兄貴は馬鹿。
「さてと、全員揃ったな? よし、出発だ。」
しばらくしてクラスの全員が揃ったのを確認して史田が言う。
「まあさっきも割と静かだったから大丈夫だとは思うが案内中は静かになー。何度も言うが二、三年は授業中だからな。」
「はーい」と返事をしつつ直矢と一緒に並ぶ。
「あと、うちの学校結構広くて最初のうちは迷いやすいからしっかり案内を聞くように。各移動教室は後々でもいいとして、とりあえず体育館と視聴覚室くらいは自分で行けるようにしてくれ。あー、あと職員室だな。呼び出されたときに道に迷ったことを言い訳に遅れないようにな。」
「そんなに広いのか?」
と直矢。
「んー、分かんないけどなんか複雑な構造みたい。なんでも二回か三回くらい建て増ししてるらしくて。」
あとは姉貴の話じゃ冬士さんが私物化してる部屋がいくつかあってそのせいで更に分かりにくくなってるんだとか。
「なるほどな。気を付けろよ、エディ。お前よく道に迷うからな。」
エディの肩にポン、と手を置く直矢。
そういえば入学式の日迷ってたな。
「そ、そんなことないですよー!」
プーッとふくれるエディ。可愛い。
「こないだも迷ってなかったか?」
「あれは……ちょっとどっちに行ったらいいか分からなくなってただけです!」
「それを世間一般的には迷ってるって表現するんだがな。」
「うぅー……」
頭を抱えて唸るエディ。可愛い。
「気にすることはないよエディちゃん! 何故なら僕がエスコートするからさ!」
自分の胸をドン!と叩いて言う澄也。
「ホントですかー? やったー! うーん、でも澄也さんじゃちょっと頼りないかも……」
「そんな!?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「えー、ここが体育館に続く渡り廊下だ。この先は全員入学式で見たと思うので省略する。次は二、三年の教室棟だな。二、三年の教室はこの上だ。お前たちの教室の真上あたりだな。ここからは再三言うが静かにするように。お前達がうるさくすると折角の休憩時間が説教の時間に変わってしまう。俺の休憩時間を守るためにも静かにしてくれよ。」
話をしながら階段を登る史田。
二、三年……姉貴たちの教室か。
「この階が二年の教室だ。組の並びは概ねお前達一年と一緒だな。で、この先が―――」
ふと教室に目をやると見慣れた後頭部が机に突っ伏している。
……兄貴だ。隣には熊さんも。あ、熊さんと目が合った。
熊さんはノートを取る手を止めて控えめに手を振ってくる。その動きで目を覚ました兄貴と目が合う。
……めっちゃ手振ってきた。満面の笑みで。
「ねえ、あの人知り合い?」
隣で歩いている雛ちゃんが聞いてくる。
正直あんなにバカみたいにブンブン授業中に手を振ってくる奴を知り合いと認めたくない。
……無視無視。雛ちゃんにもとぼけとこ。
「……ううん。えっと、別の人に手を振ってるんじゃないかな?」
「そうなの?じゃあ誰の知り合いだろうね?」
周りを見回す雛ちゃん。直矢も他人のふりをしている。エディが手を振り返そうとして直矢に止められている。澄矢はそもそも見てない。
「……誰だろうね?」
これ以上兄貴と目を合わせたくないので直視しないように脇目で兄貴を見つつ答える。
……あ、兄貴の顔にチョークが飛んできた。見るとすごい形相の女の人が兄貴を睨んでいる。今にもかみつきそうな勢いで睨んでいる。めっちゃ怖い。
ていうか、今時本当にチョーク投げる人なんているんだ……まあ兄貴の行動は投げられても文句言えないけど。
とんでくるチョークにめげずまだ手を振ってくる兄貴。今度は飛んできたチョークを掴んで投げ返している。
「でも面白い人だね!」
「……そうだね。」
確かに他人なら面白いかもしれない。
身内だと話は違うけど……
痺れを切らした先生が兄貴に歩み寄り怒り始める。うわ、なんかすごいガミガミ言ってる。今度は俺のことを指さしてくる兄貴。我関せずといった様子で教科書を読む熊さん。遂に教室から出される兄貴。……ちょっと待って兄貴こっち来られると困る。早く移動してくれ史田。
「おっす楓! 何? 校内案内的な? 校舎、複雑だよなー、俺、今もたまに迷うし。あ、でも迷ったら兄ちゃんに連絡しろよ! 超特急で向かうから! 行き先が分からなかったら強に聞くし!」
ほら話しかけてきた。
あーもう無視無視。一回とぼけた手前今更反応できない。
「新条、お前な……少しは反省する素振りを見せとけよ……フリでいいからさ……ほら、神田先生めっちゃ睨んでるぞ……お前へのフラストレーションが俺に来るんだからよ……勘弁してくれ。」
史田が見かねて兄貴に言う。ナイスだ史田! 教師としてはあまり正しくない気もするけど!
「え? うお、マジじゃん! 神田っちめっちゃ睨んできてるじゃん超怖え! 教えてくれてサンキューな史田っち! じゃあな楓! 俺はこれからめっちゃ気合入れて気を付けをするから!」
手を振られて咄嗟に振り返してしまう。
やっちまった……
「新条……同じ苗字……この人楓ちゃんのお兄ちゃん?」
雛ちゃんに聞かれる。
鋭い……
「えっと……うん、実はそうなんだ……なんか恥ずかしくて誤魔化しちゃった……」
正直に白状する。
この馬鹿面で気を付けをしている男を兄と認めるのはとても恥ずかしい。誤魔化したくなる気持ちも分かって欲しい。
「え、そうだったの!? でもいいなー、お兄ちゃん! 私、一人っ子だから羨ましい!」
「ええ、そうかな……あんまりいいことないよ?」
特にこんなのだと。難ならあげるからもらってくれ。
遅れてしまってすいません! 先週は体調がすぐれなくて……今週はちょっとサボっちゃいました(苦笑)
これからもなるべく毎週土曜の夜11時に更新するつもりなのでよろしくお願いします!




