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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
34/55

scene:34 スクリル星系の対艦戦闘

 ユピテル号が第六惑星の輪から離れた瞬間、近付いてきたバルゾックの小戦隊が進路を変えた。ユピテル号の追跡を開始したのだ。

「まずいよ、まずいよ。戦艦と駆逐艦が二隻もいる」

 モウやんがパニック寸前である。


「モウやん、うるさいぞ」

 イチが操縦しながら文句を言う。

「だって、あんなデカい戦艦が追ってくるんだぞ」

 バルゾックの戦艦は、全長三〇〇メートルほどある戦艦だった。主砲は四五口径荷電粒子砲九門で、副砲が三六口径レーザーキャノン一八門。

 第二階梯種族の戦艦にしては貧弱な部類になる。


 一方、ユピテル号は主砲がボソル荷電粒子砲三門なので、圧倒的に敵戦艦の方が上である。

 加速力場砲も装備しているが、これは基本的に近接攻撃用の武器。遠距離攻撃から始まる戦闘艦同士の戦いでは、止めの時くらいしか役に立たないことが多い。


 敵戦隊の駆逐艦が速度を上げ、ユピテル号をジリジリと追い上げる。さすがに第二階梯種族のエンジン出力はあなどれない。

 駆逐艦の方は、主砲が二五口径荷電粒子砲六門、副砲が一八口径レーザーキャノンのようだ。

 有効射程まで近付いた駆逐艦二隻が砲撃を開始。


 駆逐艦から放たれた荷電粒子が、ユピテル号のすぐ横を通り抜ける。

「撃ってきたよ。どうする?」

 モウやんの質問に、教授が目を吊り上げて答えた。

「反撃する。アリアーヌは後部の荷電粒子砲を使って」

「了解」


 教授はイチにも指示を出す。

「ランダムに舵を切って、ジグザグ航行よ」

「任して」

 イチはモニターを睨みながら、操縦装置を忙しく動かし始めた。


「照準よし、撃ちます」

 アリアーヌが荷電粒子砲を放った。ズンと衝撃吸収装置で吸収しきれなかった発射時の反動が船体を揺さぶる。

 発射した荷電粒子は、先頭で進んでくる駆逐艦の船腹を削って星の彼方に消えた。

「惜しいずら……おらたちも加勢するずら」

 チェルバが興奮したように大声を上げた。


 アリアーヌが使用している荷電粒子砲の他に、後方の攻撃に使える武器は、加速力場砲と一二口径レーザーキャノンだけである。

 チェルバは勝手に一二口径レーザーキャノンの照準装置を使い始めた。チェルバたちファレル星人は、戦いを引っ掻き回すのが好きなようだ。

 敵駆逐艦の砲撃が激しくなった。その一発がユピテル号の舷側を掠め、船体に衝撃を走らせる。


「ニョホー!」

 身体を固定していなかったチェルバとミョルが、衝撃で吹き飛んだ。

 だが、ソウヤたちは一片の心配もしない。ファレル星人という種族が非常識なほど頑丈だという事実を知っていたからだ。


「モウやん、被害状況は?」

 教授が鋭い口調で尋ねた。モウやんは慌てたようにチェックを開始する。

「バリアが破壊力のほとんどを吸収したようだよ。被害は軽微。航行・戦闘ともに支障なし」

「よし、アリアーヌはどんどん撃つのよ」

「分かってる」


 アリアーヌは、これまで五回の攻撃を行っていた。まだ距離があるので命中はない。最初の一撃だけは敵駆逐艦の船腹を掠めたようだが、大きなダメージは与えていない。

 六回目の発射ボタンが押された。荷電粒子の塊が敵駆逐艦の船首に命中。一瞬だけバリアが持ち堪えたが、次の瞬間には船首が爆発した。

 ユピテル号のボソル荷電粒子砲は、特殊モードで砲撃している。手加減する余裕などないのだ。


 その駆逐艦は、速度がガクッと落ちた。とはいえ、仕留めたわけではない。応急修理をした後、追跡を再開するだろう。

「お見事……やるやないか」

 ソウヤがアリアーヌを褒めた。

「気を抜かないで、もう一隻駆逐艦と戦艦がいるのよ」


 ソウヤは加速力場砲について考えていた。

