幸……?
「……?」
足音が聞こえる。スリッパで頑張って足音を消してるような感じ。
……ホラー映画見た後だから滅茶苦茶怖いんですけど……いや、別にそういうのじゃないとは思うけどさ、怖いじゃん。
ガチャッ
「っ!」
「お姉ちゃーん……」
幸が枕を抱えて部屋に入って来た。可愛い。……じゃなくて。足音の正体は幸だったのか。びっくりした……
「なんだ、幸か……どうした?」
「えーっと、そのー……」
「ん?」
「えっと……その、怖い夢見ちゃって……一緒に寝ても、いい?」
頬を赤く染めながら恥ずかしそうに言う幸。
……え、何この子可愛いんだけど。めっちゃ可愛いんだけど。ヤバいんだけど。シスコンになりそうなんだけど。
「い、いいぞ。」
「やった、ありがと! お姉ちゃん大好きっ!」
「ガハッ」
満面の笑みで抱きついてくる幸。超可愛い。もう俺シスコンでいいかもしんない。
「だ、大丈夫……?」
「大丈夫。」
「ならいいんだけど……」
言いながら布団に入る幸。
「あ、お布団暖かーい。」
「ずっと中にいたからなー。」
「なるほどねー。じゃ、おやすみー。」
「おやすみー。」
幸と背中を合わせるようにして寝る。暖かい。
「……お姉ちゃんは、その体になったこと、どう思ってるの?」
「んー……そうだなぁ……大変だけどまあ、この体も悪くは無いかな、とは思う。直矢達いれば、生きるのに苦労しないだろうしさ。」
「へぇー……じゃあさ、今、戻れるって言われたらどうする?」
「うーん……どうだろうなぁ……」
生きていくなら、恐らく直矢達がいる方が相当楽だし……直矢達いると、賑やかで楽しいし……あれ? 戻る利点が見つからない……
「うーん……うん、このままでもいいかもしれない。」
「お、以外ー。てっきり、すごい元に戻りたいのかと思ってた。」
「いや、だってさー、別に元に戻ったから何?って話だよ。どうせ仲いい友達にはもう事実を話してるから、隠し事する必要も無いワケだしさ、元の体にそこまで執着もないし、第一、元に戻ったら直矢達も帰っちゃうんだぞ? そこまでして戻る利点もないだろ。」
「えー、でも……その、恋愛とか、そういうのは……?」
「あ……」
確かに、この体だと恋愛するには男とするしかないワケだ。無理だ。
あ、でも、百合なら…………あ、無理だわ。滅茶苦茶濃い百合が近くにいた。あんなの無理。
「あ、でも……幸はお姉ちゃん……いや、お兄ちゃんのこと、好きだよ……?」
「……え?」
「だから、その、さー……幸はー、お姉ちゃんのことを、お兄ちゃんとして、好き、って言ってるの! だから……戻ってくれたら嬉しいな、って思ってたんだけど……」
ちょ、待て、今なんて言った?
「……俺のこと好きって……言った?」
「……うん。」
待てよ!? ちょっと待てよ!? なんだ!? 今まではライクだと思ってたけど、実は……いや、無いよな!? うちの幸に限ってそれは無いよな!?
「それは……その、どういう意味での……?」
「えっと……その……ら、ラブ、かな……?」
マジでか……何でだ……?
と、考えていたところで、
「こ、これはっ……これは大スクープよ! ああ、姉妹同士の近親相姦……いいわね……最高よ……張り込んだ甲斐があったわ……」
扉の向こうから姉貴の声が。張り込だ……?
「い、今のもしかして、聞かれてたのかな……?」
顔を真っ赤にして言う幸。
「……幸、待ってろ。」
今こそあの飴を使う時だろう……手の中に飛び込んできた飴を口に入れ、
「姉貴ィィーー!」
「かっ、楓!?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「……で? なんで俺の部屋の前で張り込んでたの?」
飴の効果は凄まじかった。一瞬で姉貴に追いつき、捕まえて、後ろから手を回して首を絞めている。体的には女同士なんだ、首絞めても構わないはず。
「ちょっ、楓、こんな力強かった……?」
「色々あってさ。……で? なんで張り込んでたの?」
「ああ、楓の胸がいい感じに当たってるわ……」
この状況でこんなことを言い出す姉貴。なんだこいつ……
「……今、俺の力相当だと思うんだけど……」
「我々の業界ではご褒美です!」
もう駄目だこの人……
「……」
さっきまでは声が出せるように結構緩めてたけど、全力で締めにかかる。
「……!!!」
流石の姉貴も直矢並みの力で全力で締められたら苦しがるらしい。このままだとホントに死んじゃうので力を緩めると、
「か、楓、流石のお姉ちゃんもこれは死んじゃうわ……」
「逆に全力で締めなきゃ死なないことに疑問を感じる。」
直矢の力だぞ……?
「それは……愛があるからよ!」
「……で、なんでこんな時間に俺の部屋の前で張り込んでたワケ?」
「……私としたことが、興奮しすぎて張り込んだとまで言ってしまったわ……ましてや盗撮していたなんて知られたら……」
「……」
締める。
「……!!!」
あれ、力が入らなく……
「……? 急に力が抜けたわね……というか、ホントに死んじゃうところだったわよ……」
どうやら効果時間が過ぎたようだ。
「死ねばよかったのに。」
「酷い!?」
「てか、姉貴、重い……」
俺のほうが背が低いから、姉貴の首に手を回すと、どうしても姉貴が俺に被さる形になる。さっきまでは超人的な力のおかげで全然大丈夫だったけど、今は元の力だから、支えるのが辛い……あ、駄目だ、倒れる。
「ひゃっ」
姉貴もろとも倒れる。
「これは……襲えってことかしら?」
真面目な顔で言う姉貴。
「違うよ!?」
やめてくれ!
「大丈夫、冗談よ。まあ、いいなら襲っちゃうけど。」
「絶対やめてくれ!」
「大丈夫よ、楓に嫌われたくはないもの。気付かれない範囲でするわ。」
「気付かれない範囲!?」
「大丈夫よ、安心して寝なさい。」
「お、おう……」
全然安心できねえ……
次は10日で~す。




