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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第2章 太陽系航路編
30/55

scene:30 天神族の遺物

 数時間後、荷物を全部運び終わった。幸いにも、異層ストレージについてはバレていない。トートが遠隔操作で異層ストレージを動かしたからだ。

 ナゼル星人たちは、教授とアリアーヌを連れてきた。

「お前らも来るんだ。造船ドックに行くぞ」

 ナゼル星人たちは、全員が造船ドックへ移動するようだ。教授たちもユピテル号に残して置くわけにもいかず、連れていくらしい。

「造船ドックだって?」

 モウやんが声をあげた。


「うるさい。口を閉じてろ!」

 脅かされたモウやんがビクッと反応する。

 トラックに乗せられ、ドームへ向かう。到着すると、トラックから降り建物の中へ連れていかれた。

 建物の入口から通路を通って広い場所に出た。巨大ドームの内側である。東京ドームが五、六個入りそうな広大なドーム空間の天井には、四つの光源があり内部を照らしていた。

 そこには全長が四〇〇メートル・幅と高さが一五〇メートルほどの巨大装置が置かれていた。


 ちなみにドーム内の空気は呼吸可能であり、呼吸マスクは必要なかった。

 ソウヤたちはドーム空間の片隅に連れて行かれ、小さな部屋に押し込められた。そこにはトイレと飲水があり、休憩所のような部屋として使われていた痕跡がある。

 その部屋の一部がガラス張りとなっていて、ドーム内部が見える。設置されている巨大装置にプレートがはめ込まれており、そこに刻まれた文字を読んで、教授が顔色を変えた。


「こ、これは、天神族の万能型製造システム……」

 教授が巨大装置の正体を知っていた。万能型製造システムとは、名前通りに様々なものを製作する装置である。材料と設計図さえあれば、ほとんどのものが製作可能という夢のようなものだった。

