悪堕ちした男、その名は『直経』
特攻隊長の突撃レポート
この春、目出度く『宮内少輔』になられた、『浅井賢政さま』
いつも颯爽と、さりげなく皆を導いて下さる。すばらしいお方だ。
久政とかいう御仁に「喜右衛門尉、観音寺城へ行ってくれ」と、真面目そうに言われた時には、さりげなく葬って、城に火をかけ出奔しようかと思ったものだ。
思いとどまって良かった、六角など「皆」斬り殺してしまいたいが、さすがに手間のかかる願望だと知った。
若君に『あと5年待て』と言われて、希望に燃えて訓練に励んでいる。
その日が、待ち遠しいと思っている。
『若君のお役に立ちたい』という、大それた願望を抱いたものだと思っている。
私には、剣と戦、この身体しかないのだから……。
しかし、殿はそんな私を必要だと言ってくださるのだ。
全力で期待に応えねば
まだまだ戦では役に立たない小姓どもを叩き伏せ、近習を這いつくばらせる。
「これは大切な訓練である。」
「「「「ありがとうございました(喜)」」」」
殿の薫陶のおかげか、皆、希望に燃えている。
やる気が漲っているようだ、感心した!!
楽しい雲雀山の館の生活ではあるが、気になることもある。
それは、「お~い、直経」
「ははっ」
「相談なんだが、……」
「……はあ~」
私は溜息を漏らしてしまった。「奴がいない」
私は弟子とともに、小谷城下の須賀谷に赴き訓練の汗を湯に流した。
「いやはや、いつ来ても温泉は良いな~。」
「ほっこり温まりますねぇ~隊長。」
「うむ、流石は小谷が誇る名湯、極上かげんは日の本一であろう。」
「「「「ですね~」」」」
殿は、またもや気前よく我らに温泉を与えて下さった。
「ふうっ~生き返る」
「さっぱりしましたね」
「いや、良い湯でした、疲れが吹き飛びます。」
「「「「食事が楽しみです!!」」」」
しつこかったもやもやすらも、お湯に溶かして、気持ちよく風呂から上がった。
風呂上がり招かれた部屋には、恐ろしく豪勢な料理と珍しい酒が用意されていた。
私は、溢れ出す「感動」を抑えきれなかった。
いま私は、何をのうのうとしていているのだ。
若君からこんなにも期待していただいているのに……私は未熟者だった…。
この期待に応えたいのだ、行動こそが大切なのだ。
さっそく我らは、広間に招かれた。
穏やかに微笑まれる、若君に誘われ、膳料理を御相伴にあずかった。
にこにこと食事される若と、給仕のお雪、そして、若君のご正妻『縁の方さま』だ。
とても、お綺麗な方だ、殿は誠に幸せ者である。
次々と運ばれてくる料理は、とてもおいしかった。
楽しい酒宴と相成った。
しかし、なぜだかモヤモヤが収まらない。
何故なのだろう?
すると、
「直経ちょっと来い」
私は「殿」に伴なわれ、再び入浴することとなった。
殿自慢の内湯だ、懐かしい。
扉を開け、中に入ると湯の香が漂ってくる。
「誰か先客が、入っているかもしれない」
(えっ、なんですと~またですか?)
指を差された先の脱衣籠には、女物の……。
(こっ、これは…襦袢…腰巻き?)
「つまらんことで心を乱すなっ!」
(え?怒られた?)
「直経、無心になるのだ、ここは混浴だ」
(マジでいいん、ですか?)
「俺がここにいるのは、見張りの為だ」
(訳判りません冗談ですよね?)
「男なら、殻を破れ!一線を越えろ」
(殿ぅ~、直経は何かもう我慢できず暴走しそうです!)
くううっ、「賢政様」は、普段は公平を考え、声に出さない励ましを~。
本心を吐露する事もお出来にならないのに、今だけ、わたしのために……。
何と過酷な、大名生活。それに引き替え、私のなんと未熟なことよ。
穴があったら全力で入らねば。
熱き魂で、突貫(先行)せねば、何が炎の特攻隊長か~。
(私は心の中で、ひっそりと『我が主君』に、来世までの忠誠を誓った。)
内湯には……湯煙が漂い私の視界を遮る、…おおっあれは……。
ザバッ、きゃあああ~っ……。ガン、ドゴン、ガシッ、バキッ。
…はっ! 気付けば、何処かのの一室で眠っていた。
「一体、何があったのだろう?」
~後日~
「ぐぬぬぬ、直経のヤツめ~。」(久)
「ふふふふ」
「まあまあ、目出度い席ではありませぬか」
「……ぽっ」(阿)
「へえ~っ」
「家臣のくせに、事故と称して、娘の裸を見るだけで無く狼藉におよぶとは」
「大殿、狼藉を働いたのは姉さんの方です」(賢)
「……てへ」
「「祝言じゃ!!!」」
「「「「「はいっ」」」」」
忠臣、遠藤直経。
彼は、この日、久政の娘『阿久姫』を娶った。
なかなかのお似合いカップルだと皆が口をそろえて祝った。
彼の出番は、これからだ、活躍してくれ!
遠藤直経は、過激な炎の特攻隊長です。
ですが、『責任を持てる、おとこ』でもあります。
やしゃ君が、「観音寺城に来ては行けない男」と、評しただけのことはあります。
姫を小谷においてくるなんて……
『阿久姫』の旦那になれるのは彼しかいません。
そうですね……、
一番傍にいて欲しい、頼れるアニキ(義兄)です。
『お風呂で裸を見たら、責任とってねっ。』
~ 遠藤直経という男 ~ (完)
突撃阿久姉ちゃん
彼女は、何故に観音寺城下の屋敷に来たのか?
悪堕ちした男、その名は『直経』




