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天の川銀河の屠龍戦艦  作者: 月汰元
第1章 最悪のファーストコンタクト編
16/55

scene:16 コルネル星系と船の墓場

 海賊船から持ち帰った部品と、海賊を倒したことで得た報奨金でレ・ミナス号の修理を済ませたソウヤたちは、星系を離れるために再出発した。


 イチにとっては、初めての跳躍リングである。全員が緊張しピリピリした雰囲気の中で準備が進められた。

 跳躍リングと通信回線をつなぎ使用許可をもらう。使用料はアリアーヌの口座から支払い、船を加速。

 イチは進路を跳躍リングに設定し、航宙船用制御脳に操縦を任せた。精密な飛行は航宙船用制御脳に任せるのが普通なのだ。

 パーチ1の速度に達したレ・ミナス号は、一直線に跳躍リングへ向かう。

「遷時空跳躍マデ、5・4・3・2……ナウ」

 航宙船用制御脳がカウントする音声が響き、レ・ミナス号は遷時空スペースに遷移。久しぶりに遷時空スペースの嫌な感じを味わう。珍しくイチが弱音を口にした。

「嫌だな。頭の中に霧がかかったようだ」

 教授だけは平気な顔をしている。

「ルオンドライブを起動する」

 教授が声をかけルオンドライブの起動スイッチを押す。遷時空スペースに慣れていないソウヤたちに代わり教授が操縦を始めた。


 体感時間で二時間ほど遷時空スペースを進んだ後、通常空間に出る。そこはラモナル星系。そこから幾つかの星系を経てコルネル星系へ到着。


 コルネル星系へ到達するルートは幾つかあるが、使えるのは天神族が管理する星系から向かうルートだけである。第七次ボルゲル戦役を戦ったロドレス種族とケネロル種族が開拓したルートは閉鎖されているからだ。

 無人星系の跳躍リングからコルネル星系に現れたレ・ミナス号は、すぐさまグラトニー加速投射砲に天震力を流し始めた。

 レ・ミナス号の探査システムに、グラトニーワームの妨害波らしきものがヒットしたからだ。


 ソウヤたちは三次元レーダーに注目。グラトニーワームらしきものは、一旦近付こうとしたが、グラトニー加速投射砲に天震力を流し始めると離れて行く。

「大丈夫みたいやな」

 ソウヤが声を上げると他の皆が同意した。イチが操縦桿を握りながら呟く。

「何か心臓に悪い星系ですね」

 モウやんが大きく頷き。

「本当だよ。オシッコチビリそうになったよ」

 アリアーヌが顔をしかめ、モウやんを睨む。

「下品です」

 モウやんはアリアーヌの目付きが怖かったのか、すぐに謝る。


「それより難破船を探しなさい」

 教授に指示され探査システムを駆使し難破船を探す。星系全体を調べるには、半日ほどかかるようだ。

「よし、一隻目がヒットしたぞ」

 コルネル星系には三つの惑星が残っており、戦場となり破壊された惑星は第四惑星だった。

「第四惑星が存在した付近を漂っているようよ。調べてみましょう」

 イチが頷き進路を変え、教授に顔を向ける。

「漂流物が多いな。惑星の破片でしょうか?」

「そうね。気を付けて操縦して。星害龍が近くにいる時は、レーダーが使えなくなるから」


 レ・ミナス号は小惑星が密集しているポイントに到着し難破船を探す。

 難破船は二〇階建てのビルほどもある小惑星の陰に隠れていた。全長五〇メートルほどある小型貨物船である。船尾のエンジン付近が損壊しており、動力炉も停止しているようだ。

