踊る阿呆たち
歴史はどう動くのでしょうか?
そんな硬い話は、とりあえず置いておきましょう。
お楽しみください。
永禄9年(1566年) 春
三好側は、すでに手駒(三好義継)を手に入れていた。
それに加えて、三好氏の本拠地である『阿波』の篠原長房の全面協力を得ているらしい。
三人衆は、義継の身柄を河内高屋城に移し、色々と画策しているようだ。
「ふん、馬鹿な奴らめ」
俺は三好三人衆とその一党に悪態をついた。
浅井としても性急な軍事行動は控えているが、ここは一つの正念場である。
俺が地道に築きあげてきた人脈を活かす時である。
正月に佐和山で、商人達を持て成し協力を依頼してある。
とはいえ、『表だって浅井に味方する』とか、『三好に敵対せよ』などと無粋なことは言わない。
決まり事に、従うのみである。
近年、京のみやこ の平安を 『洛中ご法度』が、守っていた。
『なんびとたりとも、洛中に争いごとを持ちこむべからず』 と云う教えである。
「死に人がたくさん出るような諍いをした御仁には、罰として迷惑料を課しましょう」
つまり、俺たちは、洛中を騒がせた三好に対して、経済制裁を地味に発動した。
上乗せ加算された『迷惑料』という罰金は、『淡海殿』(俺)が一括して運用し、幕府・朝廷の費用に充てる。
これはすでに幕府のみならず、『朝廷も賛同された』ことなのである。
俺の影響で、京の町のみならず堺や淀川筋の支配を終えていない三好には、さぞ頭が痛いことであろう。
義輝公の従弟の阿波公方の一族.足利義栄を14代将軍に擁立したいみたいだが果たしてどうなるのかな?
~ ・ ~ ・ ~ ・~ ・ ~ ・ ~
― 市中にて ―
「淡海殿が、三好に迷惑料を請求されるそうな」
その噂は、瞬く間に畿内各地に拡がった。
つまりは、本当の『将軍殺しの下手人』は、三好であるということを皆が知った訳である。
長政の援護射撃によって、松永兄弟はなんとか汚名を返上し勢力を保つことが出来た。
逆に、三好方は思わぬ逆襲に驚くこととなった。
阿波の皆が、商売あがったりで、慌てふためいた。
「えらいこっちゃ」「えらいこっちゃ」「えらいこっちゃ」「えらいこっちゃ」「えらいこっちゃ」「えらいこっちゃ」
「えらいこっちゃ」「えらいこっちゃ」「えらいこっちゃ」「えらいこっちゃ」「えらいこっちゃ」「えらいこっちゃ」
「えらいこっちゃ!」 「えらいやっちゃ♫」……
「踊る阿呆にみる阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃ損々 エライヤッチャ エライヤッチャ ヨイヨイヨイヨイ」
「ア、ヤットサー ア、 ヤットヤットー ♬」
「ソレソレー♪」
こうして、かの有名な 『 阿波踊り 』 が生まれた。
庶民の文化とは、意外な生い立ちをするものである。
( もちろん、このことを長政は知るよしもなかった……)
畿内の覇権を巡り、『三好方』と『松永方』の静かな争いが、すでに始まっていた。
― 小谷 ―
三好が、覇権を獲得した影響なのか?
えらく、阿波が盛り上がっているらしい。
三好が天下を制して、地元の民衆たちも浮かれているのであろう?
「おそろしい、強敵だな!」
どうやら経済制裁よりも、覇権の獲得の効果のほうがインパクトとしては大きかったようだ。
「今はまだ、うかつに動けないな」
経済制裁が効果を顕すのは時間が経ってからだ、しばらくは様子見に徹しよう。
静かな内乱の幕開けとなった。
三好三人衆には安宅信康ら三好一門衆も加担した。
三人衆が新たに担いだ14代将軍(予定)足利義栄からも討伐令(仮)を出された。
対する松永久秀はすでに、浅井家の仲介を得て、畠山高政・安見宗房と同盟を結び、摂津衆や根来衆とも連携して何とか勢力の挽回を図ろうとした。
しかし、大和国人筒井順慶は、大和を伺い、三人衆と同盟を結んでいた。
篠原長房・池田勝正・別所長治もが、三好側に付き従った。
~ ・ ~ ・ ~ ・~ ・ ~ ・ ~
― 高屋城(義継在中!) ―
高屋城では……密かにはかりごとが進んでいた。
義継の被官である金山信貞が、主君を引き連れ松永久秀へ内応を図っていた。
が、そのはかりごとも、高屋衆に阻止されあえなく失敗してしまった。
~ ・ ~ ・ ~ ・~ ・ ~ ・ ~
『うかつに動いた方が負ける』
みながそう疑心暗鬼に陥り、静かな戦いが進行していた……。
もはや、状況を正確に読み解けるものなど誰も居なかった。
散発的な小競り合いだけが数多く発生し、大規模な戦はみられなかった。
じりじりとした、神経戦、消耗戦、経済戦、情報戦、肉弾戦、が繰り広げられ双方が消耗していくのであった。
無為に大量の兵糧や糧秣と資材が、じわじわと消費されていった……。
三人衆は、新たに担いだ足利義栄を将軍に仕立てようと画策していた。
しかし、御所およびその他の施設の修繕を命じられてしまった。
『将軍になろうとするものであれば、新築はともかく修築ぐらいは出来て当然である』
それが朝廷の答えであった。
まあ、当然であろう。
金のない貧乏な幕府など、どうせすぐに潰れてしまうのだから。
金を無心せずに、交渉の前提条件として”修築”を命じるところが禁裏もなかなか芸が細かい。
金を貰えばそれなりに気を使わねばならないが、修繕ぐらいならば、して当然の案件である。
朝廷が借りを作らずに、強気に要求を通すことが出来るのは、もちろん俺が裏で糸を引いているからである。
三好向けに高騰した資材を、やつらに買って貰えるとありがたい。
手元に集まった朝廷への献上金を無駄に使わずに済んでホクホクである。
別に、ネコババするつもりはないのでご安心を。
浅井が責任を持ってキチンと運用してあげます。
朝廷の財布の紐を握れるのであれば、おやすいご用でございます。
そろそろ弟達にも、御用のために官位をいただいてあげましょうかね。
ついに、『弱小の世界』でも経済戦争が勃発いたします!




