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セレスディア視点



僕の人生の転機は恐らく2度ある。



1度目は、ライリーという孤児と出会ったこと。

そして2度目はその友を失ったことだ。



僕は今思えばそれはそれは、甘やかされて育った。

世間の悪い部分をひた隠しにした綺麗な世界でおよそ愛玩動物かなにかのように、ねこかわいがりされて。


周りの人間は全て味方。

大人は全て、僕の言いなりだった。今かんがえれば随分舐めたガキだが、家族や使用人はそれで満足だったのだろう。


そんな僕が初めて悪意の欠片を目にしたのは、隣国のスパイもどきがダールトンの敷地に迷い込んだ事で、屈強な兄姉たちがそいつを引きずってどこかに消えた時。


それからすぐに僕は姉に連れられ遠い街の別荘に移され、そんなことは無かったかのようにまたぬるま湯のような日々が始まる。

そこでライリーを見つけたのは本当に偶然だったけれど、僕の世界はそれをきっかけにぐるりと変わった。


ライリーという少年はなにもかもが自分とは違って、戸惑ったし憧れた。


彼はひとりで立ち、ひとりで生きていて、そして強かった。

吹けば倒れてしまいそうなほどに痩せて汚いなりをしていたが、どこか生命力に溢れていた。

自分が恥ずかしく思えるほど、彼は逞しかった。

だから僕は自分のぬるま湯のような日常に疑問を覚える。


きっと彼との出会いがなければ、一生わがままほうだいの舐めたクソガキだったに違いない。

だから彼との出会いに僕は心の底から感謝している。



けれど、突然彼は消えた。

というか彼は彼ではなく彼女だった訳だが、ウチのものはこぞって彼女を悪く言った。

僕は彼女を必死に探した。

手掛かりはライリーという名と、金髪と黒い瞳というものしか無かったし、子供の僕においそれと見つけられるほど世間は甘くなかった。



忘れろ、諦めろ、僕には相応しくないとみなが口を揃えたが、僕はライリーを知らないお前らが何を言っているのだと思うばかりだった。

確かに驚きはしたが、納得もしたのだ。だって、それが彼女の生きる術であったのだから。


もう、死んだのだろうと誰もがそういった。

でも、僕は諦められなかった。

どこかで、あの逞しいライリーがそう簡単に死ぬものかと思っていたのもある。とにかく、自分が世界で一番彼女のことを知っていると、そう思っていたしそう思いたかったのだ。


彼女が生きていた時、恥ずかしい自分でいたくはなかったから、ダールトンに産まれた男として家名にも彼女にも恥じぬよう必死で身体を鍛えた。

勿論、勉強だってした。2番目の兄のように脳筋と呼ばれるのはゴメンだ。


親の七光りだとか、コネだとか言われるのも我慢ならなくて早々に家を飛び出して騎士学校に身を寄せた。

むさくるしく、上下関係に厳しく、甘くない騎士学校はそれなりに僕の精神を鍛え上げたと思う。14歳で入って3年間。地獄のような日々だった。



ダールトンで私設団に入るのも手ではあったが、それこそコネだと思われては敵わない。

いずれ、入団するにしろ、騎士として身を立ててからでも遅くはないだろうとそう思った。


死ぬ気で鍛錬をし、どうにか次席で卒業をし、いわゆる出世コースとやらに乗ることに成功した僕はそのまま城の騎士隊に入隊する。


上司は鬼のような男だったし、自分の指導員となった先輩はクズのような男だったが、まあ、騎士としては尊敬できる人達だ。



在学中も、そして3年前に入隊してからも金髪の少女ライリーを探し続けていた僕が、姉から真実を聞き出せたのはたった、2年前である。



姉は未だにライリーを執拗に追い続ける弟をどうにかしたかったのだろうが、逆効果だった。

あの時の姉のもう、好きにしろという死んだ目は忘れようがない。


打ち捨てられたときいて、ああ、本当に死んでしまったのかもしれないと恐怖に駆られる一方で、僕から離れたくて離れた訳では無いのだと知って喜びすらあったのだ。



そして、遂に有益な情報を得たのは、まさか知っているわけがないと高を括っていた物凄く身近な人物だった。

3年間すぐ近くにいて軽口を叩き、僕を鍛えた指導員代わりの先輩。


侯爵家の貴族のその男が知っているとはついぞ思わず、というか、その男が本当にクズだったから僕の大切なライリーの話なんて耳に入れたくなかった訳だけど。

奴の軽々しい口で‘ライリー’と呼ばれるのは虫酸が走る。……先輩なんだけど。

彼に恋愛相談なんて、本当に癪だったし。

なぜ、バレたか、というと。僕の後生大事にしていたあの日の帽子を見られたからである。


洗濯をして磨いても尚、ボロボロで汚れの取れきれない、しかもどう見ても男児用のそれをお守り替わりに持ち歩いていたわけだけれど、うっかり落としてしまって、男色のうえ、少年趣味なのかとやいやいからかわれて、苛立ちついペラペラと話してしまったのだ。



