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World×World  作者: シクル
少女が見た夢

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World14-4「私が誰だか知らないのね」

 プルケーの屋敷を発見するまで、それ程時間はかからなかった。ダンの言う通りプルケーの屋敷は町の近郊にあった上、それなりに大きくて立派な建物だったせいで少しだけ周りの建物より浮いているようにさえ思える。当然周囲は警護されており、簡単に入れるようには見えない。

 屋敷から少し離れた木陰で、六人は如何にして屋敷に潜入するかを話し合っていた。

「なるべく事を荒立てたくはないですからね。出来ればひっそりと侵入したいものですが……」

「裏庭から……とかだと、逆にそっちの方がしっかり警備してそう?」

「そうですね……。ただ、ハッキリ言って私達ならそれ程手こずることなく突破出来るとは思うのですが」

 そうして由愛と美奈子が話していると、突如鏡子が何かに気づいたかのように表情を変える。訝しげにそれを由愛と美奈子が見ていると、英輔もまた同じような表情で「げ」などと短く声を上げていた。

「どうしたの?」

「……永久がいないわ」

 鏡子が呟くような声音でそう答えると、スッとダンが屋敷の方を指差す。

「奴ならもう行ったぞ」

「えぇ!?」

 見れば既に永久はセーラー服の襟と黒髪をはためかせながら、真っ直ぐに屋敷の入り口目掛けて走り出していた。当然警備の男達は永久に気づいており、視線はこちらへ集中していた。

「いや嘘だろアイツ! 何も考えてねえぞ!」

 そうこうしている内に永久は門まで辿り着き、襲いかかる警備の男達を素手で叩きのめしていく。

「あー……」

 よく考えて見れば今の永久はかつて旅していた頃に比べると遥かに強くなっている。最初期に至ってはほんの欠片程度しかなかったコアも全体の半分近くまで修復しており、それに加えてポーンやナイトのコアを取り込んでいる。そのため、永久自身のスペックは以前と比べて格段に上昇しているのだ。そのため、ただの一般人がどれだけ束になろうと永久を止めることなど出来はしないだろう。

 永久が門の警備員を全員ノックダウンしたのを確認すると、五人はすぐに永久の元へ向かう。由愛や英輔はどこか唖然としていたし、鏡子は微笑するだけだったが、美奈子は肩を怒らせて永久の眼前まで早歩きで歩み寄った。

「何を考えているのですか坂崎永久! 敵の数が未知数な状態で正面突破などと無謀な……!」

「あ、ごめん……。でもほら、いけそうだったし……」

「それはあなただから言えるのです! もう少し慎重に――――」

「私……」

 美奈子の言葉を遮るように永久がそう言うと、美奈子は言葉を止めて耳を傾ける。

「もう、少しも立ち止まりたくない。この間まで止まってた分、残りの道は真っ直ぐ、止まらないで進みたいんだ」

 美奈子を真っ直ぐに見据えて永久がそう言うと、美奈子はしばらく黙ったまま永久を見つめていた。しかし数秒後にうっすらと笑みを浮かべると、わかりました、と一息吐いて見せる。

「なら進みましょう。まっすぐ、正面突破で」

「……うん!」

 力強く答えた永久につられるようにして、一同は力強く頷く。そんな中、ダンだけはどこか思い詰めたような様子で永久を見つめていた。





 門から屋敷の敷地内に入ると、屋敷の中から何人もの男達が永久達を止めるために庭まで駆けつけて来る。なるべく傷つけないようにノックダウンしつつ、永久達が屋敷の中へ入ると、ホールでは兵隊と思しき男達が待ち構えていた。

「そこまでだ」

 今までの警備員らしき男達とは違い、ある程度訓練された兵士達のようで、どの兵士もサーベルを帯刀した上でこちらに銃を向けていた。

 流石に複数の銃口に囲まれると永久も足を止めざるを得ない。永久からすれば突破する方法はいくらでもあるが、全員でとなると話は別だ。

「テメエら……!」

 ずい、と前に出ると英輔は強く拳を握りしめる。魔術を使うつもりのようで、英輔の周囲には電流が迸り始めていた。

「全員まとめてッ……!」

 しかし魔力を使おうとした瞬間、英輔は言葉を途中で止めると不意に苦しそうに呻き始めたのだ。何事かと駆け寄ると永久と由愛をよそに、鏡子と美奈子は少しだけ落ち着いた様子で英輔を見つめていた。

「……龍衣の影響ね。英輔、あなたはまだ魔力を使えるような状態じゃないわ、下がってなさい」

「けどよ……!」

「これ以上抵抗するようなら容赦なく射殺する!」

 英輔と鏡子が話している間にしびれを切らしたのか、兵士の中でもリーダー格と思しき男が銃を構え直す。ダンは小さく舌打ちをしていたが、鏡子はそんな兵士を軽く鼻で笑った。

