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World×World  作者: シクル
The end of journey

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World15-4「繋いできたもの」

 永久と刹那が激選を繰り広げる中、英輔達は延々と現れ続ける蝿怪人達を相手にし続けていた。英輔達の元へはチリー、家綱、篝、ダンも合流しており、蝿怪人達と入り乱れながら乱戦へ身を投じていた。

「ッオラァ!」

 乱暴な掛け声と共に、チリーの大剣が蝿怪人を薙ぎ払う。その後ろでは、月乃が舞うようにして刀で怪人を次々と斬り伏せていた。

「少し……親近感がありますね」

 不意にチリーに対して声をかけてきた月乃に、チリーは怪人達と戦い続けながらも怪訝そうな表情を見せる。

「あ? 何でだよ」

「……白い髪、私以外で見ることなんて滅多にありませんから」

 少し嬉しそうにそう言った月乃に、チリーは一瞬目を丸くしたがすぐに口元だけで笑みを浮かべる。チリーはあまり気にしたことはなかったが、年齢にそぐわない白髪は確かに珍しい。チリーも月乃も、由愛を除けば自分以外の白髪など見たことがないのだ。

 そう言われると、何だか奇妙な縁があるように思えてくる。本来なら出会うハズのない二人なため、今こうして隣り合って戦っていることは奇跡に等しい。

 坂崎永久が、繋いだ縁である。

「それもそうだな」

 チリーがニッと笑みを浮かべたのを確認して、月乃も釣られて笑みを浮かべる。戦局自体は数で押され気味ではあったものの、妙な安心感がある。今ここに集まっている人々が……永久の繋いできた絆が、負けるハズがないという根拠のない確信が全員の中にあった。

「お、おい! なんかデカいのが来やがったぞ!」

 不意に美奈が声を上げ、上空を指差す。そこにいたのは、先程チリーが撃破した巨大な蝿だった。しかし今度は一体ではない、何体もの巨大な蝿が上空からこちらへ襲いかかってきているのだ。

「あ、あんなにいっぱい……!」

「……ここは私が」

 怯えて後ずさる篝の隣に素早く現れたのはアルビーだ。彼は地面へと手を当てると、土の魔術によって地面を変質させていく。凄まじい速度で地面が盛り上がっていき、いつの間にかそこには土型の巨人が形成されていた。

 巨人の名はゴーレム。アルビーが土の魔術によって形成する強力な下僕である。

「行くぞ、ゴーレム!」

 肩に乗っているアルビーの掛け声と共に、ゴーレムの豪腕が蝿へと振るわれる。しかしゴーレム一体では対処し切れないのか、何体もの巨大蝿に苦戦している様子だった。

「母さん、アレを」

 不意に、英輔は鏡子の元まで駆け寄って手を伸ばす。鏡子は一瞬困惑するような様子を見せたが、やがて英輔の意図を理解して首を左右に振った。

「ダメよ! あんな危険な力……!」

「頼むよ、もう無茶はしねえからさ……」

 それでも鏡子は迷っていたが、やがて黙ったまま黄金色の宝玉を取り出して英輔へ手渡す。それは龍衣ドラゴニックの宝玉だ。宝玉は境界の龍が生成したもので、万が一の時のことを考えて出発前に龍から受け取っていたのだ。

 かつて龍衣を使った時の英輔のことを考えれば、使わせたくないというのが鏡子の本音だ。今だって万全の状態とは言えないだろうし、龍衣の大き過ぎる力は使えば使う程後遺症が残る。最悪の場合、もう二度と魔術が使えなくなったっておかしくはない。

「こいつで誰かを助けられるなら、俺は何度だってやってやるッ!」

 グッと握りしめた宝玉が、英輔の手の中で輝き始める。黄金色の輝きが英輔を包み込み、龍王の鎧がその身を包む。

「全身全霊全力全開ッ……! 力貸せよ、龍衣ドラゴニックッ!」

 そしてその隣では、再び蝿へ一撃ぶち込まんとしてチリーが大剣を構えていた。

「来るか? テメエも……!」

 両雄並び立つ。チリーの言葉に、英輔は笑みだけで返して見せる。

「「行ッくぜェェェェェェェェッッッ!!」」

 その瞬間、二つの閃光が蝿を貫く。龍衣によって極限まで増幅された英輔の魔力と、大剣から噴出されるチリーの神力が、閃光となって蝿を撃破したのだ。

「やれやれ、俺達もぼさっとしてらんねえな」

「……だな」

 英輔とチリーの様子をチラリと見ながら、家綱とダンはその拳に力を込める。彼らのような派手な力はなくとも、自分に出来る最大限を続けるだけだ。それは他の人間も同じで、巨大蝿に対処出来ない者達は必死で地上の怪人達と戦い続けていた。