 教授とモウやんは宇宙服に着替えた。ソウヤは屠龍機動アーマーを装着。屠龍機動アーマーには一つオプション装備が増えている。粒子弾の発射装置であるパーティクル銃だ。

「ああ、やっぱり屠龍機動アーマーはいいよな」

 モウやんが羨ましそうに言う。天震力を操る技術はソウヤが一番なので、屠龍機動アーマーを使うのはソウヤが一番多い。

「屠龍機動アーマーは、思考制御に秀でた者が使うべきなのよ。モウやんは思考制御で動く屠龍機動アーマーより、機動剛兵が使う武装機動甲冑が合うかもしれないわね」

 教授が言うとモウやんは目を輝かせた。

「武装機動甲冑……なんかカッコ良さそう。今回のサルベージで儲かったら買ってよ」


 それを聞いたイチが呆れた。

「おいおい、玩具じゃないんだぞ」

「いいじゃないか。イチはレ・ミナス号があるし、ソウヤには屠龍機動アーマーがある。僕にも何か欲しいんだよ」

 ソウヤもちょっと呆れたが、モウやんが屠龍機動アーマーに向いていないのは本当だし、武装機動甲冑という奴があれば星害龍狩りに使えるかもしれない。

「今回のサルベージでぎょうさん儲かったら、ええんやないか」

 ソウヤがそう言うと教授も賛成する。


 教授・ソウヤ・モウやんの三人は難破船に向かう。

 難破船の破損部から船内に入ると中は荒れ果てていた。この貨物船には大きな倉庫が二つあり、一つは大穴が開いており、貨物は全て宇宙空間に吸い出されたようだ。

 もう一つの倉庫を調べてみると貨物が残っていた。ほとんどが食料と水だ。食料は保存食だが、怖くて食べる気はしない。水は使えそうなので持って帰ることにした。

 水と食料の他に、大きな箱二〇個をモウやんが見付けた。


「何だろう?」

 モウやんが箱の一つを開けた。中から出てきたのは、船の整備にも使える汎用ロボットだった。但し、カエル顔である。

「ケロール船長の故郷で使われている高性能アンドロイドだね。これだけでもひと財産になるわ」

 教授が嬉しそうに言う。船の整備にも使える万能型アンドロイドは、単機能型ロボットに比べ桁違いに高価なのだ。

「二〇体もあれば、ずいぶん楽になりそうやな」

 レ・ミナス号は老朽船なので点検整備に多くの労力が必要だ。それはソウヤたちの仕事となっていたので、ソウヤとモウやんも喜んだ。

 モウやんはカエル顔の汎用ロボットを早速『カワズロボ』と名付ける。教授は何で『カワズ』なのだと質問。ソウヤが説明すると、納得してくれたようだ。

 この難破船でサルベージできそうなものは他にないようなので、水とカワズロボ二〇体だけを持ち帰った。


 イチとアリアーヌはソウヤたちが持ち帰ったカワズロボを見て、一瞬顔をしかめる。

「何でしょうか。このロボットを見ていると無性に殴りたくなるのは?」

 アリアーヌが複雑な表情を浮かべて言う。他の皆が「うんうん」と同意する。

 カワズロボ二〇体は五チームに分け、一チーム四体でソウヤたちそれぞれに第一命令権があるように設定した。第一命令権は必ず一人と決まっているようなのだ。

 第二命令権はカワズロボに付属している命令カードを使って命令する者が持つ命令権である。命令カードは携帯のSIMカードみたいなもので、通信機能のある端末に挿して使う。

