世界最強になりたい男
「さて、これでしばらく冷蔵庫で生地を寝かすっと。」
結局いちいち作業が止まるのを見かねた直矢にほとんどやってもらう形になった。
なんだこのダメ女子軍団(俺含む)は……
直矢が出来過ぎるのもあるけどやっぱり俺たちが出来なさすぎる。
軽く落ち込んでいると部長さんが近づいてきて
「すごい手際ね君ー。男の子でも構わないから、是非うちの部に来てほしいわー。」
と。
「すいません、冷やかしのようで悪いんですが俺は付き合いで来ただけなので入部はしないです……」
「あら、そうなのー? こんなに手際いいのにもったいない……」
あらあらと手を顔に当てる部長さん。
あらあら系お姉さんですね。
「じゃあどの部に入る予定なの? うちの学校強いし体格もいいから柔道部とかかしらー?」
「いえ、生徒会に入る予定なので部活は入るつもりはないです。暇なときは練習参加したいなと思うので生徒会地やりながらでも籍置かせてもらえるなら入ろうかと思うんですけど。」
「うーん、どうかしらねー。若槻先生厳しいしやっぱり毎日練習に参加できないとなると中々難しいんじゃないかしらー……あ、でも先生に勝てたら入れるかもしれないわー。若槻先生って何かあるとすぐ俺から一本取れたらいいぞ、なんて言うから……」
「先生は強いんですか?」
「大会でもいいとこまで行くうちの部の練習を毎日部員と一緒にしているし、強いんじゃないかしら? 確か、同じクラスの子の話だと部のエースでさえ勝率50%もないとかって話だし……」
部長さんの話を聞きながら段々と目を輝かせて行く直矢。
「なるほど……」
聞き終えたと思ったらとてもワクワクした顔で発言。
「直矢の悪い癖が始まったなぁ……」
と澄也。
「そうなの?」
「欠点って言う欠点がない真人間の直矢だけど、これが始まった時だけは中々収まらなくてさ。所謂格闘技バカなんだよね、直矢。事情があってお爺さんに育てられたらしいんだけど……あー―――」
澄也はここで言葉を止めて小声で、
「細かいことは端折るけど僕ら天使だったりカミサマだったりするけど元は普通の人間だったんだよね。」
と言った。
「で、なんでもそのお爺さんがとんでもない武術の達人で道場を開いてたらしくて、直矢もそれを叩きこまれたんだって。お爺さんの実の孫でセンスが良かったり、元々体格がよかったのもあって、中学に上がるころには道場に通う大人にも勝つくらいになってたみたいで、身近にいる勝てない相手がお爺さんくらいだったらしくてさ。」
まったく、といった感じで手をひらひらさせながら澄也は言葉を続けて、
「マンガの主人公かよって思うんだけど、その頃から無意識に自分より強い人間を探し求めてたらしくてさ、強い人間のエピソードに目がないんだよね。本人は自覚して無いらしいんだけど一度聞いたら実際に戦うまでずっと落ち着かなくてさ。そのときも部活は柔道部だったんだけど、待てば大会で当たるのにわざわざ相手の学校まで行ったりしてさ。」
「昔の話だろそれは……」
直矢が頬をポリポリ掻きながら言う。
照れてる。
「でも実際今戦いたいと思ってるわけでしょ?」
「……まあな。」
「だろ? 折角だから僕は見に行くつもりだけど楓ちゃん達も行く?」
「まあ特に行きたいところも無いから行こうかな。」
柔道部には兄貴達がいるけど……まあ大丈夫かな。
「僕も直矢さんのカッコいいところ見たいです!」
「私も私もー!」
「さてと、そろそろいい頃合いだな。あとは生地をいい大きさに切ってオーブンで焼くだけだ。型は借りてきたからこれでくりぬいてくれ。」
と直矢がどこからかクッキーの型を取り出す。
「これなら私たちにもできるね!」
「これなら失敗しないですよ!」
とダメ女子軍団達が言う。
逆に言うとこれくらいしかできることがないってことだからなぁ……