「相変わらず無茶する奴だな、アイツは」

 龍衣の力で蝿と戦う英輔を見て苦笑しつつ、霧島雅は風の魔術で飛び上がる。アルビーや英輔のようにはいかないまでも、空中で戦える以上は蝿との戦闘も不可能ではない。

 そして雅の後方では、アクネスが水の魔術でアルビーのものと似た巨大なゴーレムを形成し始めていた。

「アルビーの見よう見真似……! さあ行きなさいな私のゴーレム!」

 地上からゴーレムへ指示を出すアクネスだったが、魔力が不足しているのかゴーレムはうまく動かない。そんなゴーレムの様子にやきもきするアクネスの隣に、そっと鏡子は駆け寄ると、静かにゴーレムへ触れる。すると、ゴーレムの身体へ鏡子の魔力が流れていき、雷の魔力でゴーレムの身体が補強されていく。

「これで私“達”の、ね」

「お義母かあ様……!」

 鏡子の魔力によって補強されたゴーレムは、凄まじい勢いを持って蝿を殴り倒して行く。数では蝿や怪人達が勝ってはいるもののこちらは少数精鋭。いつの間にか戦局はかなり有利になっていた。

「す、すごい……!」

 美奈子は、そんな様子に驚嘆の声をこぼす。種族も、性格も性別も年齢も、住む世界すら異なる者達が一丸となって一つのことへ立ち向かっている。本来交わることのない、今出会ったばかりの者達がまるで古くからの仲間であるかのように連携して戦っている。

 こんな光景を、美奈子は想像しようとしたことさえない。

「これが坂崎永久の繋いできた絆……その力!」

 この光景を作り上げたのは、他でもない坂崎永久だ。きっと彼女はこうなることなんて想定していなかっただろうし、こうするつもりで今まで旅をしてきたわけではないだろう。

 しかし永久はこうして繋げた。本来ならあり得ない絆を、旅の中で。この奇跡に立ち会えたことを、きっと美奈子は一生忘れない。

「もしかすると世界は……私が思っているよりも少しだけ、優しいのかも知れませんね」

 そう独りごちて、美奈子は再び怪人達との戦いに意識を集中させた。









 永久と刹那は、互いの武器をチャージしながら再び剣戟を繰り返していた。レバー操作がある分やや永久の方が遅れ気味ではあるが、ほとんど同じ速度でチャージは進んでいる。

「希望? 未来? 子供かってのよ!」

 真っ直ぐに突き出された刹那の世界破七刀を、永久は無限破七刀を盾のようにして受け止める。

「全部無駄で……無意味なのよ。私も、あなたも……! 何度言えばわかるの!?」

「刹那は……ううん、レイナはそう思いたかっただけだよ! 辛いから、悲しいから、なんにも意味がないって、そう思ってしまいたかった……それだけだよ!」

 そう思わなければ立てなかった、もう歩けなかった。意味を求めるから辛いのなら、何も意味がないと諦めてしまえば楽になる。どうしてこうなるのか、どうしてこんな目に遭うのか、思考を手放して理由を求めるのをやめてしまいたかった。

 けれどそれはどこまでも逃避でしかない。現実から目を背けてしまっているに過ぎない。それが悪いことであるとまでは言わずとも、だからと言って何もかも壊してしまえば良いなんてのは、きっと間違っている。

「辛いことにばかり目を向けないで……ある、きっとあるよ、もっと楽しいこと!」

 永久は一気に無限破七刀を振り、刹那の世界破七刀を弾く。しかしその程度で怯むような刹那ではない。高く飛び上がり、食い下がるようにして永久へと世界破七刀を振り下ろす。何とかその一撃を受けながらも、永久は世界破七刀を凝視する。

 永久の無限破七刀のチャージはまだ四段階までしか終わっていないが、刹那の世界破七刀は既に五段階目までチャージが完了しているのだ。

 刹那の感情の昂ぶりに呼応したのか、それとも単に世界破七刀の方が早いのか。どちらにせよ、一段階分のチャージの差は永久の焦燥感を募らせる。

 この戦い、先にフルチャージされた一撃を叩き込んだ方の勝ちだ。世界破七刀が無限破七刀と同等の破壊力を持つのなら、チャージ速度の差はかなりの痛手である。

「じゃあ何か意味があるっていうの!? 私がいる意味、アンリミテッドである意味が! こんな化物の力で、疎まれて、それで何を楽しめっつーのよっ!」

『Charge five.』

 刹那の言葉に応えることよりも、永久はチャージを優先してレバーを操作する。しかし電子音声が鳴り響いた時、刹那はニヤリと笑みを浮かべていた。

「えっ……!?」

 世界破七刀が、漆黒のオーラを纏い始める。次第にオーラが増幅されていくのを見て、永久は刹那が今世界破七刀を解放しようとしていることに気がついた。

「しまっ――――」

「消し飛べ……永久ァァァァァァッ!」

 永久は、最大限までチャージすることに固執していたのかも知れない。だからこそ刹那も最大限までチャージして来るであろうとと思い込んでしまっていたのだ。その見通しの甘さに、もっと早く気がつくべきだった。

世界破ワールド……七刀ブレイカァッ!」

 五段階目までチャージされた世界破七刀の力が一気に解放される。至近距離で撃たれた世界破七刀の黒き一撃は、永久の全身を包み込んで行く。

「永久ぁぁぁっ!」

 由愛の悲鳴が聞こえると同時に、永久はその場で意識を手放した。


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