明智十兵衛光秀の仕官
明智光秀、皆さんもご存じであろう?
新九郎時代の長政を振った、イヤな男である。
え?信長を討った?
何のことやら判りませんねぇ。
彼は、タダの浪人です。
一応略歴だ
1528年 東美濃に誕生。
1553妻木広忠の娘婿(後妻)。
弘治2年(1556) 29歳 『長良川の戦い』
明智城、義龍配下の長井衛安に攻撃され落城
土岐の支族であった事は間違い無いようである。
落城の後、彼は一族を引き連れ越前に落ちのびた。
途中、俺が誘いの声をかけたものの、すげなく断られた。
まあ名門土岐氏の流れだし、何かアテがあったのだろう?
数年間諸国を巡った後、朝倉家に仕えたらしい。
とは言っても、名門中の名門の朝倉氏に彼の居場所が在ったとは到底思えない。
譜代 家臣との折り合いも悪かったらしい。
まあこれは、姉の鞠姫が朝倉景晃殿に嫁いだ時に仕入れた情報である。
まあ、奴はいわゆる飼い殺し状態であった。
当然だろう、朝倉にはそれなりに優秀な一族と家臣がいる。
彼も苦労を経て多少は従順になったようだね。
まあ、彼が遊びほうけている間に、俺は官位も得て大名になったけれどね。
つまりは、傷心の光秀をゲット中と言うことだ。
まずは酒盛りで気分をほぐそうか?
俺は光秀に発破をかけてやった。
「男なら、明智城を取り戻せ!!」
俺が核心を突いた。
「うっ、く」
「光秀、お前にだけに話してやる、俺はいずれ美濃を攻めるつもりだ。むろん容易いことではないのは百も承知だ」 光秀の肩に手を回し、機密を暴露した。
「ええっ、ななんと…」
いきなりの機密ばらしにたじろぐ姿は、そこはかと小物感が漂う。
「お前はあるじの敵討ちも出来ない弱虫か?喜べよ!」
「そうではござるが、いきなりで…」
(まあそうだろう。)
「敵討ちをしたくないのか?腐るぐらいなら、のたれ死ね!」
「ご無体な」
「力を貸してやる!領地はやらんが、兵は指揮させてやろう。」
「へ、兵を」
「まずは1000名でどうだ?お前が鍛え、俺にお前の采配を見せろ!
お前は、こんなところで燻っている男じゃないはずだ」
「……」
「道のりは遙かに遠い。すぐに実現するなどと気休めのウソは言わん!
お前が死ぬまでに明智城を取り戻せるのが、精一杯かもしれん」
「……」
「でも、お前本貫の城を息子に継がしたくはないのか?そうでないなら武士などやめろ」
「それは確かに…」
「光秀!『美濃に明智の旗を立てろ、旗印は水色桔梗だぁ~』」
― 翌日 ―
光秀を酔わすつもりが、俺が酔っ払ってしまった。
いらんことは言わなかったと思うが、自信がないな。
(かなり適当なことを言った気がする……。)
日を改め、明智十兵衛光秀は正式に俺の配下となった。
それから半年あまり、光秀と彼の一族は、がむしゃらによく働いてくれた。
雇い入れた兵隊を鍛え上げるのは意外に大変な作業だ、しかしやり遂げてくれた。
それにしても、明智を浅井家に引き込めたのは僥倖だ。
姉の婚儀のために、越前に行った際に俺は光秀に目をつけた。
奴は、朝倉家では燻っていたからな。
『美濃攻めの指揮を任せる』事を餌にした。
なにせ奴は、義龍には深い恨みがあるし、美濃の地理にも明るい。
やはり、勧誘というものは、一旦断られてもお願いし続けるのが大事だな。
それにしても、『美濃に明智の旗』というフレーズでここまで言うことをきくとは……。
当初、すげなく断られた時からは、とても考えられん素直さだ。
よほど苦労したのか、それとも俺の地位や官位が光秀の予想をはるかに高くなったからか?