「加速力場砲を利用できんのやろか」

 遠距離戦の場合、加速力場砲から発射される投射弾の速度は遅すぎて、避けられる可能性が高い。

 教授とソウヤはアイデアを出し合い、試しに加速力場砲を撃つことにした。


 ソウヤは加速力場砲の装甲カバーを外し、加速力場砲の砲塔を回転させた。砲口を後方に向けた加速力場砲の照準を敵駆逐艦に定める。

 先程までパニックを起こしそうだったモウやんは、駆逐艦一隻にダメージを与えたことで変に興奮していた。

「ソウヤ、しっかり狙えよ。絶対外すな」

「おう!」

 ソウヤは投射弾を装填し、タイミングを待つ。


 モウやんが何か思いついたような顔をする。

「ソウヤ、目で見るんじゃない。フォースだ。フォースを感じるんだ」

 ソウヤが照準装置から目を離し、非難するような視線をモウやんに向けた。

「ちょっと黙っといてくれるか。それにフォースって何なんや」

「ごめん。映画かなんかで、こういう場面を見た記憶があったんだ」

 どうやら、映画のセリフを真似しただけらしい。


 再び照準装置に集中したソウヤは、駆逐艦と戦艦が一直線に並ぶタイミングを捉え、発射ボタンを押した。

 加速力場砲により音速の数十倍にも加速された投射弾が、駆逐艦へと向かう。当然のごとく駆逐艦は、投射弾を探知し、避けようと軌道を変える。

 投射弾は駆逐艦の横を凄まじい速度で通り抜け、後方に位置していた戦艦へと向かう。


 戦艦の探知システムは、味方駆逐艦が邪魔になり投射弾の発見が遅れた。

 重量のある投射弾が、保持している運動エネルギーを戦艦のバリアに叩きつける。凄まじいエネルギーにバリアが悲鳴を上げ穴が開いた。

 戦艦の装甲が爆発した。頑丈な戦艦なので、大破とはならなかった。だが、主砲二門が破壊される。


 戦艦内部では、艦長のギヴォルが額を機械に打ちつけ血を流していた。

「何が起こった。報告しろ!」

 大声で命令した。

「敵の攻撃を受けました。駆逐艦ダボダの陰になり探知が遅れたようです」

「クソッ、被害状況の確認はまだなのか」


 艦長席の前にあるモニターに、いくつかの被害情報が表示される。

「エンジンの一つが不具合を起こしただと……一刻も早く修理するんだ」

 副官が衛生兵を連れて傍に来た。衛生兵に艦長の手当てを指示すると同時に、疑問を投げる。

「あの戦闘艦は、何者でしょう?」


 ギヴォル艦長は額に血管を浮かび上がらせ、怒気と共に口を開く。

「スクリル星系軍の生き残りという可能性がある。そうすると我々が探している縮退炉の隠し場所を知っているかもしれん。絶対に捕らえるのだ」

「ハッ、了解しました」

 副官は敬礼し、将校たちに艦長命令を伝える。


 戦艦までもダメージを受けたのを知った駆逐艦の艦長は、危機感を覚えた。

「不審船が回頭します」

 ユピテル号は船体を一八〇度回転させた。強力な軌道制御用スラスターを装備しているので、回頭の動きは素早かった。船の状態としては後ろ向きに飛んでいる格好になる。

「あいつら、船首の主砲を使う気です」

 将校の一人が叫ぶように言った。


 戦闘艦は船尾より船首に多くの武器を装備している。ユピテル号は戦艦にダメージを与えたことで、駆逐艦を仕留める気になったのだ。

「攻撃を船首の連装ボソル荷電粒子砲に切り替えて」

 教授の指示が飛ぶ。アリアーヌは照準装置の切り替えスイッチを押した。


 ソウヤは加速力場砲の砲塔を旋回させ、船首方向に向ける。

「ソウヤは、投射弾を戦艦に撃ち続けて」

「了解や」

 その直後、駆逐艦の一八口径レーザーキャノンの攻撃がユピテル号の船腹に命中。バリアが赤く輝いた。


「被害状況は?」

「大丈夫。異常なし」

 教授の問いに、モウやんが答えた。

「小刻みに軌道を変えるのを、忘れるんじゃないわよ」

 イチが軌道制御用スラスターの操作に集中する。


