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本物の聖女が現れたので、ニセ聖女のお前はもういらないと辺境に追放されてしまいました  作者: 南野 雪花


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第27話 聖都に戻ろう


 騎士ジルベスなんかパンチ一発でギャグド(大イノシシ)を倒しちゃったけど、あんなこと普通の人間にはできない。


 そもそもパンチ一発で倒せるような相手をモンスターとは呼ばないわけで、完全武装の兵士が五人ががり十人がかりで戦うような相手なんだ。


 ていうか、戦闘訓練を受けてない素人なら、ゴブリン相手だって苦戦する。

 もちろん私も魔法なしだったらゴブリンをやっつける自信なんかないよ。


「たとえば、ガラポンの部隊はオーガーチャンプとか地竜とかで編成されてたじゃん」

「だから、ガラゴスですって」


 かたくなに憶えないな。こいつ。


「ガラポンでもガラゴスでもガラポンゴスでも一緒さ。ともあれ、並の軍隊が戦える相手じゃないよ」


 ブラインが両手を広げてみせる。

 普通のオーガーだって倒したらオーガキラー(鬼殺し)の称号が奉られるくらいだからね。その最上位種をやっつけたら、もう伝説だよ。


 それが五十近くいたわけで、メイファスのホーリーサンダーが一撫でしなかったら、月影騎士団だって無傷では勝てなかったかもしれない。

 そんな軍団が四方八方に散ったとすれば、事態は笑って済ませられる範囲を簡単に超えてしまう。


「ガラポンゴスは四魔将とか名乗ってたから、他には三人いるんじゃないかなってのが最良の予想だね」

「それが三方ですか? なら八方向ってのは?」


「予想の最悪。四魔将の他に五虎将とかいるかもって可能性さ」

「それだったら十二人衆とか二十四将か、いくらでも作れそうですけど」


「さすがにそんなに指揮官級は現れないと思うよ。じっさい、使えないと判断されて捨てられた魔物がコロナドに向かってきていたわけだし」


 肩をすくめるブライン。

 騎士団随一の知恵者が読んだ最悪は、指揮官級が八人もいてそれが全然別の方向に進軍してるというものだ。

 そんなことになったら、現実問題として対処のしようがない。


「厳しいですね……」

「だから善後策が必要なのさ。なあ団長」


 そういってブラインが振り仰げば、アイザックが重々しく頷いた。






 月影騎士団は強い。

 そりゃもう一騎当千とか万夫不当とか、そんな表現が違和感なく当てはまっちゃう人々だ。


 彼らを手伝うメイファス親衛隊だって、実践で鍛えられまくっているから、並の軍隊なんかより全然強くなった。


 根源的な戦闘力では頭おかしい騎士たちには及ばないけど、コンビプレイでオーガーを倒せるくらいにはなっている。

 オーガーに二人で勝てるってのは、わりかしやべー強さだったりするのだ。


 そんな軍隊は滅多に存在しない。

 しかし明確な弱点もある。

 数が少ないことだ。


 月影騎士団十三名、メイファス親衛隊三十二名。

 これですべて。


 五十人足らずで戦争ができるかって話だ。


「聖都に事の次第を報告し、善後策を練らなくてはいけないだろう」

「ええぇぇぇ……」

「げー、やだなぁ」


 私とメイファスはすごく不本意そうな表情をする。

 現聖女のメイファスにとっては、いろいろやらかしちゃった場所だ。いまさら帰りたくないだろう。


 私だって、どの面下げてって気分だ。

 追放されて去った場所だもの。


 旅立ちのとき涙ぐむ家人たちに、もう二度と会うことはないだろうからって、一人一人に挨拶したんだよ? あの感動のシーンをどうしてくれるのよ。

 気まずいなんてレベルじゃないじゃん。


「そういう個人的な事情には、この際は目をつぶってもらうしかないな」


 アイザックの苦笑だ。

 まあこの人もっていうか、コロナドにいる連中ってのは組織の中で生きにくかった人たちだからね。


 清廉潔白すぎたり、優秀すぎたり、剛勇すぎたり、あるいは民からの人気が高すぎたり。

 とにかく王国上層部にとっては扱いにくかった。


 非常に悪い言い方をすると、殺してしまった方が良いって賢しらに忠言する佞臣がいてもおかしくない。

 そうならなかったのは、左大臣マーチスが彼らの才を惜しんだから。


 政争の場から最も遠いコロナドで自由に過ごさせた方が良いって考えたんだろう。きたるべき時にその才能を発揮してくれ、と。

 で、いまがきたるべき時ってやつだ。


「ゲートとやらを破壊した以上、コロナドの地を守る意味はない。一刻も早く危機を聖都に伝え、次の手に移るべきだろう」


 それすらすでに遅いのだが、と付け加える。


 すでに魔王軍は動いているのだ。

 三方向か八方向かわからないが、それらがどこに向かったのか探る手段はない。

 ゲートがどこにあるという情報すら、私たちは持っていないのだから。


「てことは、全員で行くんですか?」

「ダンブリン卿と護衛だけ残して、というのは意味がないからな」

「や、それはそーなんですけど……」


 むうと私は右手の人差し指を唇に当てた。


 やばいんじゃないかなあ。

 ベルズの奇跡なんて呼ばれたような英傑であるダンブリンが、新旧の聖女二人と月影騎士団とともに聖都に上る。

 なんか、ふつーに反乱とか疑われそうなんですけど。


「ユイナール嬢は心配性だな。魔王復活が確定となったいま、反乱など起こしている場合ではない。そんなことは子供でも判るだろう」


 快活に笑うアイザック。


 そうだった。

 この人は誠実で一本気な騎士だった。

 聖都の王宮に巣くう魑魅魍魎どもの思考法なんて、異次元なんだろうなぁ。


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