66話 行き違い
-----(大島視点)-----
翌日、長谷川さんは戻らなかった。
車が故障した。
コアラが疲れて休んでいる。
色々と理由が上がったが、口には出せない不安が皆の心に広がった。
「ミニバンママさん、どうしたんだろー。何かあったのかな」
何もあってほしくないので誰も口にしなかったが、清みんがポロリと口にした。
「あー、桜さん達もついているから大丈夫だと思うけどな」
「スマホが無いと不便だねー。大丈夫?とかLINEが使えたらすぐに聞けるのに。あ、バンのガソリンが無くなったのか? デスエってガソスタ……無さそう」
「無いな。けど、ガソリンは無くても大丈夫だ。動かしていたのはコアラだからな」
「あ、じゃあ、桜さん達のガソリンが無くなったんだ。あ、空腹って事だからね」
いや、清みんに言われなくても皆わかってると思うぞ?
「予定だと、俺たちが今日出発だったよね? 避難民を仏間に乗せて」
「ああ、けど、延期にしたみたいだ。さっき、3佐が伝えに来た。長谷川さんが戻るまで待つってさ」
「そっか……。そうだよね。さらなる不明者が出たら怖いもんな」
さらなる不明者って、次に出るのが俺たちなら行方不明になるのは俺たちって事だぞ?
先日の迷宮の件もあるし、この世界を舐めたらダメだ。慎重に進めた方がいい。せっかくここまで生き残ってきたのだ。ここで死にたくない。
この日、日が暮れ始めた頃に長谷川さんが戻った。
長谷川さんはニッポンに引き渡した重症者の代わりに、徒歩で向かった5人の隊員のうち、ひとりを乗せて戻ってきた。
避難所の自衛隊が騒がしくなり、すぐに俺と清みんも呼ばれた。
話を聞くと、長谷川さんが重症者をニッポンに落としてこちらへ戻る途中の森で自衛官達に出会ったそうだ。
隊長や清みんと俺が行方不明の話を聞き、彼らをバンに乗せて、またニッポンへと逆戻りした。
ニッポンの本部でその話をした後、四人は残して一人だけ乗せてニッポンを出発、ここへと戻ってきたので、予定よりかなり遅くなってしまったそうだ。
まさか、俺らが無事に脱出をしていたとは思わず、ニッポンから救出隊が派遣されたそうだ。
「救出隊? どこに?」
「迷宮だそうです」
「迷宮……? どこの?」
「あそこの」
3佐が指した方角、俺たちが3日前に四苦八苦したあそこか?
「ニッポンからあの迷宮に? どうやって?」
清みんがポカンとした顔で聞き返す。
いや、俺らは何となくその答えを知っている。
「ニッポンから、地下を通って。迷宮に向かうそうです」
3佐が眉間に皺を寄せている。まさかこんなに早くニッポンの自衛隊の本部が動いてしまうとは。
連絡が取れないのは本当に不便だ。こちらは無事だったと知らせたいのに出来ない。
「もう出ています。地下をダイソナーで移動すると言っていました。」
「と言う事は、俺らが急いでニッポンへ伝えに行っても、またしても完全に行き違いになるな」
「ええ、その頃にはもう迷宮へ潜り始めているでしょう」
「けど、地下10階層あたりは魔物も弱いでしょう?」
「はい。とは言え、大島氏の完全防御も清見君のポヨン氏達と言う前衛もいません。どこまで通用するか」
「だな……。迷宮へはせいぜい1〜2階層ほどしか経験していないよな。それも一番弱いと言われてもいる階層だ」
誰もが無言になった。
「行くしかないじゃん?」
清みんがさも当たり前と言わんばかりに自然に口にした。
たぶん、皆が言いたくて言えなくて口を結んでいた一言。
「地下10階か何階かわからないけど、そこから自衛隊の人達が上がってくるんでしょ? そしたらこっちは上から迎えに行って、どこかで合流だね」
怖がりのくせに不思議だ。強くて自信があるから出た言葉ではない。
清みんを見ると武者震いなのか肩を震わせていた。腕に蕁麻疹も出ているぞ?
「うわっ、鳥肌でちゃった」
蕁麻疹じゃなくて鳥肌か。いや、蕁麻疹だろ? 擦ったとこが繋がったぞ?
3佐や自衛官達が俺と清みんに頭を下げた。
隊員のひとりが何処かへいったかと思うと直ぐに戻って来た。手には何かの塗り薬を持っていた。
ほら、やはり蕁麻疹だった。我慢して頑張っているけど清みんはきっとかなり無茶をしているのだろう。
「ニッポンへの避難民の護送は少し延期にいたします。まずは迷宮であちらの隊員達との合流を図ります」




