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37話 相変わらず悩んでいるオッチャン


 霞ヶ浦ニワノファーム



「私も毎日ヒメの様子を見に来るから、世話してくれる人の言うことをちゃんと聞いて、良い子にしておくんだよ?」


「ひん」



 ワイの様子を毎日見にくるだなんて、田中さんも気合が入ってまんなぁ。

 まあ、田中さんにとっても、ワイは金の卵を産むもとい大金を咥えてくる貴重な競走馬だから、最重要のお馬さんにランクアップしたということやね。


 なんといっても、ワイは国際GⅠレースであるUAEダービーの勝ち馬やからな!

 まあ、UAEダービーのレーティングがどれぐらいの高さで、どれほどの価値があるレースなのか? そこまでは知らんけど。



 UAEダービーが終わってからも、ドバイに三日滞在してレースの疲れを取ってから、ワイは貨物室の住人となって日本への帰国の途に就いたのであった。

 レースの疲れを取るとか癒やすとはいっても、ワイはべつに疲労とか感じなかったのだけどな。


 ワイがレース後にも拘わらずケロッとしているので、オッチャンも田中さんも驚いていたけどな。

 まあ、直ぐに長時間空輸するのも馬に疲労を与えることになるので、一応念の為ということなんだろうね。


 それで、日本に帰国してからのほうが面倒だったわ。検疫のために10日もの間、外界から隔離されてしまったのだ。

 まあ、隔離とはいっても白井の競馬学校にだけどな。


 日本から出国する時には大した検査もなかったのに、この待遇は解せぬ。

 ワイは天下の海外国際GⅠ馬なんねんで!


 きっと家畜伝染病の予防措置とか、そんな感じでの隔離措置なんだろうな。

 どうやら国の検疫には、GⅠ馬の肩書きも通用しなかったみたいである。


 ……無念でござる。

 所詮、ワイは家畜ということなんやな。


 そして、10日間の検疫期間が終わって、独房じゃなくて隔離されていた競馬学校の検疫厩舎から、霞ヶ浦ニワノファームへと移動してきたというわけであった。

 次にワイが走るのがどのレースになるのか、ワイもまだ知らされていないけど、二~三週間はゆっくりさせてもらえそうな気配なので、のんびりとリラックスして羽を伸ばすことにしよう。




 ※※※※※※




 美浦トレーニングセンター



「うーん…… オークスにするかダービーにするのか、はたまたマイルカップからダービーは、さすがにマイルカップが急仕上げになるから無しだな……」


「ストロガノフの調教終わりましたー」


「美雪か、ご苦労さん。ストロガノフはどうだった?」


「一度叩いたことで確実に良化はしていますけど、勝ち負けとなると相手次第でしょうね」


「山藤賞を勝てれば、ダービー最終便のトライアルには間に合うか」


「仮に山藤賞で負けたとしても、プリンシパルステークスなら一勝馬でも出走できそうな気もしますが」


「プリンシパルは例年あまりフルゲートにならないからな。ああ、そうだ。そのストロガノフだけどな、次走は美雪に乗ってもらうからそのつもりでいてくれ」


「私がですか?」


「ストロガノフの調教を付けているのは美雪だし、クセも把握しているだろ?」


「ストロガノフのクセは把握していますけど、まだダービーに出られる可能性があるのに、よく私が乗ることを馬主さんが許可してくれましたね。ヒメのオーナーである庭野さんじゃあるまいし」


