ヘッドハンティング
1549年
「信行の行いを無しにするから、林秀貞と丹羽長秀を寄越せか......。」
「何か気になる事でも?」
「秀貞を引き抜き理由はある程度納得出来るが、直義殿と歳が近い丹羽長秀を引き抜き理由がわからぬ。」
「しかし、越前朝倉家がこの件に関わってくると厄介です。今は穏便に解決を図るべきだと思います。」
織田信秀は家臣柴田勝家の意見に同意しているが、内政官として有能な林秀貞の引き抜きを認めたくなかった。
信行の一方的な行いに対して何もしなければ、越前朝倉家の反感は避けれないだろう。最悪の場合、信行の死刑か織田家から追放も考えられる。被害者の朝倉直義は朝倉家当主からの手紙を持つ使者であった事から、正式な使者に信行が言い掛かりをつけたことになっていた。
信行の処罰が適正である。信行寄りの家臣団派閥の勢力もこれで弱体化するから織田家当主からすると納得出来た。しかし、父親の一面からすると承認したくない事柄であった。正妻の土田御前からも信行の処罰の回避をお願いされてもいる。
「しかし、その二人がそんなにも魅力的なのか......。」
腕を組んで考えるが一国を落とすレベルの魅力はない。ますます、わからなくなっていた。
「殿、早急な判断を。家臣団の引き締めはこの柴田勝家が行います。ですから、信行様の罰を回避するべきです。」
信行の影響で林秀貞と丹羽長秀が朝倉家と引き抜かれたら、家臣の大きな動揺は避けられないだろう。信行の身代わりだと話が漏れる。二人の行動は主家に対する手本となる忠誠心だと一瞬思われるかもしれないが、引き抜き先を朝倉家と知ったらどうなるか。
引き抜いた人物は越前朝倉家当主の実弟の朝倉直義。羨ましい引き抜きとも言える。大国今川家の侵攻を阻む必要がある小国織田家と周りに自国より巨大な国がない大国朝倉家。現代風に言えば、中小企業の有能な社員が大手上場企業にヘッドハンティングされることだ。
この視点から考えると織田信行は織田家から有能な家臣を排出させた人物となってしまう。それと同時に有能であれば、大国からの引き抜きがあることを織田家家臣団は気付かされた。現織田家当主織田信秀の時代であれば、織田家滅亡は考え難い。次期当主される織田信長は奇行が目立つ少年、品行正しい信行は信長に変わる当主と考えられていた。しかし、信行は失態を起こした事で家臣からの期待が得られる可能性が低下するだろう。
そのため、将来の織田家の行く末を心配する家臣達は自信や息子らを他国へ士官させる考えにシフトし始めた。
柴田勝家が家臣団の引き締めを行おうと言っているのは少しでも織田家に対する不安の削減を行うためであった。
「うむ、ならば、秀貞を案内係として城内を案内せよ。」
「なるほど、名案ですな。朝倉殿への返答は2,3日後にするということですな。」
「勝家、一応、丹羽家へ話をしておいてくれ。秀貞はよき家臣であり有能じゃ。元服間もない者よりは十分な働きをしてくれるわい。」
柴田は信秀の林秀貞を残す意見に反対であったが、顔に出すことはしなかった。林秀貞は織田信行を当主に推す派閥の中心的な人物であり、柴田と双璧を成す。今回の件で求心力が低下する信行派閥の勢力拡大を柴田が行えば、信行が当主となったら筆頭家老に任命されること間違いなしである。自分一人で行いたい為、林秀貞が邪魔なのである。
現当主信秀が次期当主と定めている信長を出し抜いて信行が当主になることは波対等の努力で済まされないだろう。だから、最功労者は一人で十分なのであると考えていた。
現当主信秀に林秀貞を手放す気がなくともそうせざる得ない状況の構築は柴田にも可能である。家中で、林秀貞の居場所を無くして朝倉家に仕官させる方法がある。また、誰かをほのめかして暗殺させてもよい。理由ならだれもが納得できるのが今はあるから何の問題もないだろう。
「朝倉殿の会談までには全てを整えておきます。」
「うむ。朝倉殿に家中の娘とでも合わせておけ。年頃の者だから、女子と話せるだけでも満足するだろう。」
残念ながら、桶狭間の合戦まで歴史の修正をする気がない直義はそんな事で隙を見せないはずだ。
「何と揶揄されても越前朝倉本家の者ですから、婚姻関係を結んで損する事は無いでしょう。」
「柴田よ、取っておらぬ獲物を得た気で話を進める事はよくないぞ。まあ、わしも想像はしてしまうがな。はははは!!!」
