隣席の富士山
富士山がうつる湖のそばのおじいちゃん家まで、二時間。
はじめて一人で行く、僕の夏休みの冒険。
だけど、お母さんに見送られて電車に乗ったときから、心配でしょうがない。
まちがえないでとちゃんと降りられるかな。
寝ちゃったりしないかな。
富士山が見えてきたら、半分過ぎたしるし。
いつもは心待ちにしてる富士山なのに。そんな気になれなくて、緊張してその姿を探す。
「よっこらしょ」
と、誰かが隣にどっかり座った。
目が合った。
富士山だった。
「君、一人旅? ボクもさ」
話しかけられた。
「ボクもみんなみたいに旅がしてみたくってさ。もう楽しみで楽しみで」
うれしそうにしゃべる富士山の後ろの窓から、富士山が見えてきた。
富士山が二つ……!?
と見比べる僕に、
「ああ、あれはボクのそっくりさん、逆さ富士だよ。ボクの代わりに座ってくれてる。逆立ちしてて疲れるからって、逆さ富士たちが交代してるんだけどね」
じゃあ、あそこに見えてるのは、もしかしたらおじいちゃんちの……?
早く確かめてみたい!
気がつけば僕の心は、もう、わくわくが止まらなくなっていた。
(了)
今回は、童話風。
そして久しぶりに企画推奨の400字代で書けました(#^^#)