 命令カードはバウに渡し、カワズロボは船の点検整備と修理に使われることになった。


 小惑星の密集ポイントを離れたレ・ミナス号は、第三惑星に向けて飛び始める。

 探査システムが多くの船だと思われる反応が集まっているポイントを探知。それが第三惑星の方角なのだ。

「何で集まっているの?」

 アリアーヌが不思議に思って問う。その問いに答えようと教授やソウヤ、イチ、モウやんの四人が頭を悩ませたが、答えは出ない。

「行けば分かるよ」

 モウやんが気楽そうな顔で返事をした。それとは反対にソウヤは厳しい顔をしている。

「アカンなあ、なんや嫌な予感がしてきたで……」

 イチが顔を曇らせた。ソウヤの勘は当たるのだ。


 レ・ミナス号が問題のポイントに近付くと、メインモニターに前方の宙域に難破船が集まっているのが映し出される。

 全長一〇〇メートルから四〇〇メートルもある航宙船が集められ、何かの巣のようなものが出来上がっていた。

 それを見た教授が慌てだす。

「まずい、これは星害龍の巣よ」

「えっ! これがグラトニーワームの巣なの?」

 モウやんが声を上げた。アリアーヌが声を上ずらせて。

「馬鹿、グラトニーワームの巣じゃないから、教授が慌てているのよ」

「えっ! どういうこと?」

 モウやんは理解していないようだが、この巣の存在はグラトニーワーム以外の星害龍が近くにいると知らせてくれている。


 アリアーヌの顔に恐怖が浮かび上がった。

「逃げなきゃ!」

「イチ、回れ右や」

 イチが操縦桿を握った時、巣穴から巨大なタコの化け物が現れ、レ・ミナス号に向かってくる。

 その化け物は胴体だけで二五〇メートルはあり、一二本の足を含めると五〇〇メートルにもなる正真正銘の宇宙怪獣だった。

「まるでクラーケンやないか」

 その姿を見たソウヤが伝説の化け物を連想し名前を叫んだ。

 航宙船は簡単にUターンできない。方向転換に手間取っている間に、接近したクラーケンに捕まってしまう。

 イチはクラーケンの足から脱出しようと、メインエンジンを全力で稼働させる。だが、クラーケンの足はあっさりとメインエンジンを破壊。

 レ・ミナス号の後部から空気が漏れ始めると自動的に隔壁が閉まり、後部に開いた破損部は隔離された。


「ああ、買ったばっかりなのに」

 モウやんが嘆きの声を上げる。

 メインエンジンの損失を嘆いている場合ではない。クラーケンはレ・ミナス号を巣まで運ぶと巣の一部に組み込んでしまった。

 クラーケンは墨の代わりに強烈な粘着力がある粘液を口から吐き出し、巣の壁の一部として船首が破壊された工作艦と船腹に大穴が開いている輸送艦の間に貼り付けてしまったのだ。

 化け物に船を振り回された御蔭で、船の中のソウヤとモウやんは怪我をした。壁に叩きつけられ、様々な装置にぶつかったのだ。幸いにも重傷ではなく打ち身や掠り傷である。

「クソッ、どうなってんのや」

「イテテテ……背中打った」

 イチは操縦席でシートベルトをしていたので、怪我は無しである。

「ソウヤも、モウやんもちゃんとシートベルトをしてないからですよ」

 ソウヤとモウやんは後ろの席にいたので、立ち上がってメインモニターを見ていたのだ。


 教授はバウに命じてエンジンの損傷具合を調べさせた。その結果、メインエンジンは押し潰され修理不可能との報告をもらう。

 モウやんがガックリと肩を落とし、幽鬼のようになって床に座り込んだ。

「もうダメだ……」

「ええっ! もうお終いなのですか?」

 モウやんの悲嘆の様子に影響され、アリアーヌも顔色を変えた。


 教授が女神のような顔を歪め。

「済まない……あたしがコルネル星系へ行こうと言ったばかりに」

 ソウヤたちは一斉に視線を教授へ向けた。しょぼんとした教授の姿が目に入る。その姿を見ると、責める気にはならない。

「私も賛成したのですから、教授だけの責任ではないです」

「その通り。それにクラーケンみたいな化け物がいるとは、予想できなかったんですから」

 アリアーヌとイチが教授の肩を持つ。とは言え、絶望的な状況には変わりない。コクピット内に重苦しい静寂が広がった。

 ソウヤは無気力な目でモニターに映る外の様子を眺める。


 この後どうするかを考え始めたソウヤは、探査システムに集まっている周りの艦船の情報に目を留めた。巡洋艦が三隻、小型戦艦が一隻、大型工作艦が一隻、駆逐艦が四隻、各種小型輸送船が八隻で巣が出来ているようだ。