「おら、澄也もやれ。これくらいならできるだろ。」
「えー、もう、しょうがないなー。これくらいは働くかー。どうせほとんど直矢の作った男度の高いクッキーだしねー。今さら僕が触ったところであまり変わらないかー。」
男度とは。
それと俺が参加してるのは男度に入らないのだろうか。
……入らないか、澄也のことだからな。
「さてと、くりぬき終えたら最後はオーブンだ。もうセットしてあるからあとは入れるだけだ。これは危険だから俺がやるぞ。」
と直矢。
いつの間にセットを……
というか過保護かよ。いや、ダメ女子軍団だからな……俺も直矢の立場だったら同じ風にするな。
「タイマーをセットして、と……後は待つだけだ。」
「美味しくできてるるといいですねー!」
「そうだな。味見はしてないが何もミスはしなかったし、それなりに美味いと思うぞ。ここから失敗するとしたらオーブンで焦がすくらいだがそんなヘマはしないしな。」
腕を組みながら言う直矢。
さまになっているがクッキー作ってる人というよりはラーメン屋の店長といった感じだ。
「早く焼けないかなー。ふふふーん。」
鼻唄を歌いながら待つエディ。
やはり可愛い。
「まだ時間がかかるぞ15分だからな。」
と直矢。
「暇だねー。」
と雛ちゃん。
「そういえば直矢、他の部は見ないの? 格闘技系の。」
「元々一番得意なのが柔道だからなー。まずは、といった感じだな。ボクシングも興味はある。空手とかの打撃系の武道とどう違うか知りたいし入らないにしろ一度見に行きたいところだな。後は剣道だが……剣道はあまり得意じゃないしなぁ、苦手だからこそ経験するってのもアリだが、何かあった時に手元に武器になるものが都合よく毎回あるとも限らんしなぁ……」
うーん、と腕組みして唸る直矢。
「え、ちょっと待って直矢って何かあった時に備えて鍛えてるの!? つまり自衛のため!?」
と澄也。
確かに自衛のためにしては少々鍛えすぎな感はあるなぁ。
「そうだ。基本的には自衛のためだぞ。まあ趣味でもあるが。」
「そんなに強くなくても自衛なら大丈夫でしょ……」
確かに。
「いや分からんぞ。いきなりジジイみたいな武術の達人に教われる可能性は0じゃない。極論、戦いが運によらず強さというステータスによって必ず決まるとしても、自衛を100%成功させるには世界で一番強くなきゃいけないわけだ。実際には運も武器などの条件も絡むし相手だって必ず一人なわけじゃないしこっちに守らなければいけない人間がいる可能性だってある。できることならその全ての場合で勝ちたいわけだ。」
「つまり世界最強になりたいわけ?」
「平たく言うとそうなるな。こうして口に出すと少し恥ずかしいがな。」
「固いなぁ、直矢は。今時スタンガンとか自衛用のグッズも多いし何も鍛えるだけが自衛の手段じゃないんだぜ? そもそもこの治安のいい日本で襲われる可能性自体かなり低いしさ。」
「万に一つってこともあるだろ。それに自衛用のグッズってのも、拳銃を持っていても襲われて助からないことだってあるわけだしな。一番信じられるのは自分の肉体だ。それに趣味で鍛えてるのもあるしな。確かに大抵の場合襲われても勝つ自信があるし、それでも満足していないだけであって、鍛えすぎというのは間違ってはいないとは思うな。」
「まあいざというときに頼りになる友達がいるのはいいことだしね。悪いとは言わないさ。さて、そろそろ焼けたんじゃない?」
「そうだな。取り出したら粗熱をとれば完成だ。さて、取り出すぞ。」
「わくわくしますね!」
遅くなりました、どうもイガイガ栗です!
今回も感想を力に勉強の合間を縫って書き終えることができました!
感想をくれた方々には感謝の気持ちでいっぱいです!
次の話の更新の予定は未定ですが感想を書いていただいたら早くなるのは間違いないのでよろしくお願いします!