何しろ、六角軍とガチに当たる可能性がある以上、部隊長を温存するにも限界だったからな。
そして、1560年7月
秘密の西美濃攻略部隊が、脇往還ルートで迂回、逆進撃した。
がら空きの後方、西美濃西部を蹂躙する。
先導として明智光秀が、預けられた1千の部隊を率いている。
「美濃に明智の旗を立てよ」
賢政にそう下知され感涙にむせびながら…
光秀は、「殿の恩義に報いる為、全身全霊でお仕え申さねば」
預かった部隊を的確に差配した。
「やれば出来るじゃん!光秀、これからもよろしくな」
「殿~ぉ ((゜´Д`゜)) 」
今後は、明智十兵衛光秀、竹中重元、半兵衛重虎、を使って美濃に調略をかけてゆく方針だ。
なるべく、他家を刺激したくないが、速やかに地盤を固めないとな。
のちに、『 美濃の二兵衛+1 』と呼ばれる最強戦力は、こうして整った。
彼らは、海北友松以上に扱き使われたという。
― 十兵衛光秀 と その家臣 ―
殿は、新参の我らにまで気前よく温泉を振る舞って下さった。
「ふい~ぃっ 生き返る、極楽だな」
思わずひとりごちた。
「さっぱりしましたね」
光春もいる。
「いや、良い湯でした、疲れが吹き飛びます」
光忠もいてくれている。
激務ではあるが、拙者は今、幸せだ。
風呂上がり招かれた部屋には、豪勢な料理と酒が用意されていた。
拙者は、ほとばしる「感動」を抑えられなかった。
それがし達は、気分良くだらけているのに、殿が気をつかって……拙者は浅はかだった…。
家柄などではない、この気遣いが、大切なのだ。
さっそく我らは、囲炉裏に招かれた。
穏やかに微笑まれる、殿に誘われ、夕食を御相伴にあずかった。
にこにこと食事される殿と、そして、殿のご愛妾『お雪の方さま』だ。
いつ見てもおきれいな方である、殿にまことふさわしい。
囲炉裏で作られる食事は、とてもおいしかった。
楽しい酒宴が続いた。
すると、
「十兵衛ちょっと来い、風呂に入ろう」
私は「殿」に伴なわれ入浴することとなった。
自慢の外湯らしい。
「誰か女性にょしょうが、入っているといいな~幸運助平があるかもしれない」
(えっ、なんですと~?何この展開?)
指を差された先の脱衣籠には、女物の……。
(こっ、これは…襦袢…)
「つまらんことで心を乱すな」
(え?)
「十兵衛、ムキになるな、ここは正しい混浴だ」
(どういうこと、ですか?)
「俺がここにいるのは、あるものを観るためだ」
(嘘ですよね?)
「男なら飲み干せ」
(殿、十兵衛はシュチュエ~ションだけで暴発しそうです!)
くううっ、「長政様」は、普段は声に出して本心を吐露する事もお出来にならないのだ……たぶん。
何と過酷な、殿様生活。
それに引き替え、拙者のなんと未熟なことよ。
なにかは知らんが、拙者も覗きたい(ムフフ)。
ぜひ、随行せねば。
(拙者は心の中で、ひっそりと『我が主君』にさらなる忠誠を誓った。)
外湯には……湯煙が漂い私の視界を遮る、…おおっこれは、……。
― 大露天風呂 ―
そこには、江北の国人連中が月見酒を呑みながら、温泉に浸かっていた。おばちゃんもいた。
「「「「「おお~殿~よくぞここへ来てくだされた、ささ先ずは一献!」」」」」
「皆も知っていると思うが、『十兵衛ちゃん』だ」
「「「「おお、美濃突入の御仁ですな~」」」」
「仲良くしてやってくれ!」
「「「「「お~っ、よろしく『十兵衛ちゃ~ん♡』」」」」」
「よ、よろしく皆さん、明智十兵衛光秀です」
「ささ明智殿、こちらへ」
― 翌日 ―
…はっ! 気付けば、温泉宿の一室で眠っていた。
「おえ~っ、飲み過ぎた。いったい何をやらかしたのだろう?」
『…十兵衛、困った時は、相談だ、いいな?』
殿のこの言葉だけが、スゴク胸に残ってる。
はてな?
明智くんが、仲間に入りました。