 但し、内部の製造空間を超える大きなのもの、必要な製造ノウハウが入力されていないものは製造不可能である。


「製造ノウハウというんは、なんや?」

 ソウヤは設計図と製造ノウハウの関係について、疑問に思った。

「設計図だけあっても製造ノウハウがなければ、物は作れないわ。簡単に例で言うと、物を作る各生産工程での加工方法や製造条件みたいなものね」

 教授の説明に腑に落ちない点を感じた。

「そんなもん、俺ら持ってないのに、いろいろ作れてるんは何でや?」

「製造ノウハウが必要な部品は、外で購入するか、サルベージしたものを使っていたからよ」


 そんなものなのだと、ソウヤは納得した。

「あいつら、何を作るつもりなんでしょうね?」

 イチがナゼル星人たちの行動を観察していた。

「こんなリスクを冒してまで製造するものよ。きっと強力な兵器とかじゃない」

 アリアーヌが推理する。それを聞いたソウヤが同意。

「ありそうやな」


 ナゼル星人たちが話している声が聞こえる。

「設計データの入力は、終わったのか?」

 リーダーらしいナゼル星人が、ミケイラ船長に確認した。

「完了しています、ラガマン様」

「いいだろう。スタートボタンを押せ」


 万能型製造システムが動き始める。

 材料となる金属や他の素材は投入済みのようだ。

 システムが動いている間、低い作動音が響いていた。ソウヤたちは閉じ込められた部屋から脱出できないか、いろいろ試した。だが、工具や武器なしでは無理なようだ。


 七時間ほど経過した後、作動音が止まった。一隻目のイルツ型砲撃艇が完成したのだ。

 万能型製造システムから引き出されたイルツ型砲撃艇は、全長五〇メートル・最大幅二〇メートルの小型戦闘艦だった。

 その最大の特徴は、船首に取り付けられているモノポール粒子砲。戦艦の主砲に匹敵する威力を持つらしい。

「うわーっ、カッコいい。あの船首の部分、丸ごと主砲になってるぞ」

 モウやんは砲撃艇のデザインが気に入ったようだ。

「これは凄いわ」

 イルツ型砲撃艇を見た教授は、目を輝かす。


「何が凄いんや?」

「完成した船は、第二階梯種族が設計したものよ。間違いないわ」

 教授は装備している武器から、第二階梯種族だと判断したらしい。

「へえー、そうなんや」

 ガヤガヤと話していると、ラガマンがソウヤたちに注意を向けた。


「何で、あいつらを生かしている?」

 ラガマンの詰問に、ミケイラ船長がニヤッとして口を開く。

「あいつらの船、いい船にゃんです。奪って持って帰れにゃいかと思いまして」

「制御脳の命令権を譲渡させるつもりか? ……ダメだ……人員が足りん。計画通り船のエンジンを爆破して、イルツ型砲撃艇を操縦して帰還するぞ」


 ソウヤたちは二日ほど部屋に閉じ込められた。食料として不味いチューブ入り保存食を支給され、うんざりする。

 五隻目のイルツ型砲撃艇が完成した後、ナゼル星人の動きが活発になった。引き上げる準備を始めたのだ。

 ミケイラ船長が部屋に顔を出した。

「俺たちはどうなるんや?」

 ソウヤの問いに、船長は冷酷そうに笑う。

「一生、ここで暮らすんだにゃ。といっても、長生きできそうににゃいがにゃ」


 ソウヤたちを置き去りにするつもりのようだ。殺されないと分かったので、一瞬ホッとする。

 だが、こんなところに閉じ込められたまま放置されれば、確実に死ぬ。

 ナゼル星人たちが去り、ソウヤたちだけになった。

「どうやって、脱出すればええんや」


『私ガ、手伝イマショウカ?』

 ソウヤの頭の中で、トートの声が響いた。

「えっ!」

「ソウヤ、どうした?」

 モウやんが不審げにソウヤの顔を見ている。


「トートが手伝うって、言うとるんや」

「何とかできるんですか?」

 アリアーヌを始めとする皆が、どうやって手伝うのだろうという顔をする。

 ソウヤが許可を与えた。トートは一体のブルーアイを呼び寄せた。ナゼル星人に隠れて追跡させたようだ。

 ブルーアイが部屋の外に現れた。


 ドアのロック機構を、ブルーアイが壊した。

「開いたぞ」

 モウやんが一番に外へ出た。

「船が心配よ。早くユピテル号に戻りましょう」

 アリアーヌが急かすように言った。


 ソウヤたちは走りだした。通路を抜け、トラックが駐車してある区画へと到着。皆でトラックに乗り込み、ユピテル号へと向かう。

 ドームの外は、人間なら飛ばされそうな強い風が吹き荒れていた。ソウヤが一番に連想したのは、地獄である。

 教授がトラックを出そうとした時、ユピテル号が着陸した辺りから凄まじい爆発光が発生した。その後、地響きを伴う轟音が響く。


「ぎゃああーーー、ユピテル号のエンジンが……」

 モウやんが悲鳴をあげる。

「修理したばかりなのに……」

「呪われとるんやないか」

 イチが嘆き、ソウヤが不吉なことを口にした。


「そうだ。チェルバたちは大丈夫なの?」

 アリアーヌの心配そうな声。

「急ぐわよ」

 教授がアクセルを踏んだ。


 近くで確認したユピテル号は、メインエンジン二基、サブエンジン二基がすべて破壊されていた。

 ソウヤたちはガックリと肩を落とす。

「このままじゃダメよ。エンジンを切り離すわよ」

 教授が的確に指示を出す。ソウヤたちはユピテル号の中に駆け込んだ。


 教授は手始めに停止していたカワズロボとバウを起動させる。目を覚ましたロボットたちは、誘爆の危険を避けるために、エンジンを切り離す作業を始めた。

 一方、ソウヤたちはチェルバたちを探した。倉庫・ブリッジ・連絡艇格納庫を探してもいない。最後に食料品倉庫を探した。

 食料品倉庫は二から三度の温度に保たれており、長時間入っていられる場所ではなかった。なので、最後にしたのだ。


「うわっ、大変だ。チェルバたちが倒れている」

 モウやんが慌てたように声を上げた。チェルバたちは白い毛に覆われ、短いズボンとベストを着ている。

 食料品倉庫の床には食べ散らかした食料のカスが散乱していた。

「死んでいるのですか?」

 アリアーヌが青い顔で尋ねた。

 教授がフンと鼻を鳴らす。

「こいつらは、寒くなると冬眠状態になる習性があるの。心配無用よ」


「何やて……こいつら冬眠してるんか?」

 じっくりと観察すると、ゆっくりではあるが呼吸している。

「脅かしやがって」

 モウやんはプンプンと怒りながら、チェルバを抱え医務室に運んだ。ソウヤはミョルを運んだ。


「あいつら、俺たちが大変な目に遭っている間、ズーッと寝てたんやな。起きたらお仕置きや」

 ソウヤも激怒げきおこである。

 ブリッジに戻ったソウヤたちは、今後のことを話し合う。

「動力炉や他の装置は、大丈夫やったん?」

 ソウヤの問いに、教授が頷く。

「あいつら、船内に入れなかったので、エンジンの外側に爆発物を仕掛けたようなの」

 船内に入るには、ソウヤたちの誰かが必要だった。全員をドームに監禁したので、ユピテル号の内部に入れなかったらしい。


「動力炉を爆破されていたら、万事休すだったわ」

 アリアーヌは眉間にシワを寄せていた。

「修理可能なのですか?」

 教授も頭を悩ませている。エンジンの状態から判断すると、修理は不可能。新しく作り直したほうが良さそうだ。


 バウからの報告で、エンジンの切り離しが終わったらしい。

「ねえ、トートがエンジンを設計して、万能型製造システムで造れないかな?」

 イチが提案した。武器を設計したことを思い出したのだ。

 教授は目を瞑って熟考する。エンジン開発の困難さを知っていたからだ。現物のエンジンが一つでも残っていれば、それを真似て製造することも可能なのだが。


「とりあえず、トートに相談したら」

 モウやんが久々に有益な意見を述べた。

「げっ、モウやんが……雨が降るんやないか」

 ソウヤが大げさに驚いた。

「ヒドイ、どうしてだよ。それに海さえない惑星で、雨が降るはずないだろ」


 モウやんをからかった後、ソウヤはトートに確認した。

 トートは会話可能なブルーアイを呼んだ。

「設計ハ可能デス。タダ三ヶ月ホドノ時間ガ、必要デス」

 ソウヤたちは、時間がかかりすぎると思った。


「もうちょっと早くならないの?」

 アリアーヌも三ヶ月は長いと思ったようだ。

「集団思考システムヲ使エバ、時間短縮ニナリマス」

 その装置はボソル感応力を利用した思考制御システムの一つで、数人の思考力を統合し様々な問題解決の手助けをする装置である。

 その装置を使うためには、ボソル感応力のある人間と脳に接続装置を埋め込む必要がある。接続装置はジーニアスシステムで代用可能なので、ソウヤたちには不要だそうだ。


「こんな地獄のようなところから、一刻でも早く出られるなら何でもするよ」

 モウやんもここが地獄のようだと感じたらしい。

 集団思考システムについては、幸運にも使える部品があるので簡単に作れると言う。トートがカワズロボを使って製作し、試すことになった。

 ボソル感応力のあるソウヤ・イチ・モウやんが、ラグビーの頭を守る防具のようなものを被る。


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