 これだけあれば、船を修理するだけの材料は集められるだろう。

 だが、問題は時間だとソウヤは考えた。レ・ミナス号に積んである食料は一ヶ月分、それだけの期間で修理が終わるだろうか。

「問題は食料かな」

 ソウヤが呟くとイチが首を振る。

「それだけじゃないよ。メインエンジンが修理できたとしても発進できるかどうかが問題だよ」

「えっ! どうしてだ?」

「あのクラーケンの粘液は、コンクリートみたいにガッチリと固まるようなんだ」

 イチは故障していない軌道制御用スラスターを吹かしてみたが、ビクリとも船は動かない。その事実を皆に伝えると教授も肩を落としてしまう。


「苦労して、ちゃんと動くようにしたのに……」

 モウやんが呟くように嘆く。ソウヤたちは動く気力もなくし、四時間ほどボーッとしていた。

 ソウヤはアリアーヌの目から大粒の涙が零れるのを見て、頑張らなければという気力が湧き起こる。

「まだ、諦めるんは早いで。あんだけぎょうさんの船があるんやから、脱出する手段があるかもしれんやろ」

 ソウヤは力強く希望を口にした。その言葉を聞いたイチも頷き。

「そうだね。もしかすると脱出艇みたいなものがあるかも知れない」

 床に座り込んでいたモウやんがガバッと立ち上がり、アリアーヌに尋ねた。船が破損した場合、乗員は脱出艇に乗り込み逃げる。脱出艇が残っている可能性は低かった。

「本当に脱出艇があるのかな?」

 アリアーヌは急いで涙を拭き。

「……探してみないと、分からない」

「じゃあ、すぐに探しに行こうよ」

 モウやんは今にも飛び出して行きそうな勢いだ。

「ダメや。クラーケンが巣を離れるのを待つんや」

 ソウヤはモニターに映る宇宙怪獣を見てモウやんを止めた。


 数時間後、通称をクラーケンに決定した星害龍が巣を離れた。ソウヤとモウやん、教授は難破船を調べに向かう。まずは隣の小型輸送船を調査。

 船腹にトラックでも入りそうな穴が開いた輸送船の内部は、浮遊物のほとんどが穴から飛び出したようで閑散としている。

 この輸送船はトカゲ人間のケネロル種族のもののようだ。三つの倉庫があり、第一倉庫と第二倉庫は穴が開き中の積み荷は宇宙空間へと流れ出ていた。もちろん全てという訳ではない。無事な固定棚に固定されている荷物は残っている。しかし、破損がひどいようなので、三人は第三倉庫へ向かう。

 狭い通路を通って最後の倉庫に辿り着いた三人は、手動で扉を開ける。中には大量の補給品が詰まっていた。一番多いのは食料であるが、ソウヤたちが食べられるかどうかは分からない。


 他は標準型の艦船修理用部品が多かった。標準型というのは、宙域同盟の全域で使える規格品である。航宙船の装置内部に使われている部品は、他の星に行っても修理できるようになるべく標準型が使われている。

 標準型であっても性能の善し悪しは存在するが、取り敢えず使える。

「ソウヤ、これを見てよ」

 モウやんが何か見付けてソウヤに呼びかけた。モウやんが発見したのは、小型一人乗りフライングバイクだ。バイクから車輪を取り外し推進装置を取り付けたようなデザインである。前輪部分に軌道制御用スラスター、後輪部分にテルジン推進装置が組み込まれている。


 テルジンとは高エネルギー凝縮ゲルのことであり、原子力には劣るがガソリンなどとは比べ物にならない熱量を持つ燃料源である。このテルジンは環境汚染もなく安全で高いエネルギー効率の技術が確立されているので、宙域同盟では一般的なエネルギー源として使用されている。

 このテルジンを製造するには天然のブラックホールが活用されており、第七次ボルゲル戦役の原因となったブラックホールの所有権争いもテルジンの製造に関係していた。


 フライングバイクの操縦方法は、小型飛行機の操縦方法と似ている。訓練すればすぐ乗れるようになるもので、免許はアリアーヌが持つ航宙船操縦士4級があれば大丈夫だ。

 フライングバイクを四台見付け出し、調査に活用しようとモウやんが言い出した。テルジンも積荷として大量にあったので、燃料の問題はない。教授とソウヤは賛成する。


 フライングバイクの活用で調査は進み、別の小型輸送船の中から小型脱出艇が見付かったが、速度が遅く跳躍リングを使えそうにない。

 ソウヤたちはガッカリしたが、調査を進め大型工作艦の中に解体途中の大型駆逐艦を発見する。

 地球の駆逐艦は『水雷艇駆逐艦』が始まりで、水雷艇を駆逐するための艦種だった。だが、宇宙の駆逐艦は『星害龍駆逐艦』が正式名称で、宇宙怪獣を駆逐するために開発された艦種である。


 大型工作艦の中にあった駆逐艦は全長一七〇メートルほど、楕円形の湯たんぽを横に伸ばしたようなデザインで、装甲や壁が残っているだけで中身の動力炉やエンジン、操縦システムなどは全て取り外されていた。

「無残なものね。装甲に穴が開いていないところを見ると、後部エンジンに被弾し、内部が破壊されたようね」

 教授の言葉に、モウやんが残念そうに駆逐艦を見る。一方、ソウヤは考えながら、殻だけとなった駆逐艦をジッと見ていた。

「ソウヤ、どうしたんだい?」

 その様子に不審を覚えた教授が尋ねた。

「この中身がない駆逐艦に、他の船のパーツを詰め込んでちゃんと動く航宙船を作れんやろか?」

「なんですって!」

 そのアイデアを聞いた教授が驚きの声を上げた。


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