 アリアーヌが連装ボソル荷電粒子砲を撃ち始めた。一撃目、二撃目は命中せず宇宙の闇に消える。三撃目、ボソル粒子を含んだ荷電粒子が駆逐艦の左舷に命中。

 バリアが耐えきれずに崩壊し、船腹で爆発が起きた。一時的に制御を失った駆逐艦が漂流を始める。

「やったー!」


 教授の目がギラリと光る。

「ソウヤ、加速力場砲で駆逐艦を狙って」

「任してや」

 ソウヤは投射弾を駆逐艦へ叩き込んだ。

 ボソル荷電粒子砲なら、装甲にちょっとした穴が開く程度で済んだだろうが、加速力場砲の投射弾は威力が違った。


 命中した瞬間、装甲が吹き飛び内部の船室や倉庫、兵器類が切り刻まれバラバラとなり、爆発の衝撃で飛び散った。

 頑強なはずの戦闘艦を一撃で破壊する凄まじい威力だ。

「すげえ……加速力場砲」

 モウやんが加速力場砲の威力に驚いて声を上げた。


「わっ!」

 イチが何かに驚いて、ユピテル号の操縦桿を思い切り倒した。

 いつの間にか、最初にダメージを与えた駆逐艦が応急処置を終え、追跡を再開していたのだ。その駆逐艦からの攻撃をイチが気付き回避した。

 だが、イチの素早い回避も少しだけ遅かった。荷電粒子砲は辛うじて避けたが、レーザーキャノンの砲撃が船体に命中。もちろんバリアが受け止めたが、エネルギーの一部がバリアを抜け装甲を焼いた。


 モウやんはモニターでエネルギー消費量をチェックする。強力なレーザーが命中した影響で、バリアに流れるエネルギーの量が跳ね上がっていた。

「すまん、回避が遅れた」

 イチが謝った。だが、教授は静かに首を振る。

「いや、荷電粒子砲の攻撃だけでも回避したのは、お手柄よ」

 モウやんが被害状況をチェックする。

「装甲の一部が剥がれたようだよ」


「アリアーヌ、反撃するのよ」

 激しい砲撃の撃ち合いが始まった。ユピテル号と敵駆逐艦との距離が縮まっていたようで、攻撃を回避するイチの操船が激しいものになっている。

「ニョハー、命中ずら」

 チェルバの操作する一二口径レーザーキャノンが命中したらしい。だが、一二口径では威力が低すぎた。大したダメージを与えられなかったようだ。


 激しい撃ち合いの中、敵駆逐艦の荷電粒子砲がユピテル号の一二口径レーザーキャノンに命中した。レーザーキャノンの砲塔が吹き飛び、爆発が起きた。

 砲塔には装甲が使われていない。そのせいで弱点となっているのだが、構造上仕方のないことだ。

「モウやん、チェルバとミョルを連れて、消火と応急処理を」

 教授の指示に、モウやんが目を丸くする。

「りょ、了解。カワズロボを使っていい?」

「もちろんよ」


 モウやんたちがブリッジを出ていった。残ったソウヤたちは戦いを続ける。

 しばらく撃ち合った後、今度はユピテル号の荷電粒子砲が、敵駆逐艦の船尾を撃ち抜いた。敵駆逐艦は動力炉にダメージを受け、文字通り粉々となった。

「イチ、回頭して逃げるよ」

 教授の指示で、イチは回頭の操作を始める。


 敵の戦力は戦艦だけとなった。いくら優秀な屠龍戦闘艦でも、戦艦と真正面から撃ち合うのは危険すぎる。

 ユピテル号は跳躍リングを目指して逃走を開始。

「何とか逃げ切れそうやな」

 ソウヤがホッとしたように言った。


 追ってくる戦艦を、教授が憎しみの籠もった目で見ていた。その顔は女神のように美しかったが、日本刀の美のような剣呑なものを秘めていた。

「教授は、あの戦艦も破壊したかったんか?」

 そう問われた教授は、薄い笑いを浮かべ、

「そうね。バルゾックの奴らは一人残らず殺してやりたい……けれど、今でなくてもいいのよ。いつか、この星系に戻って、あいつらを追い出してやるわ」


 教授──オルタンシア・クシェペルカは氷のような目で戦艦を見詰めながら、美しい顔に夜叉のような表情を浮かべた。

「そん時は、俺たちも手伝ってやるぜ」

 ソウヤが言うと、消火と応急処理を終えて戻ってきたモウやんとイチも賛成した。


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