機嫌が先程より良くなった信秀を見た柴田は、自身の策略の実行を決意していた。今の信秀は全面的に柴田を支持していると思えるからであった。
「景直様、一度当主様に報告しなくてもよろしいのですか?単独で織田家との問題を解決してしまいますと我ら朝倉家が介入しにくくなります。」
「介入したらダメだよ。織田が潰れたら今川が雪崩れ込んでくるよ。肥沃な尾張の大地を手に入れたら、潰す織田よりも大変になるじゃないか。」
光秀の言葉通り家督争いの介入をすることは戦国の常識でもある。だけど、織田家の介入は後々の憂いを残すことになりかねない。数多の強敵を粉砕して戦国最大勢力へと伸し上がった織田信長と敵対することは避けたいのだ。越前の朝倉ならば、1568年頃まで織田の領地と接することはないから、ここは穏便に済ませる。その間に織田が同盟者となりたいと思えるだけの国力をつけることが最優先である。
どちらにせよ、朝倉に天下を取れぬ。景直からみても現当主の兄は判断力に欠ける平凡な大名。自ら国を滅ぼすことはしないが、常識の枠から離れられない人物でもあった。
信長の性格上、使えぬと思った瞬間切り捨てる。逆に利用価値があれば使う。朝倉を自分の陣営に引き込む大きなメリットがあると朝倉を滅ぼす気にならないだろう。半端な国力よりも何かと使い勝手できる国力を保有することが信長上洛までに行うことである。
【織田が今川に大打撃を与えないと朝倉家存続計画が崩壊するだろう!俺が死んじゃうかもしれないんだ!!】
「なるほど、尾張の虎は中々見事な手腕で均衡を維持しておりますな。」
頭の中で東海地方の勢力図を思い浮かべればすぐに理解できる。そのため、光秀は景直の意見を否定しなかった。まあ、景直が面倒ごとを押し付けようとしているのに気づいたのであろう。
「そうそう、朝倉宗滴の爺さんが10年若いならば、介入してもいいけど。兄貴が当主じゃ荷が重いだろうよ。」
「景直様ならば、どうですか?」
「うーん、若狭、北近江、越前、加賀、能登、西越中が限界。その次は最大勢力となった大名と同盟結んで領地安堵で朝倉家は安泰。こんな感じ。」
「上洛はしないのですか?しれっと言いましたがそれだけの国力があれば、畿内三好家とも対等になれます。朝倉家は名門ですから幕府からも重要視されます。」
若狭は武田。北近江には浅井と六角。加賀には本願寺。能登には畠山。西越中は神保。1549年の現在先ほど景直が言った国を治めている大名である。光秀は夢物語だと思える景直の計画に上洛がないことを疑問視している。上洛こそ多くの武士の夢であるからだ。
しかし、光秀は景直の計画を否定しなかった。朝倉ならば隣国を得るだけの国力は保有している。全ては無理かもしれないが一国なら支配下に置ける。このように思ったのだろう。仮に尾張の一部しか支配していない、織田家の立場で言うと奇妙なやつだと思われるのがおちだ。
先ほど述べた大名は史実で織田信長、上杉謙信に滅ぼされる脇役大名とも言える。それだけを支配する期間は1567年まで。1567年は織田信長が1美濃、尾張を支配下に治める。そこから信長の怒涛の進撃が始まる。要は1567年までのボーナスタイムでどれだけ国力増強し、信長に飲み込まれない立場で友好関係の維持する。
「畿内に入るなんてやだよ。そもそも、隣国の加賀を奪ったら本願寺と敵対しちゃうでしょ。宗教派閥との対立が避けられないよ。だったら、畿内を上手に治めている奴と仲良くなったほうが色々と安上がりだよ。」
越前の隣国加賀を支配しているのは本願寺。加賀全土を完璧に支配しているよりも、完全な支配体制を確立する準備している状況だ。ザッと見積もれば、あと10年で支配体制が確立するだろう。
だが、ウラを返せば今だと少ない労力で潰せるのだ。隣国加賀は以外においしい物件でもある。一気に全て支配するのでなく周りと共同で分割して支配。その後、残りの地域も奪えばよい。
畿内では大きな勢力を持ち、容易ならざる相手だろう。地方ならば私利私欲ために動く坊主どもが多く餌を差し出すとすぐに食いついてくるだろう。
【一番最初に潰すなら隣国加賀だよねー。宗教絡みの土地は色々と面倒だし。その点、信長も比叡山焼き討ちとかするから仲良くできるはず!】
そろそろ織田家の話も終了したいな




