【後日譚】第5話 父は曽祖父になる
シロと魔女が、行く先々で、獣化出来る子供達を預かってくるとは、私は思っていなかった。シロと魔女は、預かった子供達と自分たちの子供達を、別け隔てなく育てながら各地を旅した。
完全に獣化出来る子供は、力が強く、育て難いと思われていた。獣化するような子供が生まれるのは貴族の血筋だけだと、信じられていた。
大家族で旅するシロと魔女の姿に、かつて当たり前と思われていたことは、迷信となっていった。
預けた子供が元気に育つ様子に、一度は育てられないと、シロと魔女に子供を預けた親たちが、自分たちの手元で育てたいと言うこともあるらしい。
「そんなときはどうする。せっかく育てた子供達だろう。懐いているのに、手放すのは惜しくないのか」
冬の間、シロと魔女と子供達は城で過ごす。私達夫婦は、雪に閉じ込められる冬の間、育ての御祖父様、育ての御祖母様と呼んでくれる沢山の子供達と過ごすことを楽しみにしていた。
「旅をしていますから、また会えます」
シロと魔女はそう言って笑った。二人の言葉どおりだったというべきだろうか。二人の元から巣立った子供達が、冬に城を訪ねてくることもあった。
シロと魔女は、子供達に二人が知ることを、惜しげもなく教えた。シロが子供達を戦士となれるように育てる分にはかまわない。
問題は魔女の知識だ。
「魔女の知識は、魔力を持つ子供に引き継がれるものではないのか」
私の言葉に、魔女は首を振った。
「魔女が魔力を持つ子供だけに知識を引き継いだ理由は、魔女の知識に魔力が必要だからではありません」
魔女の言葉は、私には思いがけないものだった。
「人族の中で、魔力があるものは稀です。大多数の魔力がない人族から身を守るため、魔力がある人族は、自分たちと同じ魔力があるものにだけ、知識を伝えました。魔力を持つ人族を殺せば、有用な知識を持つ者が居なくなります。知識で数に対抗するため、魔力がないものには教えませんでした。魔女はそうして魔女になりました」
魔女は微笑んだ。
「ここでは、魔女は大切にしてもらえます。私は生きていけます。魔女を守ってくれた知識は、これから、魔女を守ってくれる人々を、守ってくれます」
私は、我が領地に生きる我が民を、誇りに思った。
魔女に、領内に散らばる薬草の知識を集めて欲しいと頼んだのは、半ば思いつきだった。魔女が、城で落ち着いて暮らすことは出来ない、魔女とは旅をするものだと言い、出ていこうとしたからだ。
獣人として、幼すぎる末息子は手元に置きたかった。魔女とは旅をするものだという魔女を、城に縛り付けることは難しいとリンクスは言った。リンクスは、魔女を絶対に閉じ込めてはいけないと、主張した。魔女が、火打ち石を使わずに火をおこすのをみて、私もリンクスの意見に従うことにした。
問題は、魔女が第一の、末息子だった。
旅立った魔女が、城に必ず帰るとわかれば、末息子は城から飛び出すことはないはずだ。魔女が城に帰るようにするには、任務を与えれば良いのではないかと私は思いついた。私は前々からの懸案の一つを、魔女に丸投げした。
魔女とシロは、私が予想もしなかったほどの、成果を上げてくれた。
シロと魔女の子供達と、二人が引き取って育てた子供達の多くは、薬師となり、各地で暮らし、弟子を育てている。周囲の領主からは、我が領地の薬師に、薬師を弟子入りさせて欲しいと、申し入れがある。シロと魔女の子供達、私達の孫の中には、近隣の領地に薬師として招かれて旅立った者もいる。血の繋がりの有無にかかわらず、孫たちが城に送ってくれる手紙が、私達夫婦の楽しみだ。
「シロと一緒に、ここに来て良かったです」
魔女の言葉に、魔女を抱きしめていたシロが満足気に笑った。もうすぐ二人には初孫が、私達にとっての曾孫が生まれる。
「孫の名前、どうしようか」
「両親に決めさせてやりましょうよ」
「うん」
あいかわらず甘えた口調のシロも、とうとう祖父になる。私は感慨を噛み締めた。
<後日譚 完>
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