「はぁ?ライリーっていう金髪の少女?そんなのごまんといるだろう。珍しい名前でもあるまいしー、お前もこじらせてんなー。まあまあ、頑張れよー。

……てかそう言えばうちの実家にも居るな。

あれは、男だけど、華奢で顔も案外、綺麗だし一見して本当に女みたいだよなー、なんかいい匂いするし。

……いや、俺はライリーならイケるかも。……乳が無さすぎるが、まあ………てか、男だけど。あ、でも兄貴がやたらと気に入ってるから手を出したら面倒………おーい、アシュレイ?どしたー?」



今までも金髪のライリーの情報は割とあったしある度に少ない休みを利用して飛んで行ったが、悉く違った。

まして、ハインツ侯爵家の使用人らしいそのライリー(しかも男)が彼女である可能性はほとんどないけれど、一応、一応次の休みに向かってみようとそう思った。



結局、休みは急遽飛び込んできた任務で潰れて、終わったのが夕刻、連日の任務に眠たすぎて馬車で行ったのもあり、着いたのは夜中だったが、その男のライリーは僕の探していたライリーだった。


しかも、どういうわけか、ハインツ侯爵家に伺う前にハインツ領の端の森の入口の、廃墟に凭れて何故だか眠ろうとしていた。

というかなぜ、こんなところに。

使用人をしているのではなかったのか。家出でもしたのか、解雇された?まさか、では辞めてきたのだろうか。

まあどうでもいいか。



ハインツ領にいることと、身体の特徴的にどう見てもあの先輩の言う男の使用人ライリー、だと思うのだけれど、何故あの女好きがこのライリーを男だと盲信しているのか不思議でならない。あいつ、馬鹿だ馬鹿だと思っていたけれど唯一の女に関するカンさえ当てにならないのか。

残念でならない。結局あの先輩は女性の乳と臀部にしか目を向けていないということだ。

……いや、別にライリーが貧相と言っている訳では無い。

というかあの先輩いい匂いとか言っていなかったか。どれだけ近づいたんだ許せない、次の鍛錬の時、まじで本気でぶちのめす。



車窓から彼女を見つけたのは本当に奇跡としか言い様がないが、その時の僕の興奮度合いと言ったら筆舌に尽くし難い。



それから、なんだかんだと、どうにか屋敷に連れてきたのが今朝方。


一睡もしていないが、僕はやけに冴えていた。

ちなみにライリーは屋敷に連れ帰った途端、糸が切れた人形のように眠りについた。



「アシュレイ、なんだなんだ、やたらと機嫌がいいじゃねえか」


「あ、分かります?まあ……、」


「なに、なに!まさか、初恋の?あの?!ライリーちゃん!?まじで!」


「煩いですよ、アルフレド先輩、ディートリッヒ隊長に見つかったら先輩のせいですからね」


「大丈夫大丈夫〜てか、まだ勤務時間じゃないもんねー、てかまじかよー!運命的すぎるだろ……!そんなことってある!?

で、で、どうしたの?」


「求婚しました」


「ぶはっ!お、お前!こじらせてんな!」


「あ、ディートリッヒ隊長、アルフレド先輩が巫山戯ています」


「ばっ、おまっ、…!た、隊長、本日も素晴らしい天気ですね、まさにファレス王国の未来を表したかのような晴れやかな青空!本日もこのアルフレド・ハインツ、全力でベルティオラ城を警護する次第で」


「そうか、ハインツ、では武器庫の整理と訓練棟の清掃にあたれ、今すぐに、だ」


「え、えぇ……!」


「ハインツ」


「は!」


僕はもう見慣れたその先輩の後ろ姿を見送りながら、入念に入念に本日の任務の指示書を読み込んでいた。ふむふむ、本日の陛下のご予定と公務は…と。


まったく、馬鹿な人だ。

ああ、見えてディートリッヒ隊長率いる第3王城騎士隊ではぶっちぎりの剣の腕を持ち、全騎士団の中でも一目置かれる存在らしいから、人とは見た目では分からないものだ。

あんなちゃらんぽらんでも、神は長所を与えたもうたらしい。実はこっそりと、尊敬はしている。


「何をしている、ダールトン。貴様もだ。任務の時間には遅れないこと」


「……は!」



………………………前言撤回。あのひとは疫病神か。





みんなだいすきアルフレド様(´ω`)

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