「どうぞ?」

「ちょ、ちょっと鏡子!」

 慌てる由愛だったが、当の鏡子はあっけらかんとしている。鏡子のその態度に苛立ったのか、リーダー格の兵士はすぐさま発砲の指示を出す。

「撃てェッ!」

 銃声が鳴り響いた瞬間、鏡子が早歩きで全員の前に立つ。

「当然だけど、私が誰だか知らないのね」

 次の瞬間、鏡子の身体を貫くハズだった弾丸達は鏡子に直撃する数センチ前で電流の弾ける音と共に弾かれてしまう。その光景に、唖然としていたのは兵士達だけではない。由愛やダン、果てには英輔や永久までもがポカンと口を開けて鏡子を見つめていた。

「……流石です、桧山鏡子」

 少しおどけた様子で美奈子が後ろで手を叩くと、鏡子はチラリと振り返って笑みをこぼす。

「き、鏡子さんって戦えるんだ……」

「あら失礼ね。知らないとは思うけど、桧山家は魔術の名門……。私は本来、あの家の当主になる予定だったのよ?」

 そう、鏡子は今まで境界から出られなかったせいでプチ鏡子としてサポートに回らざるを得なかったが、本来鏡子は優秀な魔術師だ。膨大な魔力を操る英輔の母親である鏡子が、魔術による戦闘を行えないとは考えにくい。確かに鏡子の戦闘経験は英輔に比べると少ない方(これは単純に英輔の今までの戦闘回数が多いだけだが)ではあるが、桧山家の次期当主として教育されている鏡子にとってこの程度のことは大したことではない。

「永久、彼と一緒に行きなさい。流石にここからなら、例の欠片を持った改造兵士の位置はわかるでしょう?」

「……うん、行こう、ダン!」

 永久の言葉にダンが頷くと、永久はすぐにダンを共に兵士の方へ突っ込んでいく。

「逃がすな!」

 慌てて銃を向ける兵士達だったが、永久はダンを抱きかかえるとビキニアーマー姿に切り替わり、目にも留まらぬ速さで兵士達の間を駆け抜けて進んでいく。

「チッ……!」

「あなた達も訓練された兵士なら、あまり目の前の敵から目を背けないことよ」

 鏡子が冷たく言い放った瞬間、兵士達の中から悲鳴が上がる。

「な、なんだァッ……!?」

 見れば、そこにいたのは一匹の大蛇だった。それもただの大蛇ではない、鏡子の雷の魔力によって形成された大蛇である。

「噛まれると高圧電流で死んじゃうかも」

 鏡子がそう言った瞬間、その場にいた兵士達が慌てて逃げ惑い始める。そんな様子を見ながらクスクスと笑みをこぼす鏡子を見つめ、英輔はゾッと背筋に寒気が走るのを感じた。

「こ、こええ……」

「さ、これで発砲される心配もないわ。ちゃっちゃと片付けましょう」





 欠片を持っている改造兵士……マシモフ・アシモフの気配を追って永久は屋敷の奥へと進んでいく。欠片の気配に集中すると、どうやらマシモフは地下にいるようだった。

 ダンは永久と共にまだ奥に残っていた兵士達を撃退した後、倒れた兵の内一人に馬乗りになると胸ぐらを掴んでギロリと睨みつける。

「言え、この屋敷の地下へ行く通路はどこだ」

 ダンが高圧的に問うと、兵士はしばらく首を左右に振り続けていたが、ダンの刺すような視線に怯えてプルプルと震え始める。

「死に場所は選びたいだろう」

 その言葉が止めとなったのか、兵士は震える指でドアを指差す。

「あ、あそこにプルケー様の書斎がある……」

「そこか」

 兵士が頷いたのを確認すると、ダンは容赦なく兵士を殴りつけて気絶させた後、すぐに永久と共にプルケーの書斎へ向かった。



 地下への入り口は隠されてこそいたものの、しばらく探していればすぐに見つかった。地下へのドアを開き、永久が地下へ降りようとしていると、ポツリとダンがありがとうと呟いた。

「え?」

「……ここまで連れて来てくれたことを感謝する。恥ずかしながら、俺はお前に手を引かれなければここに来られなかった」

「気にしないで。言ったでしょ、私も途中だって」

「そうか……」

 短く答え、ダンは微笑する。

「見つかるか、お前の未来は」

「うん、見つけるよ。どれだけかかったって」

 力強く永久がそう答えたのを聞くと、ダンは満足気に頷いてから永久と共に地下へ向かった。


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