軍が派遣したのなら、一隻ということはないはず。屠龍戦闘艦ではないか」


 それを聞いた乗組員から緊張が少し解けた。操縦士が次の指示を請う。

「我らが受けた命令は一つ、この星系に誰も近付けるなだ。今までと同様に追い払う」

 バッセル准将は、ユピテル号へ向かって進路を取るように指揮下の各艦に命じた。

 艦隊は隊列を維持したまま進路を変える。


 ユピテル号と分派艦隊の距離が縮まり、ユピテル号の姿がはっきりと確認できるようになると、探知システム主任が警告の声を上げた。

「敵艦の下部に巨大な兵器らしきものを発見。注意されたし」

「巨大な兵器だと……メインモニターに表示しろ」

 バッセル准将の命令で、ユピテル号の姿が大きく映し出された。


「何だあれは!?」

 操縦士が大きな声を上げた。ブリッジにいる他の乗組員も同様に驚いている。

「戦艦の主砲より巨大な兵器か……ハリボテではないのか?」

 バッセル准将が疑問の声を上げた。

「我が艦隊の前に、ハリボテを装備して現れたと?」

「……どれほどの兵器かは分からんが、相手は駆逐艦クラスだ。我々の戦力を持ってすれば撃退することなど容易いはずだ」


 惑星ドレマークにいる主力艦隊の司令ギヴォルから命令が届いた。

「ふん、速やかに排除せよか。言われずとも排除してやるさ」

 バッセル准将は呟き、各艦に戦闘準備を命じた。

 巡洋艦の主砲は、三八口径荷電粒子砲九基である。駆逐艦クラスの戦闘艦を仕留めるには十分な威力を持つ武器だ。それに駆逐艦も三隻存在する。


 優勢だと判断した分派艦隊は、堂々と隊列を組んでユピテル号に接近する。その様子を教授はジッと見ていた。

「ソウヤ、本当に大丈夫なんだろうね?」

「当たり前や。宇宙空間に向けた試射だけやと威力が分かりづらかったけど、戦艦でも粉々にする威力があるで」

 教授は半信半疑だった。戦艦の強靭さを知っていたので、粉々というのは言いすぎだと思っている。


「この前の戦いでもそうだったけど、戦闘艦同士の戦闘では、探知妨害とかしないんやな」

 モノポール亜光速ガトリング砲の砲撃は、ソウヤが担当していた。星害龍との戦いと比べ、レーダーなどが使えるので楽だと思う。

 自動照準装置で六隻をロックオンし目標追尾機構が作動を開始。この状態で着弾までのタイムラグを計算し敵艦の未来位置を予測する。


 確率の高い二つの未来位置に数発ずつ発射するように自動照準装置を設定。巡洋艦の未来位置に三発ずつ、駆逐艦には二発ずつモノポール亜光速ガトリング砲を発射するようにだ。

 ユピテル号はジグザグ航行はせず、最速で突き進む。分派艦隊で何らかの対応を取る前に、有効射程にまで近付きたかった。

 モウやんがカウントダウンを始める。


「5・4・3」

 ソウヤがゴクリとツバを飲み込んだ。

「……1、発射」

 モノポール亜光速ガトリング砲の連続砲撃が始まった。

 船体に砲撃の衝撃が伝わり、ドンドンドンという低い衝撃音が皆の耳を打つ。モノポール弾は薄い紫色に発光しながら飛翔する。それらは流星群のように纏まって敵艦隊を襲った。


 直撃した駆逐艦が、次々に爆発。亜光速にまで加速されたモノポール弾の威力は圧倒的で、一瞬でバリアを突き破り船体に大穴を開け、内部の機械類や船室をぐちゃぐちゃに破壊する。

 モノポール粒子は他の素粒子に比べて大きく、船体を構成する原子に命中すると、その原子を崩壊させるほどのエネルギーを持っている。


 そして、巡洋艦も同じ運命を辿ることになる。

「エネルギー体が急速接近。退避する時間が……」

 探知システム主任の声が、巡洋艦ヴォルゲのブリッジに響いた。次の瞬間、巡洋艦が激しく震える。巡洋艦内部はシェイクされ、細い拘束バンドで固定されていただけものは外れてバラバラとなった。


