28話 清見の決意
-----(清見視点)-----
今朝、仏間に居た男性達は、森のもっとずっと向こうから来たそうだ。そしてそこには避難民達がまだまだ大勢いるそうだ。
ふたりの痩せ具合から、かなり切迫した食糧事情と判断した自衛隊により、救助ツアーが組まれた。
わかってる。わかっていたよ? 俺と大島氏がツアーに組み込まれるって。助けられるなら助けたいと思ってる。
ただ、ねー。………歩きなんだよね。
俺、この世界に来てから、地球にいた27年間より歩いていると思う。
今の俺はもう『引きニート』ではない。『歩きニート』だ。
自分の足元を見る。俺は運動靴を履いていた。誰かの。
そう、この世界に来た時に仏間で掃除中だった俺は、自分の靴がなかった。転移したのは仏間だけで玄関はついてこなかったんだ。
それで最初の頃は押入れから出てきた足袋とか草鞋を履いていた。
でも機体ママさん達と合流してから、居なくなった乗客の置き去り荷物から靴が出てきたんだ。
「何で靴? 旅行って靴を持って行くもの?」
「ああ、ほらこれ。スポーツウエアも入ってるからそれ用に一式持ってきたんじゃない?」
「貰っとけ、清見」
あまりスポーツをしない俺は、ソレ用が何用かわからないけど、ありがたく頂戴した。
『傷つけ復活』の謎仕様が発覚した時は、寝る前に運動靴に傷を付けてみた。翌朝、機体の荷物の中に靴が増えていた。
今日着ている服も、その時に貰ったスポーツウエア上下だ。うちの押入れから出てきた和風なやつは着慣れないせいか、気がつくと着崩れしてしまっている。昔の人は凄いな。あれ着て生活していたんだよな。
小学生の頃だったか、家族でどこかの温泉に旅行に行った。あの時、寝る前に来た浴衣が、朝起きたら帯だけになっていた。兄貴も似た感じだったな。
昔の人も皆、朝起きたら帯だけになってたのかな? だから和服が廃れていったのかもしれない。
そうだ、あの朝、帯とパンツだけになった兄貴と俺を見て両親が大爆笑していたっけ。
家族が元気で居た頃の記憶、思い出すとちょっとだけ目に涙がたまってきてしまった。慌てて目を擦った。
「大丈夫か? 清みん……」
しまった! 大島氏に見られた。
「違うよ、何でもないから。お、思い出し泣きだから!」
「…………珍しいな。思い出し笑いってのは聞いた事があるが」
「えっ、だって悲しい事思い出したら悲しくなるでしょ? 思い出し笑いと一緒だよ。その……昔の事、両親の事思い出した。ごめん! みんなだって悲しいのを我慢してるのに。よっし、うん、頑張るぞ」
列は静かに森の中を進んでいく。今までも何度もしてきた。
森の探索や引越し。慎重に慎重に、前の人を見失わないように。と言うか俺の横を大島氏が歩いてくれるのでありがたい。完全防御のボックスの安心感はある。
けど大島氏は、時々、自衛官に呼ばれて俺の側を離れる事がある。そんな時は大抵絹田3佐も一緒にいなくなる。まぁひとりで森に置いていかれるわけではないのでいいけどね。それにポヨン君達もいるし。
どうも進む方向の話し合いとかがされているみたいだ。
ええと今朝会ったふたり。乃木さんと杉田さんだっけ。今は名前を覚えているけど明日以降は無理かなぁ。
だって到着した先にも自衛隊や民間人が大勢いるんだろうなぁ。
俺、小中高と友達は少ししかいなかったし、大学はほぼいなかった。
『友達100人出来たかな』とか言ったやつ誰だよ!
ふざけるな?出来るかよ!
100人とか小学校だと3クラス分じゃん。
思い出した。小4の時に隣の席の深田と、登校班が同じだった山下が俺を挟んで「お前、どっちの友達だよ!」と俺を取り合って喧嘩をした。
だが気がつくといつの間にか深田と山下が親友になって俺から離れていったっけ。
あれは衝撃だった。人間不信はあれが始まりだったかもしれない。
結局その後卒業までNOフレンドのままだったな。
中学がアイツらと違かったのが救いだった。
大島氏が戻ってくるまで、そんなどうでもいい過去を思い出していた。
止まっていた隊列が進み始めたようだと思ったら、大島氏と3佐が戻ってきた。
「彼らの避難所は森の中でも幾つかに分かれているそうなんだが、本営はここから遠い。なのでまずは近い場所から食糧を届けながら進んで行く事になった」
「本営?」
「ああ、1番大きい避難所でうちで言うとこの本部みたいな感じだそうだ。電車が2両繋がって落ちているらしいぞ。そこに民間人が125名と自衛隊員が32名いるみたいだな」
「電車2両……民間人はそれに乗ってた人?」
「乗っていた方もいらっしゃいますが、その後に救助されて来た方も多いようです。一番大きい避難所がそこだそうですね。ただここからはかなり距離がありますし、途中で野営になります」
「清みんさぁ、あまり長期間だと仏間のスキルが消えたらまずいだろ? だから、ここから近い場所を2ヶ所ほど訪ねた後に清みんは引き返したほうがいいって話になった」
「俺も一緒に戻るって話も出たけど、防御もスライムも無しだと流石に危険すぎる。何が起きるかわからないし地上は危険だとデスエでも散々聞かされたからな」
「我々も慎重に進みますし大丈夫ですよ」
3佐は俺が引き返しやすいように穏やかに言ってくれたが、きっとそんなに生易しいもんじゃないんだろうな。
杉田さんや乃木さんの話でも、それ以前に遺跡に避難していた自衛隊の話でも、かなりの隊員達が犠牲になったって言ってた。
「あ、ほら。うちの隊にもスライム持ちは出ましたし。大丈夫」
どんなに危険でもそこに救助を待つ人が居たら、自衛隊は向かわないわけにはいかないのか。
今、この世界はもう日本ではないのに?
何で日本人はひとりで幸せになったらダメなんだ?
うん、わかってる。俺も自分だけ幸せになってもそれは幸せに感じないから。
「あ、じゃあさ。…………その、仏間、持ってくる?」
ああ、言っちゃった。自分で自分の首を絞めた俺。