「美雪のUAEダービーでの騎乗を見て、一皮むけたと感じてこれなら美雪に任せても大丈夫だと、オーナーも判断したのだろうな」


「ヒメのおかげでしたか。私はただヒメに掴まっていただけのような気もしますし、私なんてまだまだですよ」


「ヒメのおかげだったとしても、もう既に美雪には海外GⅠ勝ちの実績があるということだな。いよっ、ダービージョッキー!」


「先生、恥ずかしいからやめて下さい。それに日本ダービーを勝ったとかじゃないと、なんとなく違う感じがしますよ」


「まあ、日本の競馬界でダービーといえば、東京優駿だからなぁ」


「まさか先生は、ヒメの次走がダービーとか言わないですよね?」


「うーん…… 牡馬相手の2400はさすがにヒメでも厳しいよなぁ」


「え? ダービーも選択肢の一つとして先生が考えているということは、もしかしてヒメの次走ってまだ決まってなかったんですか?」


「オーナーからは、オークスやダービーに絶対出走しなければダメとかまでは言われてないんだよなぁ」


「だから、先生は悩んでいると?」


「まあそういうことだ。オーナーから出走させるレースを明言されたほうが、こっちとしては、そのレースに照準を絞って合わせられるから楽なんだよな」


「どのレースを使ってくれとか、あれこれと注文する馬主さんが多いですもんね」


「もっとも、楽ばかり考えるのは調教師の矜持としてどうかとも思うがな」


「私はてっきり、関東オークスからダートダービーだとばかり思っていました」


「まあ、その路線であればヒメの実力なら、ほぼ勝てるとは思うがな」


「中央に比べると少し賞金が安くなりますけど、勝ちやすそうですもんね」


「だが、残念ながらもそのローテはなしだ」


「芝に戻るのですか?」


「これから全くダートを使わないというわけではないがな」


「まあヒメは芝でも走りますから大丈夫だとは思いますけど、ここまでダートで実績を上げているのに路線変更とは、もったいない気もしますね。なにかあったのですか?」


「オーナー曰く凱旋門賞に登録しておいて欲しいとのことだ」


「凱旋門…賞? ロンシャンでやるあの凱旋門賞ですか?」


「その凱旋門賞だな。というか、それしかないだろう」


「ですよねー。それにしても、凱旋門賞ときましたか。私なんか考えたこともありませんでしたよ」


「あくまでも、今の段階では登録だけだぞ?」


「もし出るとしたら、私が凱旋門賞でヒメに騎乗するのですか?」


「仮に凱旋門賞に出走することになったとしても、鞍上は未定だな」


「ですよねー。いくら庭野オーナーがお人好しとは言っても、さすがに凱旋門賞では乗り換わりさせますよね」


「日本人のトップクラスの騎手のお手馬だったとしても、凱旋門賞では地元のフランス人や他の欧州の騎手をテン乗りさせたりもするから、美雪がヒメに騎乗できなかったとしても悪く思わないでくれよ」


「それぐらいは、私でもちゃんと弁えていますので大丈夫です」


「すまんな。国内のレースは美雪が鞍上のままだから、それは安心しろ」


「わかりました。でも、まだヒメは芝で未勝利なのに凱旋門とは、オーナーも思い切りましたね」


「凱旋門賞に出走するとすれば、55kgで出られる三歳の今年しかチャンスはなさそうだとオーナーは言っていたし、それにはワシもオーナーと同じ考えだ」


「来年以降古馬になったら、凱旋門賞は牝馬でも58kgを背負うのでしたっけ?」


「ああ、四歳以上の牝馬は58kgだな」


「ヒメは馬体が小さすぎますから、カンカン泣きする可能性は否定できませんよね。だから、挑戦するのであれば今年ということでしたか」


「五月の半ばまでに出馬登録しておかないと、それ以降では登録料が15倍近くは跳ね上がるから、とりあえず登録だけはしておくということだろうよ」


「あー、海外の伝統ある大レースって登録料が高いですもんねー」


「日本円で1500万とか2000万もするからな」


「それぐらいするならば、100万ドブに捨てたほうがマシだということですか?」


「マシではあるな」


「お金持ちの考えることは理解できません」


「今のままだと芝のレーティングがないに等しいから、登録馬が多ければ弾かれるはずだけどな」


「だから、凱旋門を見据えて芝に戻るということでしたか」


「それもあるだろうし、ヒメにとっては一生に一度しか上がれない晴れの舞台だから、クラシックを走らせてあげたいというのもあるのだろうな」


「つまり、ヒメの次走はオークスかダービーに出走するということですね?」


「ヒメの調子を見ながらにはなるけど、おそらくはオークスになるだろうな」


「ダービーに挑戦するよりも、オークスの方が妥当な選択ではありますよね」


「なんだ? 美雪はミストラルプリンセスでダービーに出たかったのか?」


「いえ、まだ50勝そこそこの新米騎手がダービーに騎乗するとか、恐れ多いですよ」


「サウジとUAEでは、ヒメでダービーに乗ったじゃないか」


「あれは海外でダートだったから、日本のダービーを乗るのとは、また違うといいますか……」


「日本のダービーを乗るよりも貴重な経験だったと思うがな」


「あまり深く考えないで乗ってました」


「まあ、それが美雪の長所だと思うぞ」


「深く考えないのが私の長所ですか?」


「そう、長所だ」


「あまり褒められるような要素の気がしないのですけど……」


「美雪が考え過ぎて緊張から自滅するような騎手であったら、ワシもヒメの主戦に美雪を推すことはしなかっただろうしな」


「そうだったのですか。知りませんでした」


「それにさっきも言ったが、もう美雪はダービージョッキーなんだよ。まあ、日本じゃないから一応ではあるけどな」


「一応の肩書きとしてはそうなるのでしょうかね? あまりピンときません」


「ははは、それが美雪の長所に繋がっているんだよ」


「先生、もっと分からなくなりました」


「いや、美雪は分からないままでいた方が伸びるから、そのままでいいぞ」


「わかりました。先生がそう仰るのであれば、深く考えないようにしときます」


「それでいい。美雪は直感タイプだからな」


地の文さんも放牧中…

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― 新着の感想 ―
[良い点] 正真正銘のGⅠ馬になったので、公爵家三男並とは行かなくても馬の中では最上位の待遇になったのですね。 オークスはヒメが出走したそうにしてましたし、気合を入れて走ってくれそうですね。 [気にな…
[一言] 凱旋門賞に行くのなら,英国ダービー→KG6th&QES→凱旋門賞の欧州三冠ルート? 私個人は前々から欧州の芝で日本馬を走らせるのなら,オールウェザーでよく走る脚質のステイヤーが一番適してい…
[一言] あらら、ダービー回避のオークス路線ですか。 ちょっと残念です。
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