 巡洋艦のバリアは、一発目だけなら受け止めたらしい。だが、二発目でバリアが破壊され船体に大穴が開いた。二隻の巡洋艦は、動力炉にモノポール弾が命中し爆散した。

 残る一隻は船倉に大穴が開き保管されていた備品が宇宙に吸い出された。それはバッセル准将が指揮を執っている巡洋艦ヴォルゲである。


 巡洋艦ヴォルゲのブリッジは、怪我人の呻き声と異常を知らせるアラート音でカオスな状態となっていた。

「な、何が起きた?」

 バッセル准将が指揮官席に固定されたまま、呆然とした表情で呟いた。

「うるさい。アラート音を止めろ!」

 誰かがアラート音を止めた。その瞬間、周りは呻き声だけとなる。


「応急修理を急げ……敵はどこだ?」

「敵は……ヒッ……左舷方向から接近中」

 バッセル准将は目を血走らせ命令する。

「主砲を撃て!」

 生き残っている主砲が一門だけ荷電粒子を放った。


 その荷電粒子は、屠龍戦闘艦の直前で何かに受け止められ火花を散らして消えた。

「アクティブ・シールドか」

「じゅ、准将、ロックオンです」

 悲鳴のような声がブリッジに響いた。

 次の瞬間、ユピテル号の荷電粒子砲が巡洋艦に向かって放たれた。


 ユピテル号のブリッジでは、ソウヤたちが巡洋艦の最後を見守っていた。

「戦艦抜きだとは言え、あれだけの艦隊を瞬く間に仕留めるとは……」

 教授が目を丸くしている。モノポール亜光速ガトリング砲は、それほど衝撃的な威力だったのだ。

 驚いたのは、ソウヤたち三人以外の全員だった。

 アリアーヌやチェルバも声が出ないほど驚いている。


 やっと落ち着いたアリアーヌが、ソウヤへ顔を向けた。

「何なのよ。あの馬鹿げた威力は?」

 ソウヤがドヤ顔で、

「どや……凄いやろ。俺たち三人が知恵を振り絞った結晶だぜ」

 アリアーヌがソウヤを睨む。

「ふん、知恵を絞ったのはトートで、あなたたちは脳の一部を貸しただけでしょ」


 ソウヤは集団思考システムでの開発作業を思い出して嫌な顔をする。あの作業は極限までソウヤたちの脳を使うので、苦痛に思えるほど精神に負担がかかるのだ。

 だが、そのおかげでソウヤたちの脳は鍛えられた。その脳力は、地球においてノーベル賞を取れる科学者に匹敵するかもしれない。

 但し、それは数学と科学に限定されたものであり、経営能力や政治能力などは普通の子供と同じだった。


「モノポール粒子の生産を開始して。次の相手は戦艦よ」

 教授がソウヤに指示を出した。今回の砲撃で三〇発分のモノポール粒子を消費した。その分を補充するためである。

 教授は敵主力艦隊を確認した。

「撃破した敵艦隊の状況を知ったはずだけど、まだ動きはないわね」


 惑星ドレマークで探索活動をしている人員を船に戻す時間が必要なのかもしれない。教授はユピテル号をドレマークに向け急がせた。

 会敵の時間が遅れるほど、敵に準備する時間を与えることになる。とは言え、広大な宇宙空間では、会敵するまでに時間がかかる。

 敵主力艦隊が動き始めたのは、三時間後だった。


 ソウヤたちは交代で休憩を取りながら、戦いが始まる瞬間を待った。

 その時が近付いた時、敵艦隊の動きに気付く。戦艦から多用途戦闘機が発進したのだ。駆龍艇より大型である。全長は一五メートルほど、武装は九口径レーザーキャノン二基とミサイルのようだ。

 そんな多用途戦闘機が一二隻も宇宙空間に放たれた。

「まずいわ」

 教授が不安を口にした。


「何がまずいんや。あんなスペース機関砲やミサイルじゃユピテル号のバリアは破れんやろ」

「あのミサイルは核搭載よ」

 核ミサイルと聞いて、イチが顔をしかめた。

「一発でも命中したら、バリアが崩壊する」

 強力な放射線を浴びた積層装甲鈑は、バリア発生機能を失う恐れがあるのだ。


「ふふふ……おらたちの出番ずら」

 チェルバとミョルが立ち上がった。それを見たアリアーヌが疑問を投げた。

「何をする気なの?」

「砲撃艇アンバーで出撃するずら」


 モウやんが首を傾げた。

「アンバーの操縦システムは、大きすぎてチェルバたちには扱えないだろ」

「抜かりはないずら。トートにおらたち用の操縦システムを作ってもらうように頼んだずら」

 ソウヤが憮然とした顔をする。

「勝手にトートに頼むんやない」


 チェルバたちは、異層ストレージから砲撃艇アンバーを取り出すと、逃げるようにアンバーの下に向かった。

「僕も駆龍艇で出撃するかな」

 モウやんがチェルバたちに対抗して出撃することを口にした。

「やめなさい。駆龍艇は多用途戦闘機より戦闘力が劣っている。撃墜されてしまうわよ」

 モウやんは渋々諦めた。



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